第五章
主人公の名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
修行を終えたばかりの体に、夕暮れ時の涼しい風が心地よく吹き抜ける。
トランクスは汗をぬぐいながら、ゆっくりと草の上に腰を下ろしそのままごろんと仰向けになった。そこには、すっかり秋の気配を帯びた、高く澄み切った空がひろがっていた。
目を閉じると、自然と思い出すのはあの日のこと──湖での出来事だった。
水の中で彼女が不意につないできた手の柔らかな感触が、まだ指先に残っているような気がする。
(あの日、やっと越えられた気がした。今までずっとパイに引かれていた透明な境界線を……)
これまで、パイに自分の恋心を気取られると、ふっと身を引いて距離を取られているような感覚があった。自分の思いが彼女を困らせている自覚があり、最近では気持ちを抑えるように努めてきた。
けれど、あのときは違った。むしろ、彼女の方から近づいてきてくれた。
あれは……ただのいっときの人恋しさや寂しさからだったのかもしれない。
でも、今はそれでもいい。
はっきりとした答えはわからなくてよかった。ただ、今はこのふわふわとした心地よさを味わっていたい……。あの日、感じた手のぬくもりを、何度でも反芻していたかった。
***
トランクスは、起き上がって歩き出す。修行場の裏手──小さな丘を越えた先には、最近見つけたヒガンバナの群生地がある。
真っ赤に咲く花々は、どこか妖しげで、見る者を惹きつける不思議な美しさを持っていた。
咲き乱れるその景色を前にすると、決まって思う。
(パイにも見せたいな……)
最近のトランクスは、きれいな景色や心動かされるものに出会うたび、自然と彼女の顔が浮かぶ。
「これを見たら、パイはどんな顔をするだろう」「どんな声で何て言うだろう」と想像することが、いつの間にか癖になっていた。
西の都の市場へ食料を調達に行ったときもそうだった。
市場の一角に、小さなアイスクリーム屋台を見つけた。冷凍設備を備えた小さな移動式トラック。見た目は古びていたけれど、きちんと手入れされたトラックで、中年の女性がアイスクリームを売っていた。
(そういえば……パイ、昔「アイスなんて食べたことない」って言ってたっけ)
冷たくて甘いもの。いまの世界では贅沢だけど、ここに連れてきて食べさせてあげたいと思った。きっと彼女も気に入るに違いない。
パイがアイスを食べて「冷たっ」と驚いて目を丸くして笑う姿を想像して、トランクスは不意にしんみりしてしまった。
──ただ笑っていてほしい。
泣きそうな顔でも、無理に気丈に振る舞う顔でも、張りつめた顔でもなくて。ただ、素直に笑っているパイをそばで見ていたい。
怒った顔でもいい。悲しい顔よりもずっと安心できたし、子どものころを思い出して懐かしい気持ちにもなれる。
(……今度アイスを食べに行こって誘ってみよう)
けれど──。
実はあの湖の日以来、パイと話す時間はほとんど持てなくなってしまっていた。
タイムマシンのエネルギーは、順調にチャージされている。
一方で、ブルマはそれだけに頼るつもりはなかったし、トランクスだけに背負わせるつもりもさらさらなかった。
人造人間を倒すための、あらゆる新たな手段を寝る間を惜しんで研究していた。
そのひとつが、人造人間の動きを止めるスイッチの開発だ。
ただし、それには膨大な量の精密部品や道具が必要で、この荒廃した世界ではそれらを手に入れるのは並々ならぬ労力がかかる。
パイは、ブルマの作ったリストを手に、協力してくれる工場や業者を探して各地を飛び回っていた。泊まり込みで移動し、帰ってきたかと思えばまたすぐに出発する。あるいは疲れ切って仮眠を取っている。
話す機会も、顔を合わせる時間も、なかなか取れなかった。
(……でも……もう少し落ち着いたら、誘ってみよう。夏が終わる前に)
アイスクリーム屋に。ヒガンバナに。
だけど本当は景色も行く場所もどこだっていい。ただ、隣で歩いて、笑ってほしい。
夕日に照らされたヒガンバナは、赤い炎のように揺れていた。
トランクスは風の中に立ち尽くしながら、そっと目を細めた。
トランクスは汗をぬぐいながら、ゆっくりと草の上に腰を下ろしそのままごろんと仰向けになった。そこには、すっかり秋の気配を帯びた、高く澄み切った空がひろがっていた。
目を閉じると、自然と思い出すのはあの日のこと──湖での出来事だった。
水の中で彼女が不意につないできた手の柔らかな感触が、まだ指先に残っているような気がする。
(あの日、やっと越えられた気がした。今までずっとパイに引かれていた透明な境界線を……)
これまで、パイに自分の恋心を気取られると、ふっと身を引いて距離を取られているような感覚があった。自分の思いが彼女を困らせている自覚があり、最近では気持ちを抑えるように努めてきた。
けれど、あのときは違った。むしろ、彼女の方から近づいてきてくれた。
あれは……ただのいっときの人恋しさや寂しさからだったのかもしれない。
でも、今はそれでもいい。
はっきりとした答えはわからなくてよかった。ただ、今はこのふわふわとした心地よさを味わっていたい……。あの日、感じた手のぬくもりを、何度でも反芻していたかった。
***
トランクスは、起き上がって歩き出す。修行場の裏手──小さな丘を越えた先には、最近見つけたヒガンバナの群生地がある。
真っ赤に咲く花々は、どこか妖しげで、見る者を惹きつける不思議な美しさを持っていた。
咲き乱れるその景色を前にすると、決まって思う。
(パイにも見せたいな……)
最近のトランクスは、きれいな景色や心動かされるものに出会うたび、自然と彼女の顔が浮かぶ。
「これを見たら、パイはどんな顔をするだろう」「どんな声で何て言うだろう」と想像することが、いつの間にか癖になっていた。
西の都の市場へ食料を調達に行ったときもそうだった。
市場の一角に、小さなアイスクリーム屋台を見つけた。冷凍設備を備えた小さな移動式トラック。見た目は古びていたけれど、きちんと手入れされたトラックで、中年の女性がアイスクリームを売っていた。
(そういえば……パイ、昔「アイスなんて食べたことない」って言ってたっけ)
冷たくて甘いもの。いまの世界では贅沢だけど、ここに連れてきて食べさせてあげたいと思った。きっと彼女も気に入るに違いない。
パイがアイスを食べて「冷たっ」と驚いて目を丸くして笑う姿を想像して、トランクスは不意にしんみりしてしまった。
──ただ笑っていてほしい。
泣きそうな顔でも、無理に気丈に振る舞う顔でも、張りつめた顔でもなくて。ただ、素直に笑っているパイをそばで見ていたい。
怒った顔でもいい。悲しい顔よりもずっと安心できたし、子どものころを思い出して懐かしい気持ちにもなれる。
(……今度アイスを食べに行こって誘ってみよう)
けれど──。
実はあの湖の日以来、パイと話す時間はほとんど持てなくなってしまっていた。
タイムマシンのエネルギーは、順調にチャージされている。
一方で、ブルマはそれだけに頼るつもりはなかったし、トランクスだけに背負わせるつもりもさらさらなかった。
人造人間を倒すための、あらゆる新たな手段を寝る間を惜しんで研究していた。
そのひとつが、人造人間の動きを止めるスイッチの開発だ。
ただし、それには膨大な量の精密部品や道具が必要で、この荒廃した世界ではそれらを手に入れるのは並々ならぬ労力がかかる。
パイは、ブルマの作ったリストを手に、協力してくれる工場や業者を探して各地を飛び回っていた。泊まり込みで移動し、帰ってきたかと思えばまたすぐに出発する。あるいは疲れ切って仮眠を取っている。
話す機会も、顔を合わせる時間も、なかなか取れなかった。
(……でも……もう少し落ち着いたら、誘ってみよう。夏が終わる前に)
アイスクリーム屋に。ヒガンバナに。
だけど本当は景色も行く場所もどこだっていい。ただ、隣で歩いて、笑ってほしい。
夕日に照らされたヒガンバナは、赤い炎のように揺れていた。
トランクスは風の中に立ち尽くしながら、そっと目を細めた。