第七章
主人公の名前設定
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レジスタンス拠点の整備室。
夕暮れの光が差し込み、機材の影が長く伸びていた。
パイは古びた運搬車両の整備をしながらも、胸の奥でじくじくと疼く不安を持て余していた。
(どうしてこんなに胸がざわつくんだろう……)
もう、トランクスは過去へ飛び立ってしまう。
一度目の帰還だって奇跡のような成功だった。
世界を救うためとはいえ、時を越えるということは、ただ無事を祈れば済むような出来事ではない。
(行ってほしくない……)
思いが心の底で波紋のように広がる。
けれどそれを口にすることは、彼の希望と勇気に水を差すようで…。
いっそ――今、人造人間が現れれば。
停止装置を押してうまく成功すれば、もう行かなくていいのに。
そんな願いさえ、つい胸をよぎった。
パイはそっとポーチに触れた。肌身離さず持ち歩く、最後の停止装置の感触。
その瞬間。
整備室の扉が静かに開いた。
「……ここにいたんだ」
振り向くと、入口に立っていたのはトランクスだった。
パイは少し驚き、工具を置いて顔を上げた。物思いに沈んでいたせいか、彼の気を感じるのが遅れた。
「まだ整備してたの?」
「うん、もう少しだけ。車両の最終確認してたの。トランクスこそ?」
窓の外では夕日が傾き、淡い橙の光が室内を染めている。
長い影が床に伸びていた。
「南の避難所に物資を運んだ帰り。……ここにまだいると思ったから」
トランクスは静かに微笑んで、彼女のそばに歩み寄った。
整備中の車両の油と鉄の匂いが漂う。
ふたりの間に流れる空気はまだどこかぎこちない。
「……あのさ」
トランクスが少しためらってから言った。
「帰りにちょっと、話さない?」
パイはほんのわずか目を見開き、そしてそっと頷いた。
「……うん」
***
二人が向かったのは、西の都を見下ろす高台だった。
そこはかつて悟飯と共に修行した場所。悟飯亡き後もずっと二人で修行をしてきた──数多くの思い出や記憶の残る場所だった。
空の端はまだわずかに茜色を残していた。
冬の夕暮れは短い。
茜色から紫へとあっという間に変わった空は、街を包む闇がじわりと広がっていく。
「……懐かしいね」
パイはあたりを見渡すと、ぽつりとつぶやいた。夕風が前髪を揺らした。
「うん」
トランクスも頷きながら、沈みゆく光に染まる荒廃した街を眺めた。
冬の風が二人の間を抜けていった。
沈黙が落ち、空には最初の星がひとつ瞬く。
トランクスは深く息を吸い、言葉を探すように口を開く。
「俺……勝手に先走ってごめん。一緒に来てほしいなんて、俺の都合だよな。パイがこの世界に残りたいなら、それを尊重する」
パイは小さくうつむき、両手を胸の前で握った。
「いろいろ考えてくれたのに、ごめんね」
その声はかすかに震えていた。そして、少し間をおいて続ける。
「……ねえ、気をつけて。過去の世界に行くなら――絶対に無事に帰ってきて」
本当は不吉な予感を伝えたかった。そして行かないでと強く言いたかった。……だがトランクスが希望を見出した過去の世界だ。パイも彼の意思を尊重することにした。
トランクスは静かに頷くと、胸の奥で何かが決壊するような感覚があった。言葉が自然とこぼれた。ずっと抱えていた恐れ――負け続けた記憶に守れなかったやるせなさ。
「俺……本当は、ずっと怖かった。何度も負けて、誰も守れなくて……。でも、パイが隣にいてくれたから、ここまで来れた。もしパイがいなかったら、俺はとっくに折れてたと思う」
パイの瞳がわずかに揺れる。
風が二人の頬を撫で、冬の枯れ草の匂いを運んだ。
トランクスは一歩、彼女の方へ踏み出した。しっかりとパイの目を見据えて続けた。
「これまで俺たちはさ…ずっと一緒に戦ってきたけれど、本当にありがとう。そばにいてくれてすごく感謝している」
「どうしたのトランクス、そんなに改まって」
不思議そうに揺れているパイの瞳を見つめていると、トランクスの胸の鼓動が激しくなった。これから伝える言葉は自分たちの関係をまったく変えてしまうかもしれない大事な言葉だ。ゆっくりと息を吸うと続けた。
「あのさ…帰ってきたら一緒に住まないか?」
パイは眉を上げた。
「もうほぼ一緒に暮らしているじゃない?」
パイは今ほぼカプセルコーポレーションに泊まり込みで過ごしていた。
「そうなんだけど…」
政府も街も崩壊したこの世界で、若い男女が共に暮らすということは結婚するようなものだった。デートしたり結婚式をあげることもほぼないようなこの世界では、“共に暮らす”ということが未来を誓うことと同じ意味だった。生活を共にして、共に生きる。この世界での恋愛の行きつく先だった。
トランクスのこの申し出は今までのパイとの関係を全く変えようとする告白だった。
(…ダメだ…こんな持って回った言い方したって…)
ぎこちない沈黙の後、トランクスは改めて呼吸を整えてパイの瞳をしっかり見つめると言った。
「――好きだ」
静寂。
パイの肩が小さく震えた。
空に上がった月が二人を優しく照らしていた。
夕暮れの光が差し込み、機材の影が長く伸びていた。
パイは古びた運搬車両の整備をしながらも、胸の奥でじくじくと疼く不安を持て余していた。
(どうしてこんなに胸がざわつくんだろう……)
もう、トランクスは過去へ飛び立ってしまう。
一度目の帰還だって奇跡のような成功だった。
世界を救うためとはいえ、時を越えるということは、ただ無事を祈れば済むような出来事ではない。
(行ってほしくない……)
思いが心の底で波紋のように広がる。
けれどそれを口にすることは、彼の希望と勇気に水を差すようで…。
いっそ――今、人造人間が現れれば。
停止装置を押してうまく成功すれば、もう行かなくていいのに。
そんな願いさえ、つい胸をよぎった。
パイはそっとポーチに触れた。肌身離さず持ち歩く、最後の停止装置の感触。
その瞬間。
整備室の扉が静かに開いた。
「……ここにいたんだ」
振り向くと、入口に立っていたのはトランクスだった。
パイは少し驚き、工具を置いて顔を上げた。物思いに沈んでいたせいか、彼の気を感じるのが遅れた。
「まだ整備してたの?」
「うん、もう少しだけ。車両の最終確認してたの。トランクスこそ?」
窓の外では夕日が傾き、淡い橙の光が室内を染めている。
長い影が床に伸びていた。
「南の避難所に物資を運んだ帰り。……ここにまだいると思ったから」
トランクスは静かに微笑んで、彼女のそばに歩み寄った。
整備中の車両の油と鉄の匂いが漂う。
ふたりの間に流れる空気はまだどこかぎこちない。
「……あのさ」
トランクスが少しためらってから言った。
「帰りにちょっと、話さない?」
パイはほんのわずか目を見開き、そしてそっと頷いた。
「……うん」
***
二人が向かったのは、西の都を見下ろす高台だった。
そこはかつて悟飯と共に修行した場所。悟飯亡き後もずっと二人で修行をしてきた──数多くの思い出や記憶の残る場所だった。
空の端はまだわずかに茜色を残していた。
冬の夕暮れは短い。
茜色から紫へとあっという間に変わった空は、街を包む闇がじわりと広がっていく。
「……懐かしいね」
パイはあたりを見渡すと、ぽつりとつぶやいた。夕風が前髪を揺らした。
「うん」
トランクスも頷きながら、沈みゆく光に染まる荒廃した街を眺めた。
冬の風が二人の間を抜けていった。
沈黙が落ち、空には最初の星がひとつ瞬く。
トランクスは深く息を吸い、言葉を探すように口を開く。
「俺……勝手に先走ってごめん。一緒に来てほしいなんて、俺の都合だよな。パイがこの世界に残りたいなら、それを尊重する」
パイは小さくうつむき、両手を胸の前で握った。
「いろいろ考えてくれたのに、ごめんね」
その声はかすかに震えていた。そして、少し間をおいて続ける。
「……ねえ、気をつけて。過去の世界に行くなら――絶対に無事に帰ってきて」
本当は不吉な予感を伝えたかった。そして行かないでと強く言いたかった。……だがトランクスが希望を見出した過去の世界だ。パイも彼の意思を尊重することにした。
トランクスは静かに頷くと、胸の奥で何かが決壊するような感覚があった。言葉が自然とこぼれた。ずっと抱えていた恐れ――負け続けた記憶に守れなかったやるせなさ。
「俺……本当は、ずっと怖かった。何度も負けて、誰も守れなくて……。でも、パイが隣にいてくれたから、ここまで来れた。もしパイがいなかったら、俺はとっくに折れてたと思う」
パイの瞳がわずかに揺れる。
風が二人の頬を撫で、冬の枯れ草の匂いを運んだ。
トランクスは一歩、彼女の方へ踏み出した。しっかりとパイの目を見据えて続けた。
「これまで俺たちはさ…ずっと一緒に戦ってきたけれど、本当にありがとう。そばにいてくれてすごく感謝している」
「どうしたのトランクス、そんなに改まって」
不思議そうに揺れているパイの瞳を見つめていると、トランクスの胸の鼓動が激しくなった。これから伝える言葉は自分たちの関係をまったく変えてしまうかもしれない大事な言葉だ。ゆっくりと息を吸うと続けた。
「あのさ…帰ってきたら一緒に住まないか?」
パイは眉を上げた。
「もうほぼ一緒に暮らしているじゃない?」
パイは今ほぼカプセルコーポレーションに泊まり込みで過ごしていた。
「そうなんだけど…」
政府も街も崩壊したこの世界で、若い男女が共に暮らすということは結婚するようなものだった。デートしたり結婚式をあげることもほぼないようなこの世界では、“共に暮らす”ということが未来を誓うことと同じ意味だった。生活を共にして、共に生きる。この世界での恋愛の行きつく先だった。
トランクスのこの申し出は今までのパイとの関係を全く変えようとする告白だった。
(…ダメだ…こんな持って回った言い方したって…)
ぎこちない沈黙の後、トランクスは改めて呼吸を整えてパイの瞳をしっかり見つめると言った。
「――好きだ」
静寂。
パイの肩が小さく震えた。
空に上がった月が二人を優しく照らしていた。