第六章
主人公の名前設定
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西の都の上空を、鈍い灰色の雲が流れていた。
かつて高層ビルが立ち並んでいた通りは、いまや骨のように折れ曲がった鉄骨と、崩れかけたコンクリートの残骸ばかり。その隙間を縫うようにひっそり営まれている小さな市場に、冷たい風が吹きつける。
パイはひとり、その通りを歩いていた。
入院中のトランクスの世話はレジスタンスの少年・ライムに任せて、パトロールを兼ねて西の都を巡回している。
瓦礫の間を走り回る子どもたちは錆びた缶を蹴って遊び、隅では老人が古いラジオを分解しては修理していた。
パイは足を止め、崩れた壁にもたれながら市場を見渡した。
(……ここも襲撃されなければいいけれど…)
その願いと同時に、胸の奥で別の光景がよみがえる。
――病室で、顔を真っ赤にしてうつむいていたトランクス。
熱の残る肌を拭いたときに感じた彼の体温と近さ。
(……照れていてかわいかったな)
不意に心臓が早鐘を打つ。
パイは慌てて頭を振った。
(こんな時に何を考えてるの、私は……)
顔の熱を振り払うように、軽く頬を叩く。
その時だった。
近くでドサッと鈍い音がして、幼い男の子が転んだ。
抱えていた小麦の袋が破れ、粉が地面に散らばっていく。
「う、うわぁん……!」
泣き出したその子の小さな手は、悔しさに震えていた。
おそらく、大人の代わりに買い出しに来たのだろう。この世界では大人も子どももなく、体が動くものが食料調達に動くしかない。
パイはすぐに子どものそばにしゃがみ込むと、自分の腰のポーチから干し肉を入れた袋を取り出した。
「落としちゃったのとは違うけど……これ、持っていって」
驚きに目を丸くした子どもだが、干し肉を目にすると目をキラキラと輝かせた。小麦よりもはるかに貴重な食糧だ。両手でそれを受け取るとぱっと笑った。こちらの心まで明るくするような無邪気な笑顔だった。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
子どもは駆け出し、粉の舞う通りを軽い足取りで去っていった。
パイはしばらくその背中を見つめていた。
――守りたい。
こんな笑顔を、もう失いたくない。
だが、心の片隅に影が落ちる。
トランクスの顔が脳裏に浮かんだ。
(……もうすぐ、タイムマシンのエネルギーが貯まる)
ブルマは成功を信じていた。
そしてトランクスも迷いなく「過去に行って未来を変えてみせる」と言った。
けれど、パイは不安な予感をぬぐい切れずにいた。
ブルマの才能には心から敬意を抱いているし、彼女の仕事を手伝ううちにその頭脳の凄さを思い知った――だが、同時に分かってしまったのだ。精密機器というのは、ひとつ歯車が狂えば誤作動を起こす大きな危険を孕んでいることを。
今の世界では、まともな部品はほとんど手に入らない。
闇ルートで掘り出したジャンクや、古い機械の部品を継ぎ合わせて作っている。
そんな装置で、過去へ……しかも別の次元へ飛ぶなんて。
あまりにも危うい。
胸の奥に、押し殺していた言葉が浮かぶ。
「……行ってほしくない」
声にした瞬間、風が頬を撫でた。
自分でも驚くほど、静かで切実な響きを伴っていた。
もしも最後の停止装置がうまく作動すれば――トランクスは過去の世界へ行かずに済む。
パイは拳を握った。
(次に人造人間が現れたら……私が止める)
次はトランクスを囮になどさせない。直接近くまで一気に突っ込んで停止装置のボタンを押そうと思った。危険かもしれないが、もう彼に傷ついてほしくなかった。
トランクスが血を流すくらいなら、自分が前に出る。
冷たい風の止まない瓦礫に沈んだ街で、
パイはひとり、空を仰いだ。
雲の切れ間からわずかに射す光が、
まるで決意を祝福するかのように頬を照らしていた。
かつて高層ビルが立ち並んでいた通りは、いまや骨のように折れ曲がった鉄骨と、崩れかけたコンクリートの残骸ばかり。その隙間を縫うようにひっそり営まれている小さな市場に、冷たい風が吹きつける。
パイはひとり、その通りを歩いていた。
入院中のトランクスの世話はレジスタンスの少年・ライムに任せて、パトロールを兼ねて西の都を巡回している。
瓦礫の間を走り回る子どもたちは錆びた缶を蹴って遊び、隅では老人が古いラジオを分解しては修理していた。
パイは足を止め、崩れた壁にもたれながら市場を見渡した。
(……ここも襲撃されなければいいけれど…)
その願いと同時に、胸の奥で別の光景がよみがえる。
――病室で、顔を真っ赤にしてうつむいていたトランクス。
熱の残る肌を拭いたときに感じた彼の体温と近さ。
(……照れていてかわいかったな)
不意に心臓が早鐘を打つ。
パイは慌てて頭を振った。
(こんな時に何を考えてるの、私は……)
顔の熱を振り払うように、軽く頬を叩く。
その時だった。
近くでドサッと鈍い音がして、幼い男の子が転んだ。
抱えていた小麦の袋が破れ、粉が地面に散らばっていく。
「う、うわぁん……!」
泣き出したその子の小さな手は、悔しさに震えていた。
おそらく、大人の代わりに買い出しに来たのだろう。この世界では大人も子どももなく、体が動くものが食料調達に動くしかない。
パイはすぐに子どものそばにしゃがみ込むと、自分の腰のポーチから干し肉を入れた袋を取り出した。
「落としちゃったのとは違うけど……これ、持っていって」
驚きに目を丸くした子どもだが、干し肉を目にすると目をキラキラと輝かせた。小麦よりもはるかに貴重な食糧だ。両手でそれを受け取るとぱっと笑った。こちらの心まで明るくするような無邪気な笑顔だった。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
子どもは駆け出し、粉の舞う通りを軽い足取りで去っていった。
パイはしばらくその背中を見つめていた。
――守りたい。
こんな笑顔を、もう失いたくない。
だが、心の片隅に影が落ちる。
トランクスの顔が脳裏に浮かんだ。
(……もうすぐ、タイムマシンのエネルギーが貯まる)
ブルマは成功を信じていた。
そしてトランクスも迷いなく「過去に行って未来を変えてみせる」と言った。
けれど、パイは不安な予感をぬぐい切れずにいた。
ブルマの才能には心から敬意を抱いているし、彼女の仕事を手伝ううちにその頭脳の凄さを思い知った――だが、同時に分かってしまったのだ。精密機器というのは、ひとつ歯車が狂えば誤作動を起こす大きな危険を孕んでいることを。
今の世界では、まともな部品はほとんど手に入らない。
闇ルートで掘り出したジャンクや、古い機械の部品を継ぎ合わせて作っている。
そんな装置で、過去へ……しかも別の次元へ飛ぶなんて。
あまりにも危うい。
胸の奥に、押し殺していた言葉が浮かぶ。
「……行ってほしくない」
声にした瞬間、風が頬を撫でた。
自分でも驚くほど、静かで切実な響きを伴っていた。
もしも最後の停止装置がうまく作動すれば――トランクスは過去の世界へ行かずに済む。
パイは拳を握った。
(次に人造人間が現れたら……私が止める)
次はトランクスを囮になどさせない。直接近くまで一気に突っ込んで停止装置のボタンを押そうと思った。危険かもしれないが、もう彼に傷ついてほしくなかった。
トランクスが血を流すくらいなら、自分が前に出る。
冷たい風の止まない瓦礫に沈んだ街で、
パイはひとり、空を仰いだ。
雲の切れ間からわずかに射す光が、
まるで決意を祝福するかのように頬を照らしていた。