共有編
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「…自分の正体?」
灰原は小さく目を見開いて名前の言葉を繰り返す。
「つまり…私が好意をもつ相手に自分の正体を明かすかって意味?」
「うん」
card.157
「…その質問、する相手間違ってるんじゃない?」
「……そうかな?」
名前の不思議そうな表情を見て、灰原は小さくため息をついて口を開く。
「…答えは"No″よ。私の正体は実年齢と外見が異なってるって事だけじゃないわ。…犯罪者である事も含めて全てを自分から明かせるほど、気を許せる相手が現れるとも思わないけどね」
「あら…私や新一は違うの?」
「あなた達は特例でしょ。博士に関しては、不可抗力な面もあるし」
「…そうかな~。私は、哀のもろもろの事情もひっくるめて受け入れたし、それを踏まえても大事な友達だと思ってるよ」
「…………馬鹿」
灰原は小さく息を飲んだ後、照れ隠しのように紅茶に口をつける。
「じゃあ…側にいるのに、自分の正体を明かしてくれない相手の心理ってなんなのかしらね」
「そんなの……工藤君とあの彼女の様子を見てれば一目瞭然じゃない。"巻き込みたくない″んでしょ」
「うーん」
「そんなに知りたいなら、次に会った時にあの気障な単眼鏡でも剥ぎ取ってやれば良いんじゃない?」
「…でも私は"本人″の口から聞きたいわ。毎日顔合わせてるのに」
「「…………。」」
「………え?」
「……あ!」
名前は、ついリラックスして無意識に自分が呟いてしまった言葉に息をのむ。
「あ…哀?」
恐る恐る灰原の顔を見ると、灰原は何かを考え込むように顎に手をあてながら口を開く。
「……つまり、あなたは怪盗の時の彼だけじゃなくて、彼の中身の方にも面識があるのね」
「…………。」
灰原の言葉にダラダラと嫌な汗が流れるのがわかる。
「しかも……"毎日顔を合わせる″って事は、同じ学校とか?ふぅん、なるほど…」
「哀…?」
「あなたが、どうして正体も分からないあんな怪盗に執着してるのかが分からなかったけど…なるほどね。もともと知り合いだった相手が怪盗だった…って事かしら?」
「あ、哀!…この事は新一には…」
「ふふ…工藤君、あなたが"怪盗の彼に興味を持つのなんかやめて普通の恋人が出来たら…″なんて話もしてたけど、この話は工藤君が聞いたら怒り狂いそうな内容ね」
「………。」
「…安心して、言わないわよ。あなたのこの複雑な状況、他に話せる相手もいないんでしょ?良いわ…私がその相手になってあげる」
「ーっ!哀…!」
名前は小さく安堵の息を漏らす。
「…だけどあなた達、まだ恋人同士ってわけじゃないんでしょ?」
「…そう、ね」
自分達の何とも微妙な関係に名前はため息をつく。この間は、快斗の無事に喜んで思わず抱き合ってしまったけれど。
「だったら…自分の気持ちと一緒に、涙でも流して正体に迫れば良いんじゃない?」
「……えー、それはちょっと…」
「良いじゃない、恋愛事なんてどんなに当人達が真剣でも周りから見たら滑稽なものよ?どうせ滑稽なら、とことん馬鹿になれば良いのよ」
「……哀には、実年齢を誤魔化してるんじゃないかって思わされる事ばかりだわ」
名前は小さくため息をつきながらも、正面に座る小さな良き理解者に微笑みを浮かべたのだった。