第四章
主人公の名前設定
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夏の風景そのもののような田んぼ道を通り抜けると、山に続く細い一本道へとバイクを進めた。木漏れ日がキラキラ注ぐでこぼこの道をしばらく上ると、ひんやりと涼しい空気が漂ってきた。
森の奥深く、静かに広がる湖。
澄みきった水面が、青空と木々を鏡のように映していた。水辺には小さな花が咲き、遠くで鳥のさえずりが風に乗って届く。昔と、何ひとつ変わらない。
「着いたね……」
パイはバイクを降りると、辺りを見渡す。
かつて──悟飯、パイ、トランクスの三人で、修行の帰りに立ち寄った場所。あの頃と同じ草の匂いがする。
「懐かしいな……」
バイクから降りたトランクスも、パイの横に並んで話しかけた。
「うん、全然、変わってないね」
森の空気を目いっぱい深呼吸すると、パイは次の瞬間にやりと笑っていたずらっぽく言った。
「ねえ、暑いから泳ごうよ!」
そう言うが早いか、靴を脱ぐと、そのまま湖へと駆けだしてそのまま飛び込んだ。パシャーン!と水音が弾けた。
「おいっ、ちょっと待──」
慌てて声をかけたトランクスに、水しぶきが飛んできた。湖の中からパイが笑いながら手で水を跳ねあげている。
「こらっ、やったな!」
トランクスも笑い返すと、そのまま勢いよく水に飛び込んだ。
湖の水は、肌がびりっとするほど冷たかった。でもそれがむしろ心地よく、直射日光を受けた肌を冷ましてくれた。ふたりは無邪気に水をかけ合い、じゃれ合って笑った。
***
やがて、はしゃぎ疲れたふたりは水面にぷかりと浮かび、のんびりと流れる空を見ていた。空には大きな入道雲が、ゆっくりと流れていた。
(……あっちは……)
パイが、湖の端の方へ目をやった。そこは昔、ボートを係留していた場所。
パイは足を湖の底に付けると、腰までの水に浸かったままそちらの方向へゆっくり水の中を歩く。
進んだ先には、古びたボートがひっそりと佇んでいた。
「あ……」
パイの目の前に、静かに幻のような情景がよみがえる。
──兄、悟飯と、トランクスと三人で、このボートに乗って釣りをしたことがあった。
「ねー兄ちゃん、こっちに魚いるってば!」
「いやいや、こっちだよ。俺がさっき見たんだって!」
「まあまあ、2人とも落ち着いて。どっちにも餌投げてみようか」
小舟の上では、パイとトランクスが張り合い、悟飯がその間で優しく笑っていた。
──あの日の光景。
──あの笑い声。
──もう、絶対に戻らない時間。
(……兄ちゃんに、会いたい)
寂しくてたまらなくなり、胸の奥底にしまっていた悲しみがいっきにあふれ出した。
(どうして……あのとき……)
なぜ兄は、自分を置いて、人造人間にただ立ち向かっていったのか。
ずっと胸の奥で抱えてきた問い──それは、兄に見捨てられたような痛みだった。
自分の存在は、兄に何としてでも生きることを優先させる理由にはならなかったのだろうか。戦いを思いとどまらせる理由にならなかったのか。
言葉にすることすら許せなかった、幼い怒りと深い喪失。自分の感情に蓋をして、何も感じないようにすることに精一杯だった。
気づけばパイは、ただ静かにボートを見つめたまま、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
一粒、また一粒。ぽつりぽつりと涙が湖に落ちていく。
やがてそれは止まらなくなり、声を殺してしゃくり上げる。
──そのときだった。そっと背中に温かい温もりを感じた。
トランクスだった。気づかぬうちに近づいていたのだろう。
何も言わず、ただそっと背中をなでてくれている。その手は少しためらいがちで、ぎこちなくて、でもたまらなく優しかった。
パイはそのまま震えるようにトランクスの胸に飛び込むと、しがみついて泣き続けた。
「……っ」
トランクスは驚きながらも、しっかりとその体を抱きしめる。細い肩が、小さく震えていた。
夏の風が、湖面を撫でて通り過ぎていった。しばらくの間、トランクスは何も言わずに、ただ、腕の中にいるパイの痛みを静かに受け止めていた。
森の奥深く、静かに広がる湖。
澄みきった水面が、青空と木々を鏡のように映していた。水辺には小さな花が咲き、遠くで鳥のさえずりが風に乗って届く。昔と、何ひとつ変わらない。
「着いたね……」
パイはバイクを降りると、辺りを見渡す。
かつて──悟飯、パイ、トランクスの三人で、修行の帰りに立ち寄った場所。あの頃と同じ草の匂いがする。
「懐かしいな……」
バイクから降りたトランクスも、パイの横に並んで話しかけた。
「うん、全然、変わってないね」
森の空気を目いっぱい深呼吸すると、パイは次の瞬間にやりと笑っていたずらっぽく言った。
「ねえ、暑いから泳ごうよ!」
そう言うが早いか、靴を脱ぐと、そのまま湖へと駆けだしてそのまま飛び込んだ。パシャーン!と水音が弾けた。
「おいっ、ちょっと待──」
慌てて声をかけたトランクスに、水しぶきが飛んできた。湖の中からパイが笑いながら手で水を跳ねあげている。
「こらっ、やったな!」
トランクスも笑い返すと、そのまま勢いよく水に飛び込んだ。
湖の水は、肌がびりっとするほど冷たかった。でもそれがむしろ心地よく、直射日光を受けた肌を冷ましてくれた。ふたりは無邪気に水をかけ合い、じゃれ合って笑った。
***
やがて、はしゃぎ疲れたふたりは水面にぷかりと浮かび、のんびりと流れる空を見ていた。空には大きな入道雲が、ゆっくりと流れていた。
(……あっちは……)
パイが、湖の端の方へ目をやった。そこは昔、ボートを係留していた場所。
パイは足を湖の底に付けると、腰までの水に浸かったままそちらの方向へゆっくり水の中を歩く。
進んだ先には、古びたボートがひっそりと佇んでいた。
「あ……」
パイの目の前に、静かに幻のような情景がよみがえる。
──兄、悟飯と、トランクスと三人で、このボートに乗って釣りをしたことがあった。
「ねー兄ちゃん、こっちに魚いるってば!」
「いやいや、こっちだよ。俺がさっき見たんだって!」
「まあまあ、2人とも落ち着いて。どっちにも餌投げてみようか」
小舟の上では、パイとトランクスが張り合い、悟飯がその間で優しく笑っていた。
──あの日の光景。
──あの笑い声。
──もう、絶対に戻らない時間。
(……兄ちゃんに、会いたい)
寂しくてたまらなくなり、胸の奥底にしまっていた悲しみがいっきにあふれ出した。
(どうして……あのとき……)
なぜ兄は、自分を置いて、人造人間にただ立ち向かっていったのか。
ずっと胸の奥で抱えてきた問い──それは、兄に見捨てられたような痛みだった。
自分の存在は、兄に何としてでも生きることを優先させる理由にはならなかったのだろうか。戦いを思いとどまらせる理由にならなかったのか。
言葉にすることすら許せなかった、幼い怒りと深い喪失。自分の感情に蓋をして、何も感じないようにすることに精一杯だった。
気づけばパイは、ただ静かにボートを見つめたまま、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
一粒、また一粒。ぽつりぽつりと涙が湖に落ちていく。
やがてそれは止まらなくなり、声を殺してしゃくり上げる。
──そのときだった。そっと背中に温かい温もりを感じた。
トランクスだった。気づかぬうちに近づいていたのだろう。
何も言わず、ただそっと背中をなでてくれている。その手は少しためらいがちで、ぎこちなくて、でもたまらなく優しかった。
パイはそのまま震えるようにトランクスの胸に飛び込むと、しがみついて泣き続けた。
「……っ」
トランクスは驚きながらも、しっかりとその体を抱きしめる。細い肩が、小さく震えていた。
夏の風が、湖面を撫でて通り過ぎていった。しばらくの間、トランクスは何も言わずに、ただ、腕の中にいるパイの痛みを静かに受け止めていた。