第四章
主人公の名前設定
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トランクスは玄関のドアを後ろ手で閉じると、しばらくそのまま立ち尽くしていた。髪の先からも、服からも、水が滴り落ちている。
「わっ……びしょびしょじゃない!」
パイの声がした。奥から顔を出した彼女は、すぐにバスタオルを取りにバタバタと戻っていき、数秒後、トランクスの頭にふわりとそれをかけた。
「急に降り出したね。風邪ひくよ」
まだ少し気が抜けたように黙っていたトランクスだが、パイの顔を見ると気持ちが和んだ。
「さっきブルマさんから連絡あったよ。知り合いの整備工場にいるから、大雨が落ち着いてから帰るって。ごはんはふたりで先に食べてて、って」
「……そっか」
「ね、ごはんどうしよっか?」
パイが自然な調子で問いかける。トランクスは少し間をおいて、廊下の奥の──キッチンのある方を指さした。
「冷凍庫にコンビニ弁当があったと思うから、それで……」
「えー、また?」
パイは首をかしげて笑った。ちょっと呆れたような、でもどこか楽しそうな表情だった。
「そんなのばっかりじゃ、力出ないでしょ? 冷蔵庫にいろいろ材料あるみたいだったし……」
パイはにっこり笑いながら、トランクスをじっと見つめる。
「私が作ってあげる! ね、シャワー浴びてきたら手伝って」
腕まくりをしながら張り切る彼女の笑顔を見ると──先ほどまで雨に打たれて冷え切っていた身体に、じんわり体温が戻ってくるような心地がした。トランクスは、
「……うん。わかった」
と小さくうなずいた。
***
雨は止む気配もなく、強い力で窓を叩き続けている。けれど、キッチンでは温かい湯気が漂い、2人の笑い声が響いていた。
パイは餃子の皮を手に取りながら、ちらりと横目でトランクスを見た。
「ちょっと、それ……へたくそ。中身が出ちゃうってば」
「えっ? ……そんなことないだろ?」
「あるよ。ほら、見て。端が閉じ切れてないじゃない」
そう言って、パイはトランクスが包んだ餃子を指差した。中に包む餡が多すぎるのか、微妙に口が開いている。なんとも不安定な形だ。
「パイのだって似たようなもんじゃないか?」
「なに言ってるの。こっちのほうが、ずっとずっときれいじゃない!」
そういってパイが指差した餃子も、トランクスのよりは多少うまく包まれているものの、けっして上手とは言い難い。ふたりの包んだ餃子は、なんだかどちらも不格好で、お互い様だった。
じゃれ合いのようなやり取りをしながら、お互い不器用に手を動かしてひたすら餃子を包んでいく。窓の外では雷鳴が遠くで響いていたけれど、このキッチンの中では穏やかな時間が流れていた。
ジュウ……という音がフライパンから響いた。フライパンに乗せられた餃子が、軽やかな音を立て、香ばしい匂いが広がっていく。水を入れて蒸し焼きにすること数分──。
「よし、できた!」
皿に盛られた餃子をテーブルに並べ、ふたりで向かい合って座る。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます!」
トランクスは一口餃子をかじると、驚いたように眉を上げ、しばし無言になる。
「……うまい!」
その一言に、パイも得意げにうなずく。
「でしょ。皮の端がちゃんと閉じてれば、もっとよかったけどね」
「それ、俺に言ってるよね?」
パイがにやりと笑う。トランクスも苦笑で返した。
しばらく静かに食事が進んだ後、ふと、パイがぽつりと口を開いた。
「……でもね、母さんは、もっともっと上手だったんだ」
その声は懐かしい記憶を優しくなぞるような、やわらかな響きだった。
「兄ちゃんと一緒に、何度も餃子作りにチャレンジしたけど……全然母さんの味にならなくて。今になって思うの。ちゃんと習っておけばよかったなって」
トランクスは、箸を持ったまま驚いたようにパイを見つめた。
彼女がこんなふうに、自分から悟飯の話をすることはほとんどなかった。過去を語ることは、ずっと痛みを伴う行為だったはずだ。あの死以来、名前を出すのも、触れることさえ避けていたふたりの間で──それは、ひとつの変化だった。トランクスはその変化を静かに受け止めることにした。
「……そんなにおいしかったんだ。食べてみたかったな」
「うん。あれは、ね。ほんとに特別だった」
パイの目には、哀しみではなく、懐かしさが浮かんでいるように見えた。それは、時間が痛みの角を少しだけ削ぎ落とし──柔らかくしてくれたのかもしれない。
ふいに、パイが顔をあげる。
「……そうだ。トランクスって、もう少ししたら過去の世界に行くんだよね? だったら、あっちで食べてきなよ。母さんの餃子。兄ちゃんと一緒に」
「……俺が行って、迷惑じゃない?」
「全然! 母さんはね、人にごはん食べさせるの大好きだったの。力つけろって、山盛りの料理を出してくれるよ。きっと気に入ると思う」
そう言って、パイは笑った。その笑顔がまぶしかった。
「……じゃあ、過去の世界に行く楽しみが、ひとつ増えたな」
「うん、楽しみにしてて」
トランクスの心に、懐かしい記憶がよみがえってくる。悟飯とパイと過ごした日々。
現実は過酷で、修行も過酷で、辛いことは多くて……でも3人一緒に過ごしたあの日々は楽しいことや笑い合うこともあって、今から思えば夢のようだった。
悟飯を失ってからの日々は、2人の間にぽっかり隙間ができてしまったけれど、今こうして再び穏やかな時間が流れるようになった。それが何よりもうれしかった。
(……いまはこの時間を大切に守りたい)
パイが誰を好きでもかまわない。今こうして再び一緒に時間を過ごせることがなによりも大事だと思えた。もう少しだけこの時間をかみしめていたい。その先のことは、また後で考えればいい。
嵐の夜、ガラスの向こうでは風がうねり、雨が窓を叩きつける。雷鳴が遠くでうなった。けれど、家の中は温かで優しい時間が流れていた。
「わっ……びしょびしょじゃない!」
パイの声がした。奥から顔を出した彼女は、すぐにバスタオルを取りにバタバタと戻っていき、数秒後、トランクスの頭にふわりとそれをかけた。
「急に降り出したね。風邪ひくよ」
まだ少し気が抜けたように黙っていたトランクスだが、パイの顔を見ると気持ちが和んだ。
「さっきブルマさんから連絡あったよ。知り合いの整備工場にいるから、大雨が落ち着いてから帰るって。ごはんはふたりで先に食べてて、って」
「……そっか」
「ね、ごはんどうしよっか?」
パイが自然な調子で問いかける。トランクスは少し間をおいて、廊下の奥の──キッチンのある方を指さした。
「冷凍庫にコンビニ弁当があったと思うから、それで……」
「えー、また?」
パイは首をかしげて笑った。ちょっと呆れたような、でもどこか楽しそうな表情だった。
「そんなのばっかりじゃ、力出ないでしょ? 冷蔵庫にいろいろ材料あるみたいだったし……」
パイはにっこり笑いながら、トランクスをじっと見つめる。
「私が作ってあげる! ね、シャワー浴びてきたら手伝って」
腕まくりをしながら張り切る彼女の笑顔を見ると──先ほどまで雨に打たれて冷え切っていた身体に、じんわり体温が戻ってくるような心地がした。トランクスは、
「……うん。わかった」
と小さくうなずいた。
***
雨は止む気配もなく、強い力で窓を叩き続けている。けれど、キッチンでは温かい湯気が漂い、2人の笑い声が響いていた。
パイは餃子の皮を手に取りながら、ちらりと横目でトランクスを見た。
「ちょっと、それ……へたくそ。中身が出ちゃうってば」
「えっ? ……そんなことないだろ?」
「あるよ。ほら、見て。端が閉じ切れてないじゃない」
そう言って、パイはトランクスが包んだ餃子を指差した。中に包む餡が多すぎるのか、微妙に口が開いている。なんとも不安定な形だ。
「パイのだって似たようなもんじゃないか?」
「なに言ってるの。こっちのほうが、ずっとずっときれいじゃない!」
そういってパイが指差した餃子も、トランクスのよりは多少うまく包まれているものの、けっして上手とは言い難い。ふたりの包んだ餃子は、なんだかどちらも不格好で、お互い様だった。
じゃれ合いのようなやり取りをしながら、お互い不器用に手を動かしてひたすら餃子を包んでいく。窓の外では雷鳴が遠くで響いていたけれど、このキッチンの中では穏やかな時間が流れていた。
ジュウ……という音がフライパンから響いた。フライパンに乗せられた餃子が、軽やかな音を立て、香ばしい匂いが広がっていく。水を入れて蒸し焼きにすること数分──。
「よし、できた!」
皿に盛られた餃子をテーブルに並べ、ふたりで向かい合って座る。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます!」
トランクスは一口餃子をかじると、驚いたように眉を上げ、しばし無言になる。
「……うまい!」
その一言に、パイも得意げにうなずく。
「でしょ。皮の端がちゃんと閉じてれば、もっとよかったけどね」
「それ、俺に言ってるよね?」
パイがにやりと笑う。トランクスも苦笑で返した。
しばらく静かに食事が進んだ後、ふと、パイがぽつりと口を開いた。
「……でもね、母さんは、もっともっと上手だったんだ」
その声は懐かしい記憶を優しくなぞるような、やわらかな響きだった。
「兄ちゃんと一緒に、何度も餃子作りにチャレンジしたけど……全然母さんの味にならなくて。今になって思うの。ちゃんと習っておけばよかったなって」
トランクスは、箸を持ったまま驚いたようにパイを見つめた。
彼女がこんなふうに、自分から悟飯の話をすることはほとんどなかった。過去を語ることは、ずっと痛みを伴う行為だったはずだ。あの死以来、名前を出すのも、触れることさえ避けていたふたりの間で──それは、ひとつの変化だった。トランクスはその変化を静かに受け止めることにした。
「……そんなにおいしかったんだ。食べてみたかったな」
「うん。あれは、ね。ほんとに特別だった」
パイの目には、哀しみではなく、懐かしさが浮かんでいるように見えた。それは、時間が痛みの角を少しだけ削ぎ落とし──柔らかくしてくれたのかもしれない。
ふいに、パイが顔をあげる。
「……そうだ。トランクスって、もう少ししたら過去の世界に行くんだよね? だったら、あっちで食べてきなよ。母さんの餃子。兄ちゃんと一緒に」
「……俺が行って、迷惑じゃない?」
「全然! 母さんはね、人にごはん食べさせるの大好きだったの。力つけろって、山盛りの料理を出してくれるよ。きっと気に入ると思う」
そう言って、パイは笑った。その笑顔がまぶしかった。
「……じゃあ、過去の世界に行く楽しみが、ひとつ増えたな」
「うん、楽しみにしてて」
トランクスの心に、懐かしい記憶がよみがえってくる。悟飯とパイと過ごした日々。
現実は過酷で、修行も過酷で、辛いことは多くて……でも3人一緒に過ごしたあの日々は楽しいことや笑い合うこともあって、今から思えば夢のようだった。
悟飯を失ってからの日々は、2人の間にぽっかり隙間ができてしまったけれど、今こうして再び穏やかな時間が流れるようになった。それが何よりもうれしかった。
(……いまはこの時間を大切に守りたい)
パイが誰を好きでもかまわない。今こうして再び一緒に時間を過ごせることがなによりも大事だと思えた。もう少しだけこの時間をかみしめていたい。その先のことは、また後で考えればいい。
嵐の夜、ガラスの向こうでは風がうねり、雨が窓を叩きつける。雷鳴が遠くでうなった。けれど、家の中は温かで優しい時間が流れていた。