第八章
主人公の名前設定
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トランクスが姿を消してから、ひと月が過ぎてしまった。
思い出すのは手の感触だった。
あの夜につないだ手の温もり…そして、もう数年前の別の日のこと。
悟飯を失ってからの数年、パイは魂が抜けたよう過ごした。
直後の1年は特にひどかった。
トランクスとの修行も、パオズ山での暮らしも、体が覚えている通り淡々とこなしているだけ。そこに何の感情も浮かばなかった。
ある日の人造人間の襲撃。
トランクスと応戦している戦いのさ中、状況が不利になったときにパイはその場にへたり込んでしまったのだ。
逃げれば深追いはされない…なぜならパイもトランクスも人造人間の暇つぶしの遊び道具でしかないから…。おもちゃは壊さなければ長く遊べる…。
でも、どうしてももう立ち上がれなかった。
頭と頬から出血し、流れる血で頭はぼんやりして、どこかで
(このまま死ねたら兄ちゃんに会える…もう頑張らなくていい)
と思ってしまったのだ。
そんな時、あの手が力強くパイを掴んだ。
気力を失ったパイの手を力いっぱい引き上げると、
「逃げるんだ」
そう言って近くの森まで飛んでくれた。
──あの手の感触。
どうして今になって鮮明によみがえるのだろう。
いつもずっとそばにいてくれた。
(「好き」って言えばよかった。そして旅立つ前にもっと強く、しっかり抱きしめてもらえばよかった)
トランクスがこのまま戻ってこなかったら……。
3つめの停止装置が効く保証などない。
もしあれが役に立たなかったら…
この世界は……
ゆっくりと、確実に、滅びへ向かうだけだ。
トランクス。
彼の名前をそっと呼んでみる。
あの空からタイムマシンが現れて、出てきた彼は私の前にやってくる。ちょっとはにかんだようないつもの笑顔。青く澄んだ瞳でまっすぐこちらを見て…そんな想像をした。
でも彼は現れない。
夜になると彼の姿を探して空を仰ぎ
朝になると「今日こそ戻るかもしれない」と急いで庭に出る。
それでも、何も起こらない。
***
カプセルコーポレーション。
研究室には機材や工具が無造作に散らばり、開きっぱなしの資料や使いかけの部品がどれも片付けられることなくそのまま放置されている。
ブルマは、その雑然とした中で新しいタイムマシンの設計図に向かっていた。
以前のものとはまるで違う……ひとり乗り、最低限の機構、最低限のエネルギー。
「……これで、トランクスを探しに行けばいいのね?」
思わず、パイはそう口にしていた。
ブルマは手を止め、ゆっくりと顔を上げた。
「いいえ」
短く、きっぱりとした否定だった。
「もし3つめの停止装置がダメだったら……あなたはこれに乗って過去の世界に行くの。もう、こちらに戻らなくていい」
理解できない言葉だった。
「……え?」
ブルマはまっすぐにパイを見つめていた。疲労も心労も、限界をとうに超えているはずなのに、その瞳には揺るぎがなかった。
「向こうの世界にトランクスが無事に着いたかどうかも、わからない。もし会えたとしても……2人で戻ってきて、人造人間を倒せる保証なんてないわ」
淡々とした声が、静かな研究室に重く落ちる。
「だから……これが完成したら、過去の世界に逃げて。あそこなら、きっとまだ仲間がいる。孫君も悟飯君も……あなたを守ってくれる人たちがいる」
パイは声を震わせながらもはっきりと伝える。
「もし行くなら、ブルマさんも一緒じゃないと嫌だ」
ブルマは、かすかに首を横に振った。
「そんな時間はないわ。材料もエネルギーも、ひとり分で精一杯。行くのは……あなたよ」
言葉を失ったパイを前に、ブルマは一歩近づいた。そして柔らかく、しかしはっきりと告げる。
「あなたには生きてほしいの」
その言葉に、パイの胸が強く締めつけられた。
「生き抜いた先で……幸せをつかんでほしいのよ」
その微笑みは、優しくて、あまりにも残酷だった。
パイは何も言えなかった。
逃げること。
生き延びること。
トランクスがもう戻れないかもしれないこと。
この世界を残していくこと。
そのどれもが、胸の奥で絡まり合い、言葉にならなかった。
ただ、ひとつだけはっきりしていた。
……選択の時が、近づいている。
壊れゆく世界の中で、しなければならない決断が、静かに彼女を追い詰めていた。
思い出すのは手の感触だった。
あの夜につないだ手の温もり…そして、もう数年前の別の日のこと。
悟飯を失ってからの数年、パイは魂が抜けたよう過ごした。
直後の1年は特にひどかった。
トランクスとの修行も、パオズ山での暮らしも、体が覚えている通り淡々とこなしているだけ。そこに何の感情も浮かばなかった。
ある日の人造人間の襲撃。
トランクスと応戦している戦いのさ中、状況が不利になったときにパイはその場にへたり込んでしまったのだ。
逃げれば深追いはされない…なぜならパイもトランクスも人造人間の暇つぶしの遊び道具でしかないから…。おもちゃは壊さなければ長く遊べる…。
でも、どうしてももう立ち上がれなかった。
頭と頬から出血し、流れる血で頭はぼんやりして、どこかで
(このまま死ねたら兄ちゃんに会える…もう頑張らなくていい)
と思ってしまったのだ。
そんな時、あの手が力強くパイを掴んだ。
気力を失ったパイの手を力いっぱい引き上げると、
「逃げるんだ」
そう言って近くの森まで飛んでくれた。
──あの手の感触。
どうして今になって鮮明によみがえるのだろう。
いつもずっとそばにいてくれた。
(「好き」って言えばよかった。そして旅立つ前にもっと強く、しっかり抱きしめてもらえばよかった)
トランクスがこのまま戻ってこなかったら……。
3つめの停止装置が効く保証などない。
もしあれが役に立たなかったら…
この世界は……
ゆっくりと、確実に、滅びへ向かうだけだ。
トランクス。
彼の名前をそっと呼んでみる。
あの空からタイムマシンが現れて、出てきた彼は私の前にやってくる。ちょっとはにかんだようないつもの笑顔。青く澄んだ瞳でまっすぐこちらを見て…そんな想像をした。
でも彼は現れない。
夜になると彼の姿を探して空を仰ぎ
朝になると「今日こそ戻るかもしれない」と急いで庭に出る。
それでも、何も起こらない。
***
カプセルコーポレーション。
研究室には機材や工具が無造作に散らばり、開きっぱなしの資料や使いかけの部品がどれも片付けられることなくそのまま放置されている。
ブルマは、その雑然とした中で新しいタイムマシンの設計図に向かっていた。
以前のものとはまるで違う……ひとり乗り、最低限の機構、最低限のエネルギー。
「……これで、トランクスを探しに行けばいいのね?」
思わず、パイはそう口にしていた。
ブルマは手を止め、ゆっくりと顔を上げた。
「いいえ」
短く、きっぱりとした否定だった。
「もし3つめの停止装置がダメだったら……あなたはこれに乗って過去の世界に行くの。もう、こちらに戻らなくていい」
理解できない言葉だった。
「……え?」
ブルマはまっすぐにパイを見つめていた。疲労も心労も、限界をとうに超えているはずなのに、その瞳には揺るぎがなかった。
「向こうの世界にトランクスが無事に着いたかどうかも、わからない。もし会えたとしても……2人で戻ってきて、人造人間を倒せる保証なんてないわ」
淡々とした声が、静かな研究室に重く落ちる。
「だから……これが完成したら、過去の世界に逃げて。あそこなら、きっとまだ仲間がいる。孫君も悟飯君も……あなたを守ってくれる人たちがいる」
パイは声を震わせながらもはっきりと伝える。
「もし行くなら、ブルマさんも一緒じゃないと嫌だ」
ブルマは、かすかに首を横に振った。
「そんな時間はないわ。材料もエネルギーも、ひとり分で精一杯。行くのは……あなたよ」
言葉を失ったパイを前に、ブルマは一歩近づいた。そして柔らかく、しかしはっきりと告げる。
「あなたには生きてほしいの」
その言葉に、パイの胸が強く締めつけられた。
「生き抜いた先で……幸せをつかんでほしいのよ」
その微笑みは、優しくて、あまりにも残酷だった。
パイは何も言えなかった。
逃げること。
生き延びること。
トランクスがもう戻れないかもしれないこと。
この世界を残していくこと。
そのどれもが、胸の奥で絡まり合い、言葉にならなかった。
ただ、ひとつだけはっきりしていた。
……選択の時が、近づいている。
壊れゆく世界の中で、しなければならない決断が、静かに彼女を追い詰めていた。