第五章
主人公の名前設定
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スラムの闇市のある通りは雑多な人々であふれ、売り物かゴミかわからないような品々が粗末な台やシートの上に並んでいる。ローズマリーとパイはその間を縫うように歩いていた。
目当ての精密機器は、取引人曰く「もう少し時間がかかる」とのこと。手持ち無沙汰な二人は、なんとなくあたりをぶらついていた。
「ほんと、ここって何でも売ろうとするよね。どっから持ってきたんだか」
ローズマリーが片眉を上げながら、シートの上に山積みにされた機械の部品に目をやる。パイは静かに隣を歩きながらも、時折ちらちらと周囲の気配をうかがっていた。
──そのときだった。
パイの勘が危険を知らせた。ローズマリーのすぐ背後に、怪しい男が距離を詰めてきている。パイはローズマリーの肩に手を伸ばそうとする男の腕を素早く掴むと、一気に背後へとひねり上げた。
「いてててててっ!? な、なにすんだよ!」
「……誰?」
通りの喧騒に紛れながらも、冷ややかなパイの声はよく通った。
男は、情けない声を上げながらどうにか逃れようと体をよじったが、パイの腕はびくともしない。
そのとき、男の顔を覗き込んだローズマリーが「あー」と呆れたように声を上げた。
「パイ、大丈夫。手を離していいよ。そいつ、知り合い」
「……知り合い?」
「元カレ。ろくでなしのね」
パイが手を離すと、男は「いてて……」肩を抑えながらもローズマリーに向き直った。
「久しぶりだな、ローズマリー。元気そうでなによりだぜ」
馴れ馴れしい口調と、やけにフレンドリーな笑み。男は整った目鼻立ちをしていたが、どこか崩れた雰囲気をまとっている。
「……なに?」
「いやいや。別れ際に俺のバイクにマヌケってスプレーで書いていったこと、根に持ってないよ」
「むしろ感謝してほしいね。愛車、大事にしてたみたいだからさ。みんなにも分かりやすいように名前を書いておいてあげたんだ」
「はは、相変わらず毒舌だな。そこが好きなんだよな、ほんと」
男はにやにやと笑いながら、ローズマリーの肩に手を伸ばしかけたが……パイの鋭い視線に気づいて空中で止まった。
「でさ……ちょっと、相談っていうか……」
ローズマリーはため息をつくより先に言った。
「金ならないよ」
「早っ!まだ何も言ってないだろ」
「その顔見たらすぐわかるわ。どうせあんたのことだから、またロクでもない賭け事でもしたんじゃないの?」
「いや〜ちょっとだけ、なっ!」
男は口ごもりつつも、やっぱり金を無心しに来たのだと白状した。
ローズマリーは微笑すらせず、ただ冷ややかに彼を見つめた。
「いい加減にしなよ。いつまでそんな風にしてるつもり?」
冷たく見つめるローズマリーに臆することなく、男はへらへらと続ける。
「頼むって、少しでいいんだ。ほら、昔のよしみってやつだよ。おまえも困ったときは俺に……」
「一度も助けられた覚えなんてないけど」
「ひでぇなぁ。あの時だってさ、俺は──」
「はいはい、都合よく脚色した武勇伝はもう結構」
ローズマリーがうんざりと視線をそらす。
元カレがさらにローズマリーに詰め寄ろうとした瞬間──
パイは男の腕を取り、自分の背に乗せるように勢いよく回す。
「うわっ──!」
男の体が宙を舞い、背中から地面へ叩きつけられた。乾いた衝撃音と同時に、土埃がぶわりと舞い上がる。
どっと、周囲の荒くれ者たちから口笛と笑い声が漏れる。
「おお〜、姉ちゃんやるねぇ!」
「見たか今の!肘の入り方完璧じゃん」
元カレは蹲ったまま「ぐぅ……」と呻いていた。
ローズマリーは一歩前に出て、彼の脇をすり抜けると、パイの方に向き直った。その瞳は、尊敬にも似た輝きを湛えていた。
「……あんた、ほんとに強いんだね。こうして目の前で見るとすごいね」
パイは一瞬きょとんとし、それから小さく目を伏せて言った。
「……別にすごくなんかない。……あなたの元カレなのにごめんなさい、思わず……」
「全然いいって。元カレっていう生き物はさ、苦しんでいようとのたれ死のうと、どうでもいいもんなんだ。女にとって元カレってそういう存在」
パイは目をぱちぱちと瞬かせる。
「……そんなもん?」
「そのうちわかるよ。わかんなければ……それはそれで幸せってこと」
「……そっか」
二人は何事もなかったように通りを歩き出す。背後ではまだ元カレが呻いていたが、誰も気に留めていなかった。
目当ての精密機器は、取引人曰く「もう少し時間がかかる」とのこと。手持ち無沙汰な二人は、なんとなくあたりをぶらついていた。
「ほんと、ここって何でも売ろうとするよね。どっから持ってきたんだか」
ローズマリーが片眉を上げながら、シートの上に山積みにされた機械の部品に目をやる。パイは静かに隣を歩きながらも、時折ちらちらと周囲の気配をうかがっていた。
──そのときだった。
パイの勘が危険を知らせた。ローズマリーのすぐ背後に、怪しい男が距離を詰めてきている。パイはローズマリーの肩に手を伸ばそうとする男の腕を素早く掴むと、一気に背後へとひねり上げた。
「いてててててっ!? な、なにすんだよ!」
「……誰?」
通りの喧騒に紛れながらも、冷ややかなパイの声はよく通った。
男は、情けない声を上げながらどうにか逃れようと体をよじったが、パイの腕はびくともしない。
そのとき、男の顔を覗き込んだローズマリーが「あー」と呆れたように声を上げた。
「パイ、大丈夫。手を離していいよ。そいつ、知り合い」
「……知り合い?」
「元カレ。ろくでなしのね」
パイが手を離すと、男は「いてて……」肩を抑えながらもローズマリーに向き直った。
「久しぶりだな、ローズマリー。元気そうでなによりだぜ」
馴れ馴れしい口調と、やけにフレンドリーな笑み。男は整った目鼻立ちをしていたが、どこか崩れた雰囲気をまとっている。
「……なに?」
「いやいや。別れ際に俺のバイクにマヌケってスプレーで書いていったこと、根に持ってないよ」
「むしろ感謝してほしいね。愛車、大事にしてたみたいだからさ。みんなにも分かりやすいように名前を書いておいてあげたんだ」
「はは、相変わらず毒舌だな。そこが好きなんだよな、ほんと」
男はにやにやと笑いながら、ローズマリーの肩に手を伸ばしかけたが……パイの鋭い視線に気づいて空中で止まった。
「でさ……ちょっと、相談っていうか……」
ローズマリーはため息をつくより先に言った。
「金ならないよ」
「早っ!まだ何も言ってないだろ」
「その顔見たらすぐわかるわ。どうせあんたのことだから、またロクでもない賭け事でもしたんじゃないの?」
「いや〜ちょっとだけ、なっ!」
男は口ごもりつつも、やっぱり金を無心しに来たのだと白状した。
ローズマリーは微笑すらせず、ただ冷ややかに彼を見つめた。
「いい加減にしなよ。いつまでそんな風にしてるつもり?」
冷たく見つめるローズマリーに臆することなく、男はへらへらと続ける。
「頼むって、少しでいいんだ。ほら、昔のよしみってやつだよ。おまえも困ったときは俺に……」
「一度も助けられた覚えなんてないけど」
「ひでぇなぁ。あの時だってさ、俺は──」
「はいはい、都合よく脚色した武勇伝はもう結構」
ローズマリーがうんざりと視線をそらす。
元カレがさらにローズマリーに詰め寄ろうとした瞬間──
パイは男の腕を取り、自分の背に乗せるように勢いよく回す。
「うわっ──!」
男の体が宙を舞い、背中から地面へ叩きつけられた。乾いた衝撃音と同時に、土埃がぶわりと舞い上がる。
どっと、周囲の荒くれ者たちから口笛と笑い声が漏れる。
「おお〜、姉ちゃんやるねぇ!」
「見たか今の!肘の入り方完璧じゃん」
元カレは蹲ったまま「ぐぅ……」と呻いていた。
ローズマリーは一歩前に出て、彼の脇をすり抜けると、パイの方に向き直った。その瞳は、尊敬にも似た輝きを湛えていた。
「……あんた、ほんとに強いんだね。こうして目の前で見るとすごいね」
パイは一瞬きょとんとし、それから小さく目を伏せて言った。
「……別にすごくなんかない。……あなたの元カレなのにごめんなさい、思わず……」
「全然いいって。元カレっていう生き物はさ、苦しんでいようとのたれ死のうと、どうでもいいもんなんだ。女にとって元カレってそういう存在」
パイは目をぱちぱちと瞬かせる。
「……そんなもん?」
「そのうちわかるよ。わかんなければ……それはそれで幸せってこと」
「……そっか」
二人は何事もなかったように通りを歩き出す。背後ではまだ元カレが呻いていたが、誰も気に留めていなかった。