第四章
主人公の名前設定
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パオズ山の家の裏手にある小高い丘を登った先に、小さな墓地がある。木々に囲まれたその場所は、セミの声が響き、夏の空気はむせるほどに濃い。
パイは墓前にしゃがみ込み、静かに手を合わせていた。風が吹くたびに木の葉が揺れ、木漏れ日が足元でキラキラ揺れる。
悟飯の命日──この場所に兄を埋葬してから、何度この季節を乗り越えてきただろう。
背後に気配を感じて振り返ると、トランクスが立っていた。
「……来てくれたんだね」
そう言って微笑むパイに、トランクスは少し照れくさそうに頷いた。
毎年墓参りに来ると、必ず先客が小さな花束を残してくれていることは知っていた。毎年変わらない、青いリボンで束ねられた花……。
トランクスは、まだ心の整理ができていないパイに余計な負担をかけまいと、いつも早朝に墓へ訪れては、黙って花を添えて帰っていた。そっとしてくれるのが何よりもありがたかった。さりげなく寄り添ってくれているトランクスの気配をパイはいつでも感じていた。
「毎年、来てくれてたよね。……ありがとう。お花、いつも気づいてた」
「うん。……今年は、時間をずらしてみたんだ。会えるかもって思って……」
「これからは一緒にお参りしよう」
パイの穏やかな言葉に、トランクスの肩からふっと力が抜ける。そしてしっかりとうなずいた。
ふたりはしばらく無言のまま、墓前に並んで立った。風が木々をくぐり抜ける音と、セミの声だけが響く。こんなふうに誰かと並んでこの場所に立つのは兄の埋葬以来初めてのことだった。不思議と心は穏やかだった。
トランクスが手を合わせ終えるのを待って、パイは口を開いた。
「ねえ……このあと、予定ある?」
「えっ? いや、特には。……どうして?」
パイは少しだけいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「昔、3人でよく行ったでしょ。湖。釣りに行ったり、昼寝したり……覚えてる?」
「もちろん!忘れるわけない」
「……久しぶりに、行ってみない?」
兄との思い出の場所へ再び行くこと──それは彼女にとっては未来へ進む大きな一歩のはずだ。彼女のその提案が何より嬉しかったし、その同行相手に選んでもらえたのも光栄だった。
トランクスの胸の奥が、じんわりとあたたかくなる。
「行こう!」
と今にも飛び出そうとするトランクスをパイが制すると、ポケットからおもむろにポイポイカプセルを取り出す。
「今日は──こっちで行ってみない?」
ポンッという軽い音とともに、白煙の中から現れたのは、赤い塗装が印象的な一台のバイクだった。レトロなフォルムに、どこか懐かしさが漂っている。
「これ……見たことあるな。倉庫の隅にあったやつ?」
「うん。ブルマさんにお願いして、修理させてもらったの。……ほとんど手伝ってもらったけど」
パイは照れたように笑い、ハンドルに手を添える。
「昔、ブルマさんと……私の父さんで、このバイクに乗って冒険したんだって。崖を越えたり、川を渡ったり……すごい旅だったって」
「……俺もその話聞いたことある」
「さすがに2人みたいにそんなに遠くまでは行けないけど──今日は、これで湖まで行ってみない?ね?」
パイはまたがり、軽くエンジンを吹かす。低く響く音が、夏の空気を震わせた。
「後ろ、乗って」
「えっ……あ、ああ」
トランクスは少し戸惑いながらバイクにまたがった。最初は遠慮がちにシートの端をそっと握っていたが、
「もう、それじゃ振り落とされちゃうよ? ちゃんと、つかまって」
「……わかった」
少しためらいながらも、トランクスはパイの腰にそっと腕を回した。Tシャツを通しても伝わってくるあたたかい肌の感触に──ドキリと鼓動が早まる。
まるで胸の奥にしまっていた想いが、ふいにかき乱されるように。
(やばい……変なこと考えるな俺……)
パイとの距離の近さに、余計なことを考えまいと必死に自分を制する。
「じゃ、行くよ!」
パイの声とともに、バイクは風を切って走り出した。舗装の甘いでこぼこ道をすり抜けるたびに、夏の風がふたりを包んでいく。
パイの髪がふわりと舞い、トランクスの鼻先をくすぐる。ほのかに香るシャンプーの匂い。頬が熱くなる。
しばらく走った頃だった。そわそわとずっと落ち着かなかったトランクスだが、目を上げてみると思わず小さな声を漏らした。
「うわ……」
道の先に広がっていたのは、まるで一枚の風景画のような景色だった。
まっすぐにのびる一本道の向こうに見える青い空には、入道雲がゆっくりと湧き上がっている。白と青のコントラストが、これ以上ないほどに鮮やかだった。
道の両脇に広がる田んぼには、澄みきった水が静かにたたえられ、まるで鏡のように空の青さを映し出している。
「……こんなに、きれいな場所だったんだな」
思わず呟いたトランクスの声は、心からの感嘆だった。
空を飛んでいたときは、地上の景色なんてほんの一瞬で通り過ぎるだけだった。
けれど今──バイクのゆっくりとした速度と、前にいる彼女の存在が、すべてを違った色で見せてくれる。
「ね? 来てよかったでしょ」
パイの声が、風の中でやわらかく響いた。
トランクスは、それにただ──静かに、うなずいた。
パイは墓前にしゃがみ込み、静かに手を合わせていた。風が吹くたびに木の葉が揺れ、木漏れ日が足元でキラキラ揺れる。
悟飯の命日──この場所に兄を埋葬してから、何度この季節を乗り越えてきただろう。
背後に気配を感じて振り返ると、トランクスが立っていた。
「……来てくれたんだね」
そう言って微笑むパイに、トランクスは少し照れくさそうに頷いた。
毎年墓参りに来ると、必ず先客が小さな花束を残してくれていることは知っていた。毎年変わらない、青いリボンで束ねられた花……。
トランクスは、まだ心の整理ができていないパイに余計な負担をかけまいと、いつも早朝に墓へ訪れては、黙って花を添えて帰っていた。そっとしてくれるのが何よりもありがたかった。さりげなく寄り添ってくれているトランクスの気配をパイはいつでも感じていた。
「毎年、来てくれてたよね。……ありがとう。お花、いつも気づいてた」
「うん。……今年は、時間をずらしてみたんだ。会えるかもって思って……」
「これからは一緒にお参りしよう」
パイの穏やかな言葉に、トランクスの肩からふっと力が抜ける。そしてしっかりとうなずいた。
ふたりはしばらく無言のまま、墓前に並んで立った。風が木々をくぐり抜ける音と、セミの声だけが響く。こんなふうに誰かと並んでこの場所に立つのは兄の埋葬以来初めてのことだった。不思議と心は穏やかだった。
トランクスが手を合わせ終えるのを待って、パイは口を開いた。
「ねえ……このあと、予定ある?」
「えっ? いや、特には。……どうして?」
パイは少しだけいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「昔、3人でよく行ったでしょ。湖。釣りに行ったり、昼寝したり……覚えてる?」
「もちろん!忘れるわけない」
「……久しぶりに、行ってみない?」
兄との思い出の場所へ再び行くこと──それは彼女にとっては未来へ進む大きな一歩のはずだ。彼女のその提案が何より嬉しかったし、その同行相手に選んでもらえたのも光栄だった。
トランクスの胸の奥が、じんわりとあたたかくなる。
「行こう!」
と今にも飛び出そうとするトランクスをパイが制すると、ポケットからおもむろにポイポイカプセルを取り出す。
「今日は──こっちで行ってみない?」
ポンッという軽い音とともに、白煙の中から現れたのは、赤い塗装が印象的な一台のバイクだった。レトロなフォルムに、どこか懐かしさが漂っている。
「これ……見たことあるな。倉庫の隅にあったやつ?」
「うん。ブルマさんにお願いして、修理させてもらったの。……ほとんど手伝ってもらったけど」
パイは照れたように笑い、ハンドルに手を添える。
「昔、ブルマさんと……私の父さんで、このバイクに乗って冒険したんだって。崖を越えたり、川を渡ったり……すごい旅だったって」
「……俺もその話聞いたことある」
「さすがに2人みたいにそんなに遠くまでは行けないけど──今日は、これで湖まで行ってみない?ね?」
パイはまたがり、軽くエンジンを吹かす。低く響く音が、夏の空気を震わせた。
「後ろ、乗って」
「えっ……あ、ああ」
トランクスは少し戸惑いながらバイクにまたがった。最初は遠慮がちにシートの端をそっと握っていたが、
「もう、それじゃ振り落とされちゃうよ? ちゃんと、つかまって」
「……わかった」
少しためらいながらも、トランクスはパイの腰にそっと腕を回した。Tシャツを通しても伝わってくるあたたかい肌の感触に──ドキリと鼓動が早まる。
まるで胸の奥にしまっていた想いが、ふいにかき乱されるように。
(やばい……変なこと考えるな俺……)
パイとの距離の近さに、余計なことを考えまいと必死に自分を制する。
「じゃ、行くよ!」
パイの声とともに、バイクは風を切って走り出した。舗装の甘いでこぼこ道をすり抜けるたびに、夏の風がふたりを包んでいく。
パイの髪がふわりと舞い、トランクスの鼻先をくすぐる。ほのかに香るシャンプーの匂い。頬が熱くなる。
しばらく走った頃だった。そわそわとずっと落ち着かなかったトランクスだが、目を上げてみると思わず小さな声を漏らした。
「うわ……」
道の先に広がっていたのは、まるで一枚の風景画のような景色だった。
まっすぐにのびる一本道の向こうに見える青い空には、入道雲がゆっくりと湧き上がっている。白と青のコントラストが、これ以上ないほどに鮮やかだった。
道の両脇に広がる田んぼには、澄みきった水が静かにたたえられ、まるで鏡のように空の青さを映し出している。
「……こんなに、きれいな場所だったんだな」
思わず呟いたトランクスの声は、心からの感嘆だった。
空を飛んでいたときは、地上の景色なんてほんの一瞬で通り過ぎるだけだった。
けれど今──バイクのゆっくりとした速度と、前にいる彼女の存在が、すべてを違った色で見せてくれる。
「ね? 来てよかったでしょ」
パイの声が、風の中でやわらかく響いた。
トランクスは、それにただ──静かに、うなずいた。