第一章
主人公の名前設定
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――2週間後。カプセルコーポレーションで
タイムマシンの最終点検を終えたブルマが、心臓の薬をトランクスに渡した。
「じゃ、これが孫君の薬……」
「はい。母さんも気を付けてください」
「ブルマさんのことは任せて。戻ってくるまでここにいるから」
パイはトランクスを安心させるように伝えた。
トランクスはパイに向き直り、小さく、しかし力強く言った。
「ありがとう。……パイがいてくれて、よかった」
「頼んだわよ!」とブルマが力強く声をかけると、トランクスは「行ってきます!!」と晴れやかな顔でタイムマシンに乗り込み旅立っていった。
*****
「帰ってくるのは1時間後ね。それまでお茶でもして待ってようか。コーヒー淹れるわね!」
戻ってくる時刻を出発直後に設定すると、時空のズレが生じたときに同時刻や出発前に戻ってしまい、元の世界に戻れない危険がある。
だから戻り時間は少しあけて一時間後に設定してあるのだ。
コーヒーのいい香りがあたりに漂う。
「ねえ、ブルマさん聞いてもいい?」
「ん?どうしたの?」
「もしかして、私のお父さんと昔付き合っていたの?」
まさにコーヒーを口に飲もうとしていたブルマは、予想もしなかった問いかけに驚き思わずせき込んだ。コーヒーをテーブルに戻して、呼吸を落ち着かせるうちに、無性におかしくなってきて笑いがこみ上げてきた。
「はははっ!そんなワケないじゃない。どうしてそんなこと考えたの?」
冗談でも言われたのかとおかしそうにパイの顔を見ると、意外にも目は真剣だった。
「ブルマさんが、お父さんのことを話すとき……とても優しい顔をするから。だからなんとなくそうかなって」
嬉しそうな、愛しいものを懐かしむようなあの表情は、友情以上の親愛の情を感じさせるものだった。昔、おぼろげな記憶の中にいる母が父の話を聞かせてくれた時も、確かあんな表情だったと思う。
「全然そんなんじゃないわよ。あ!でもね、昔の天下一武道会で久しぶりに再会したとき、すっかり背が伸びていい男になっていて、あの時はときめいたわー」
いつも見下ろしていた孫君が、すっかり大人の男になっていた。あの時はーーー。
「でも私はヤムチャと付き合っていたし、孫君の頭の中には相変わらず戦うことしかないし、もちろん何もなかったわよ。それにその天下一武道会でチチさんと結婚しちゃったんだから」
「あなたのお母さん、すごいわよ。あの孫君と結婚しちゃうんだから」
ブルマは思い出した。懐かしさと可笑しさがこみ上げてくる。結婚にも恋愛にも全く興味なかった孫君に子供のころの約束を守らせて、彼女にはかなわないなと思う。
「ちょうど今のあなたくらいの年ね。悟飯君はお父さん似だけど、あなたはお母さん似ね。本当にそっくりよ。その服を着ていると、あの日のことを思い出すわあ」
その日パイは母の形見の青い胴着を着ていた。いつもはシンプルなTシャツとデニムパンツの格好だが、時々気合を入れたいときにこの服を着ていた。
(私、お母さんが結婚した年になったのね……)
パイ自身は、誰かと結婚することも、そもそも恋愛をすることもまったく考えられなかった。パイは今19歳、だから今の自分と同じ19歳の母が結婚して家庭を持ったことに驚く思いだ。
10歳の時に死に別れて以来、年々母の顔がおぼろげになってきている。そうやって記憶をあいまいにすることで、痛みを乗り越えてきたのかもしれない。子どものころから周りの人を失い続けてきたパイにとって生きていくために必要なことだった。
しかし、兄の死だけは、まだ生々しい傷跡を残していた。かさぶたを作ることもなく、傷口が膿んでいくようにパイの体をむしばんでいた。
「私が10代の頃なんて、ボーイフレンドを作ることしか考えていなかったわ。あなたも本当なら、そんな風にして過ごせる年頃なのにね」
――そんな風に過ごせていたのだろうか?自分には全く想像がつかなかった。思い切ってブルマに問いかけてみた。
「ブルマさん、……恋ってどうやってするの?」
パイのあまりにもストレートな問いかけに、ドキッとしたブルマだが、真剣な様子を見てふっと表情を和らげて答える。
「パイちゃん、恋はするものじゃなくて、落ちるものなのよ」
「ブルマさんは、ヤムチャさんじゃなくて、トランクスのお父さんと恋に落ちたの?」
ブルマは、一瞬遠い目をした。そして、笑いながらもどこか寂しげに答える。
「そうね……気づいたら、そうなってたわ」
ヤムチャが亡くなったのは5年前。調子よくおどけた性格ながらも、パイや悟飯、トランクスを優しく気遣ってくれる頼れる大人だった。
(ヤムチャさんいい人だった……。なのに、ブルマさんはなんでトランクスのお父さんのことを好きになったんだろう?)
「どうしてトランクスのお父さんだったの?」
「理由なんてないのよ。あの人は……強がっているのに寂しそうだった。放っておけなかった、っていうのもあるかな」
ブルマは、肩をすくめる。
(どこか寂しそうな人をほっておけない……息子も私に似ちゃったのかしら)
「……それに、私自身が寂しかったのかもね」
冗談めかして言うけれど、その言葉には少しだけ、痛みがにじんでいた。
パイは黙って聞いていた。
(そんなふうに誰かを想う日が……私にも来るのだろうか)
その時──タイムマシンと連動する通信機から、機械音が響いた。
パイとブルマは、顔を見合わせた。
「……早かったわね。さあ、トランクスを迎えに行きましょ!」
二人はタイムマシンの着陸地点へと向かった。