「銀翼の魔術師」編
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card.271
「ちょっと、快斗!一体どうする気なの?」
乗客達は1階に移動したため、誰もいない2階席。その通路を早足で進んでいく新庄に追いついた名前は、思わず快斗の名前を呼びながら声をかける。
「おっ、名前来たか!」
「来たかって…快斗が呼んだんじゃない」
「あの短時間で、目だけで俺の言いたい事が分かるなんて…さすが名前ちゃん!!」
「………はぁ」
こんな状況でも、いつもと調子の変わらない快斗。そんな快斗の相手をしていると、名前自身の緊張感もいつの間にか解れていき、自然と肩の力が抜ける。
「………なあ、名前」
しかし、2階席の非常扉の前でピタリと足を止めると、快斗はふいに真剣な口調に変わる。
「オメーも見ただろ?さっきの埠頭の様子」
「……ええ」
「あの状況じゃ、おそらく着陸は無理だ」
「………。」
言いにくそうに快斗が告げた言葉に、名前も小さく頷く。認めたくはないが、確かにあの状態の埠頭に素人が着陸させるのは難しいだろう。
「……名前、何かにつかまれ」
突然そう言うと、快斗は非常扉の開閉スイッチを押してボンッと勢いよく扉を叩く。
---ゴォォォ!
すると、非常扉は大きな音をたてて外れる。そして、飛行中の風圧により吹き飛んだ扉は、あっという間に夜の闇に消えていき、機内には勢いよく風が吹き込んで来る。
「…キャッ!」
名前は、その風圧に一瞬目を閉じて視線を下に向ける。
「快斗、いったい何を………!!」
バサバサと揺れる髪を掻きあげながら、ゆるりと目を開くと、先ほどまで"新庄″の姿だった目の前の人物は、純白の衣を纏う白き怪盗の姿に変わっている。
「……かい、と?」
「俺は…あの埠頭に、この機体を導く光を作りに行く」
「光…?」
名前はキッドと会話をしながらも、白いマントを靡かせて微笑みを浮かべるその姿を、無意識に目に焼き付けるように見つめる。
「ああ…全員が助かるには、それしかねぇからな。そして今それが出来るのは俺だけだ…」
「…そうね」
(……この状況でも、もし快斗だけでも助かるなら…)
考えないようにしていても、この状況では名前の脳裏に最悪の結末が思い浮かんでしまう。しかし、それでも何故か穏やかな気持ちで目の前のキッドを見つめることが出来る。
(もしかしたら、これが最後になるかもしれないけど、最後に見る姿が…変装してる他人の姿じゃなくて良かったわ)
「なぁ……名前」
「…何?」
「嘘だと思うか?…俺が言ってる言葉」
「………。」
("光″を作る……普通に考えたら、そんな方法があるとは思えないけど、快斗なら……きっと)
「…ううん。快斗は、いいえ…怪盗キッドに出来ない事はないはずだから」
名前は、自分を見つめるキッドに笑顔でハッキリとそう返す。
「快斗は、自分だけ1人で逃げ出すような人じゃないから。私は信じるわ…快斗の事」
「………そうか」
キッドは、名前の言葉を聞いて安心したように小さく笑う。そして、大きく息を吐き出すと、名前を真っ直ぐ見つめて口を開く。
「………だったら、」
「?」
-----ゴォォォ!
わずかに沈黙の中、勢いよく吹き込む風の音と、バサバサと揺れるキッドのマントの音が2人を包む。
「だったら……俺と一緒に来てくれ、名前」