第五章
主人公の名前設定
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そろそろ夕方になり、拠点に戻ろうかという頃、ローズマリーが口を開いた。
「ねえ、携帯食ばっかじゃ味気ないでしょ。どっかでご飯、食べてかない? こういうスラムには、小汚くても上手い飯屋がたくさんあるもんだよ」
「…夜は治安がさらに悪くなるんじゃない?」
「大丈夫、ボディーガードがいるでしょ」とパイを見てにっこり微笑む。
不意を突かれたようにパイが小さく目を見開くと、ローズマリーはもう路地に入って進んでいた。
「あの取引相手からおすすめ聞いたから。ついてきな。……まかせときなって」
案内されたのは、闇市から一本入った通りのいちばん奥。半分崩れかけた看板、くすんだガラス戸。塗装のはげた壁の店だった。
「……ほんとにここでいいの?」
「スラムの荒くれどもの胃袋を掴み続けてる店だよ。まずいわけないでしょ」
ローズマリーは軽く笑いながら扉を押し開けた。
中は狭いが、意外にも清潔に保たれていた。店主は不愛想な老婆で、客は数人。どこからか肉を煮る香ばしい匂いが漂ってきて、パイの腹が小さく鳴った。
出されたのは、雑穀と干し肉、根菜を煮込んだだけの雑炊。粗末だが、湯気の立ちのぼる料理の前では、パイは自然と姿勢を正した。
「いただきます」
そう言ったパイに、ローズマリーがふと笑った。
「……なに?」
「いや、礼儀正しいなって。珍しいのよ、この辺じゃ」
ふたりは、しばし黙って料理を味わった。
少しして、ローズマリーがスプーンを止め、ふいに呟くように言った。
「私もさ、昔はこういうスラムにいたんだ」
パイは思わず顔を上げる。
「……あんた、前に言ってくれたよね。『交渉がすごい』って。違うんだ。私はただ、人の顔色を窺って、相手が何を望んでるかを読み取って、うまく立ち回ることで生きてきただけ」
ローズマリーの目は、どこか遠くを見るようだった。
「ありふれた話さ。14のときに街を焼かれて……孤児になって。それからはずっと、こういう場所を転々としてた。盗みも、騙しも、ろくでもないことを山ほどしたよ」
その声には、いつものような軽やかさはなかった。奥底から引きずり上げるような、過去と真正面から切り合うような声音だった。
「金や食糧のために男と付き合ったこともあれば、ろくでもない男の口先だけの言葉を信じてたこともある。……なにか希望に縋りたかったんだ」
「でも、ある日ふと思った。いつまでこんなことしてんだろうって。なんか……自分が嫌になってさ。いつも誰かの機嫌を取って、期待通りに笑って、媚びて、誰かに縋って生きてる自分が……なんだかものすごく、薄っぺらくて、気持ち悪かった」
「……」
「で、レジスタンスに加わることにした。理由なんて大したもんじゃないよ。なんとなく、ちゃんと生きてみようと思っただけ。誰かの女になるより、戦う女になった方がマシだって思ったのかも。まあ、衝動的ってやつ」
ローズマリーは、そこでようやくパイの目を見た。
「……でも上手く振舞っているように見せてるだけで、ほんとは全然、自信なんかない。……今でもそう。」
その言葉に、パイは静かにうなずいた。
「……すごいと思う。自分で変えようって決めたんだ」
「あんたの方が根性座ってるって思ってたよ。あんな人造人間相手に、戦い続けてるなんてさ。大した女だよ」
ローズマリーが笑うと、パイは小さく首を横に振った。
「べつに……すごくなんか、ないの。ただ……私は、それ以外のことを考えたくもなかっただけ。どこかでこの世界に私を残した兄を恨んでた……」
店の片隅で鳴るラジオの音だけが、ふたりの沈黙の隙間を埋めていた。
パイは、そっと目を伏せて言った。
「でも……今は、できることをやろうって思ってる。こうして精密機器を探しに来たのもそう」
以前は人造人間を倒すには自分の力は到底及ばないのを認めるのは苦しかったが、もうこだわらなくなっていた。こうして精密機器を探しに来たり、ブルマの仕事を手伝ったり、できることを精一杯やろうと思う。
「ふふ、私たち案外似た者同士かもね」
「えっ、似てないよ!」
パイが食い気味に否定すると、ローズマリーはおかしそうに肩を揺らした。
「こういうのはさ、適当にうんって流しておけばいいんだよ」
「だって全然違うもの!」
「そうやってむきになるところ、かわいい」
「誰がかわいいって?あなたの元カレ投げ飛ばしたの見たでしょ!」
パイはそう返しながらも、自分の顔が笑っているのがわかった。こんな風に年の近い女同士でお互いの話をして過ごすのは初めてのことだったが、悪くないものだと思った。
「……で、チャンとトランクスどっちが好き?」
「……もう、それはいいから。早く食べて帰ろう」