第五章
主人公の名前設定
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第九話
この一か月という間、ブルマは寝ても覚めても研究に没頭していた。
頭の中を占めているのは数式と設計図だけ。部屋の片隅には冷凍弁当の容器が山のように積み重なっている。時々パイやトランクスが食事の差し入れをして、ゴミを片づけてくれていたが、2人とどんな会話をしたかすら曖昧だ。
シャワーは研究室横にある簡易シャワーで済ませ、研究室から出ることもほとんどなかった。そうしている間に季節は移り変わり、朝晩の冷え込みはすっかり秋になっていた。
だが、ようやく形が見えてきた。
試作機を前に、ブルマはふうっと大きく息を吐くと、デスクから立ち上がり大きな伸びをして久しぶりに研究室を出る。廊下の窓から差し込む日の光が、容赦なく目を射した。
「……まぶしい」
昼も夜もわからぬ閉め切った空間に籠もりきりだったせいで、その光はまるで異世界からのもののように感じられた。
自然と足を向けたのは、キッチンだった。2人はどうしているだろうかと考えながら扉の前に立つと、中から人の声が聞こえる。
「ほら、焦げちゃうでしょ!」
「だって、火力強すぎるんだよ!」
軽快な声と笑いが交じり合う、トランクスとパイの声だった。
漏れ聞こえてくる二人のやり取りはただの仲間同士というより、どこか……それ以上の響きを帯びていた。ちょっとした言い合いも、言葉の端に甘さが滲んでいるように聞こえる。
(……あの子たち、いつの間に? すっかりいい雰囲気じゃない)
ブルマは廊下に立ち尽くし、思わず目を瞬かせた。驚きはしたが、同時に頬がゆるむ。
絶望に支配されたこの世界でも、若い2人の間ではまるで恋の予感を感じさせるような初々しいやりとりが交わされていることが、何よりも愛おしく思えた。
同時に、胸の奥にほんの少しの寂しさが広がる。
トランクスが幼かったころのことがまるで昨日のことのように思い出された。ベジータを失い、父母にヤムチャ、クリリン…と周りの仲間たちが次々と命を落としていくこの世界で、幼いトランクスを抱えたブルマは小さな命を守るのに必死だった。がむしゃらに生き抜いてきた。
(あんなに小さかったあの子が私の知らないところで、こんなふうに誰かと笑い合えるようになったなんて……)
もうすっかり母の手は離れていくのだろう。ほんの少しだけ寂しくも、喜ばしく誇らしい。
そのとき――扉の向こうから足音が近づいてきたと思うと、ぱっと視界が開け、パイが扉を開いてこちらに顔をのぞかせた。
「ブルマさん!」
大きな瞳が一瞬驚いたように見開かれたあと、すぐに柔らかくほころぶ。
「ずっと研究室にこもってたでしょ?お疲れさま。 ……ごはん、ちゃんと食べてる?」
いたわるような声が、ブルマの胸に染みた。
「まあね。冷凍弁当のね」
「ほら、やっぱり!」
パイがあきれたように肩をすくめると、奥からトランクスの声がした。
「母さん、こっちに来て座ってください。ちょうど僕たちが食事を作ったところなんです」
キッチンに入ると、湯気の立つ鍋と、肉の焼けた香ばしい匂いが鼻をくすぐった。テーブルの上にはサラダや焼きたてのパンまで並んでいる。
「まあ……すごいじゃない!」
ブルマが目を丸くすると、パイは胸を張って笑った。
「へへ。ブルマさんに食べて力つけてもらうために頑張ったんだから」
と言いながらパイはテーブルの上にスープとステーキを並べる。
「俺も頑張ったんだけど」
「トランクスは途中で味見ばっかりしてたでしょ!」
「そ、それは大事な確認だよ!」
二人の掛け合いに、ブルマは思わず吹き出した。
(ほんとに、いつの間にこんなに息が合うようになったのかしら…?)
その光景は、荒れ果てた世界に灯る小さな奇跡のように思えた。
「ね、冷めちゃうから早く食べて」
とパイに促され、ブルマは椅子に腰かける。三人で向かい合い、手を合わせて食事を始めた。
ステーキを切り分けて最初の一口を運んだブルマは、目を見開いた。
「……おいしい!」
「ほんと? よかった……」
パイが安堵の笑みを浮かべ、トランクスも嬉しそうにこちらを見つめる。
「そのステーキ肉、私が捕まえた猪だから」
「……そう」
思わずドキリとするブルマ。脳裏に浮かぶのはかつてドラゴンボールを探す旅に出た時、「力つくもん食わしてやる」と獣をつかまえてきて丸焼きにした悟空の姿。あの時の光景がパイと重なった。
(…血は争えないわね…)
テーブルに笑い声が広がっていく。ブルマは胸の奥がじんわり温かくなるのを感じていた。
研究室で一人、無機質な光に囲まれて過ごした日々。その反動で、今こうして囲む食卓の明るさがひときわ眩しく思える。ふと視線を横に向けると、トランクスとパイが自然に笑い合っている。
たとえこれからどんな未来が待ち受けていようとも、この光景だけは守りたい。タイムマシンのチャージ完了まであとわずか2か月。「絶対に停止装置も完成させてみせる」と意気込みながら、ブルマは2人と一緒に笑い声を重ねた。
この一か月という間、ブルマは寝ても覚めても研究に没頭していた。
頭の中を占めているのは数式と設計図だけ。部屋の片隅には冷凍弁当の容器が山のように積み重なっている。時々パイやトランクスが食事の差し入れをして、ゴミを片づけてくれていたが、2人とどんな会話をしたかすら曖昧だ。
シャワーは研究室横にある簡易シャワーで済ませ、研究室から出ることもほとんどなかった。そうしている間に季節は移り変わり、朝晩の冷え込みはすっかり秋になっていた。
だが、ようやく形が見えてきた。
試作機を前に、ブルマはふうっと大きく息を吐くと、デスクから立ち上がり大きな伸びをして久しぶりに研究室を出る。廊下の窓から差し込む日の光が、容赦なく目を射した。
「……まぶしい」
昼も夜もわからぬ閉め切った空間に籠もりきりだったせいで、その光はまるで異世界からのもののように感じられた。
自然と足を向けたのは、キッチンだった。2人はどうしているだろうかと考えながら扉の前に立つと、中から人の声が聞こえる。
「ほら、焦げちゃうでしょ!」
「だって、火力強すぎるんだよ!」
軽快な声と笑いが交じり合う、トランクスとパイの声だった。
漏れ聞こえてくる二人のやり取りはただの仲間同士というより、どこか……それ以上の響きを帯びていた。ちょっとした言い合いも、言葉の端に甘さが滲んでいるように聞こえる。
(……あの子たち、いつの間に? すっかりいい雰囲気じゃない)
ブルマは廊下に立ち尽くし、思わず目を瞬かせた。驚きはしたが、同時に頬がゆるむ。
絶望に支配されたこの世界でも、若い2人の間ではまるで恋の予感を感じさせるような初々しいやりとりが交わされていることが、何よりも愛おしく思えた。
同時に、胸の奥にほんの少しの寂しさが広がる。
トランクスが幼かったころのことがまるで昨日のことのように思い出された。ベジータを失い、父母にヤムチャ、クリリン…と周りの仲間たちが次々と命を落としていくこの世界で、幼いトランクスを抱えたブルマは小さな命を守るのに必死だった。がむしゃらに生き抜いてきた。
(あんなに小さかったあの子が私の知らないところで、こんなふうに誰かと笑い合えるようになったなんて……)
もうすっかり母の手は離れていくのだろう。ほんの少しだけ寂しくも、喜ばしく誇らしい。
そのとき――扉の向こうから足音が近づいてきたと思うと、ぱっと視界が開け、パイが扉を開いてこちらに顔をのぞかせた。
「ブルマさん!」
大きな瞳が一瞬驚いたように見開かれたあと、すぐに柔らかくほころぶ。
「ずっと研究室にこもってたでしょ?お疲れさま。 ……ごはん、ちゃんと食べてる?」
いたわるような声が、ブルマの胸に染みた。
「まあね。冷凍弁当のね」
「ほら、やっぱり!」
パイがあきれたように肩をすくめると、奥からトランクスの声がした。
「母さん、こっちに来て座ってください。ちょうど僕たちが食事を作ったところなんです」
キッチンに入ると、湯気の立つ鍋と、肉の焼けた香ばしい匂いが鼻をくすぐった。テーブルの上にはサラダや焼きたてのパンまで並んでいる。
「まあ……すごいじゃない!」
ブルマが目を丸くすると、パイは胸を張って笑った。
「へへ。ブルマさんに食べて力つけてもらうために頑張ったんだから」
と言いながらパイはテーブルの上にスープとステーキを並べる。
「俺も頑張ったんだけど」
「トランクスは途中で味見ばっかりしてたでしょ!」
「そ、それは大事な確認だよ!」
二人の掛け合いに、ブルマは思わず吹き出した。
(ほんとに、いつの間にこんなに息が合うようになったのかしら…?)
その光景は、荒れ果てた世界に灯る小さな奇跡のように思えた。
「ね、冷めちゃうから早く食べて」
とパイに促され、ブルマは椅子に腰かける。三人で向かい合い、手を合わせて食事を始めた。
ステーキを切り分けて最初の一口を運んだブルマは、目を見開いた。
「……おいしい!」
「ほんと? よかった……」
パイが安堵の笑みを浮かべ、トランクスも嬉しそうにこちらを見つめる。
「そのステーキ肉、私が捕まえた猪だから」
「……そう」
思わずドキリとするブルマ。脳裏に浮かぶのはかつてドラゴンボールを探す旅に出た時、「力つくもん食わしてやる」と獣をつかまえてきて丸焼きにした悟空の姿。あの時の光景がパイと重なった。
(…血は争えないわね…)
テーブルに笑い声が広がっていく。ブルマは胸の奥がじんわり温かくなるのを感じていた。
研究室で一人、無機質な光に囲まれて過ごした日々。その反動で、今こうして囲む食卓の明るさがひときわ眩しく思える。ふと視線を横に向けると、トランクスとパイが自然に笑い合っている。
たとえこれからどんな未来が待ち受けていようとも、この光景だけは守りたい。タイムマシンのチャージ完了まであとわずか2か月。「絶対に停止装置も完成させてみせる」と意気込みながら、ブルマは2人と一緒に笑い声を重ねた。