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退屈でしょうがなかったのだ。だから久しぶりに城下町へ行き、手当り次第に店を練り歩いた。めぼしい茶器は見当たらなかったが、何故だろうかとても惹かれる姿見があった。それを指さすと、店先の白髭を大層蓄えた老人が髭の中で口を動かした。「これは売り物ではないしこんな安物を売るわけにはいかない」と。
私はおもむろに懐から、持ち合わせていた銭全てが入った袋を取り出し老人へと手渡した。ふと、ついでとばかりに佩いていた刀に手を添える。するとそれを見た老人は慌てて準備を始めた。
姿見が必要だったわけではない。今私が使っているものは、縁に趣向を凝らしたもので未だに使っている程度には気に入っている。
だから、城へ戻った際に女中が一瞬驚いた顔をしたのも頷けるだろう。だが、今使っているものの代わりに使うつもりはないため、小姓に茶器のある部屋へ運ぶよう命じた。まさか茶器や諸々の宝のある部屋へ薄汚れた姿見を運ばせるとは思わなかったのだろう、女中が再び狐につままれたような顔をしたのを見て、私は少し喉を震わせた。
夕餉もそこそこに、件の部屋へ酒を持ってこさせた。時々こうやって、私が茶器や宝を眺めながら酒を嗜むために、ただ宝を置くだけの部屋ではなく、居心地のよい空間に仕立てあげている。
小姓も下がらせ、一人座して姿見を眺めた。見れば見るほど、安い造りをしたみすぼらしいただの鏡である。周りの鍍金はところどころ剥がれ落ち、鏡面は老人が拭いたものの薄ら曇っていた。
茶器や衣の一部が欠けることで、侘や寂を感じることはあれど、これはただ見苦しさが増しただけだ。
それでもなお、惹かれるなにかがそこに宿っている。果て、それは何故だろうかと姿見を眺め酒を舐める。
時が静かに流れ、小姓が行燈に火を灯して四半刻ほど経っただろうか。突然、朝と紛うほど明るい、しかしまろい朝日とは違う鋭い光が目を焼いた。突然のことに反応が遅れ、目が眩む。目をきつく閉じ、その上から手で覆う。じりじりと不快な痛みが退いてから手をおろし、瞼をそっと開ける。(もしも今の光が間者の閃光弾だったら、今や私の命はなかっただろうが、そんなことは万に一つもありえないと断言できよう)
先ほど光を発した目の前の鏡は、常時と変わらず佇んでいた。否、佇んではいるがそれに映るべきモノが映ってはいなかった。私とは異なるモノがその鏡面に映っていたのである。
見慣れぬ衣に身を包んだ、おそらくは女であろうモノはふらりふらりとこちらへ歩み寄る。さすがに私もこれには呆気に取られた。いやはや、長生きはしてみるものだ。
ぼうと呆けた目をした女は、鏡越しに(こう言っていいものか分からないが)少し立ち止まり、そしてそのまま……茶器の上へどさりと倒れ込んだ。
私はおもむろに懐から、持ち合わせていた銭全てが入った袋を取り出し老人へと手渡した。ふと、ついでとばかりに佩いていた刀に手を添える。するとそれを見た老人は慌てて準備を始めた。
姿見が必要だったわけではない。今私が使っているものは、縁に趣向を凝らしたもので未だに使っている程度には気に入っている。
だから、城へ戻った際に女中が一瞬驚いた顔をしたのも頷けるだろう。だが、今使っているものの代わりに使うつもりはないため、小姓に茶器のある部屋へ運ぶよう命じた。まさか茶器や諸々の宝のある部屋へ薄汚れた姿見を運ばせるとは思わなかったのだろう、女中が再び狐につままれたような顔をしたのを見て、私は少し喉を震わせた。
夕餉もそこそこに、件の部屋へ酒を持ってこさせた。時々こうやって、私が茶器や宝を眺めながら酒を嗜むために、ただ宝を置くだけの部屋ではなく、居心地のよい空間に仕立てあげている。
小姓も下がらせ、一人座して姿見を眺めた。見れば見るほど、安い造りをしたみすぼらしいただの鏡である。周りの鍍金はところどころ剥がれ落ち、鏡面は老人が拭いたものの薄ら曇っていた。
茶器や衣の一部が欠けることで、侘や寂を感じることはあれど、これはただ見苦しさが増しただけだ。
それでもなお、惹かれるなにかがそこに宿っている。果て、それは何故だろうかと姿見を眺め酒を舐める。
時が静かに流れ、小姓が行燈に火を灯して四半刻ほど経っただろうか。突然、朝と紛うほど明るい、しかしまろい朝日とは違う鋭い光が目を焼いた。突然のことに反応が遅れ、目が眩む。目をきつく閉じ、その上から手で覆う。じりじりと不快な痛みが退いてから手をおろし、瞼をそっと開ける。(もしも今の光が間者の閃光弾だったら、今や私の命はなかっただろうが、そんなことは万に一つもありえないと断言できよう)
先ほど光を発した目の前の鏡は、常時と変わらず佇んでいた。否、佇んではいるがそれに映るべきモノが映ってはいなかった。私とは異なるモノがその鏡面に映っていたのである。
見慣れぬ衣に身を包んだ、おそらくは女であろうモノはふらりふらりとこちらへ歩み寄る。さすがに私もこれには呆気に取られた。いやはや、長生きはしてみるものだ。
ぼうと呆けた目をした女は、鏡越しに(こう言っていいものか分からないが)少し立ち止まり、そしてそのまま……茶器の上へどさりと倒れ込んだ。