「銀翼の魔術師」編
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card.258
「まず…伴さん。彼は今度の劇の演出家を兼ねていましたが、実際の演出はほとんど座長の樹里さんがやってしました」
なつきは立ち上がって、伴にチラリと視線を向けながら話しはじめる。
「………。」
なつきの話しはじめた内容に、伴は気まずそうに視線を逸らす。
「元々、樹里さんを女優として育てたのは彼ですが…今では反対に樹里さんに逆らう事が出来ない。そんな伴さんを、夫人の天子さんがきつくなじっているのを私は何度も見ました…」
「………。」
伴の隣に座る天子も、気まずそうに目を閉じる。そんな中、なつきは視線を成沢にうつす。
「成沢さんは3年前…樹里さんに望まれて協議離婚しましたが…樹里さんにまだ未練があるらしく、何度も復縁を迫っては断られていました」
「………。」
名前はそう言葉を続けるなつきをジッと見つめる。
「……その樹里さんも、最近では若い恋人の新庄さんに飽きた様子で、誰か可愛い子はいないかって私に聞いていました」
なつきの言葉に新庄は肩をすくめる。
「そして…マネージャーの真佐代さん。いつも樹里さんに、暗いだの気が利かないだのと言われて…みんなの前で恥をかかされてましたよね」
「………。」
「かく言う私も、我が儘な樹里さんにいつも振り回されて…他の仕事をしたいと思っても、彼女に邪魔されてしまい…嬉しい反面、恨んでもいました」
「………。」
「ねっ?みんな彼女を殺害して不思議はないのよ!彼女はそういう恨まれやすい人間だったんだもの」
なつきは全員の動機を話し終えて、満足したようにそう言うと座席に座る。なつきの話に、気まずくなった乗客達は黙りこんでしまい、機内は静まりかえる。
「悪いけど…まったく理解出来ないわ」
「!?」
静まり返った機内にふいに響いた声に、なつきはキッと眉を寄せて声がした方に目を向ける。
「……名前ちゃん?」
他の乗客達も、不思議そうに名前に目を向ける。そして、名前の隣に座る新庄が、名前の名前をポツリと呟く。
「劇の演出に、離婚?そんな理由が……殺害する動機になるって?」
名前は、ジロリとなつきに目を向ける。
「お…おい、名前」
名前の近くにいたコナンが、名前を小声で制止しようとするが、名前は構わずに言葉を続ける。
「たかがそんな理由で、人を殺して"不思議はないと″と、笑顔で言えるなんて……あなたは人の命を何だと思ってるんですか?」
今までに見たことがないような鋭い視線と冷たい台詞に、コナンや阿笠達は僅かに目を見開く。
「た…たかがって、あなたは当事者じゃないから…そんな事が言えるのよ」
「そうですね、当事者にしたら殺したいくらい憎い事かもしれない。だけど、それでも…あなたがさっき言ったように、殺して当然だとでもいう様な事にはなりませんよ」
「な、子供が偉そうに…!」
動揺したように言い返そうとするなつきに、名前は更に言葉を返そうとするが、ふいに英里が口を開く。
「…当事者も何も関係ないわ。なつきさん。今、名前ちゃんが言ったのはそう言う話ではないという事が分からない?」
「ーっ!?」
英里に諭されるように言われて、なつきは言い返すすべもなく黙って視線を下を向けた。
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「…どうしたんだよ、オメー。珍しいじゃねぇか」
しばらくして名前の席までコナンがわざわざやって来て、小声で名前に尋ねる。
「確かに…さっきはちょっと言いすぎたわね。でも、」
名前は、小さく苦笑しながら髪を掻き上げて答える。
「…?」
「私は今まで、いろんな事件に遭遇しすぎて"人の命″に対する感覚が鈍ってたのかもしれないなって思って」
「……。」
「だけど、大切な物を失うっていう…普段は現実味を帯びないその事実が、実際に自分の身に降り懸かりそうになって…改めてその大切さに気づかされたわ」
「…それ、"アイツ″の事を言ってんのか?」
コナンは、名前の横顔をジッと見つめて尋ねる。
「……新一が、"もう1回冷静に考えろ″って言ったのよ」
「…答えは出そうなのかよ?」
「さぁ…どうかしら」
名前は小さく肩をすくめて、コナンの問いをサラリとはぐらかした。