第四章
主人公の名前設定
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トランクスが帰路につくころ、空は鈍色の雲にすっかり覆われていた。重く垂れこめた雲が空一面に幾重にも重なる。空気は湿り気を帯びて肌にまとわりつき、雨の気配を漂わせていた。
まるで、自分の胸のうちをなぞるような空模様だった。
「気になるなら、誘ってみろよ」
チャンの言葉が、耳の奥にずっと残っている。軽い調子で言いながらも、どこか背中を押してくれるような優しい響き……。
(……誘う、か)
彼女とどれだけ長く一緒に過ごしてきたんだろう。修行も、戦いも──あまりに多くの時間を共有してきた。けれどそのどれも「ふたりでどこかへ行く」ような時間ではなかった。
(いや、違う。昔は……)
思い出す。悟飯さんがまだ生きていた頃のこと。
日々の厳しい修行のあと、悟飯さんはたまに気分転換にと、川や湖へ連れて行ってくれた。
陽の沈む静かな水辺。パイと並んで泳いだり、釣り竿を垂れながらおしゃべりして過ごしたり。釣った魚を焚火で焼いて、焦げた部分を押しつけ合って、笑い合った。
(……楽しかったな)
あの時間は特別だった。自分たちにとってほんの束の間の“日常”だったから。
でも──悟飯さんが亡くなって、ふたりだけになってからは2人でいるのがぎこちなくなった。心にぽっかり穴が開いたまま、向き合い方さえわからなくなっていた。
(きっと……気づかれてた)
自分の想いなんて、とっくにパイには知られていたのかもしれない。
だからこそ戸惑い、そして──ほんの少し、距離を置かれていたのかもしれない。
せっかく、また笑って話せるようになった今。
彼女の笑顔が少しずつ戻ってきたこの時間を壊してしまうくらいなら、この気持ちは、心の奥底、深く深くにしまっておくべきなんじゃないか──そう思っていた。
(……でも、それでいいのか?)
問いかけてみる。けれど、答えは出ない。
ぼんやりと考えているうちに、
ぽつ、ぽつ……。
頬に落ちてきたのは小さな雨粒だった。
「……あ」
顔を上げると、空の色がさらに暗い灰色になっていた。
途端に、まるで堪えきれなかったかのように、雲が破れた。
ザァアァ……。
音を立てて、冷たい雨が一気に降りそそいでくる。雨粒が肩を打ち、髪を濡らし、視界が揺れる。シャツの布地が肌に張りついて、体温がじわじわと奪われていく。
(……なんだよ、こんなときに)
苦笑にも似た溜め息が、口から漏れる。
けれど、それでも飛ぶ速度を上げようとは思わなかった。
ただ、雨に打たれていたかった。
流れ落ちてくる冷たい滴が、自分のふがいなさや情けなさ、そしてままならない恋心を、静かに浄化してくれるような気がしていた。
(俺は……何をしてるんだろうな)
空から降る雨の音だけが、響きつづけていた。
まるで、自分の胸のうちをなぞるような空模様だった。
「気になるなら、誘ってみろよ」
チャンの言葉が、耳の奥にずっと残っている。軽い調子で言いながらも、どこか背中を押してくれるような優しい響き……。
(……誘う、か)
彼女とどれだけ長く一緒に過ごしてきたんだろう。修行も、戦いも──あまりに多くの時間を共有してきた。けれどそのどれも「ふたりでどこかへ行く」ような時間ではなかった。
(いや、違う。昔は……)
思い出す。悟飯さんがまだ生きていた頃のこと。
日々の厳しい修行のあと、悟飯さんはたまに気分転換にと、川や湖へ連れて行ってくれた。
陽の沈む静かな水辺。パイと並んで泳いだり、釣り竿を垂れながらおしゃべりして過ごしたり。釣った魚を焚火で焼いて、焦げた部分を押しつけ合って、笑い合った。
(……楽しかったな)
あの時間は特別だった。自分たちにとってほんの束の間の“日常”だったから。
でも──悟飯さんが亡くなって、ふたりだけになってからは2人でいるのがぎこちなくなった。心にぽっかり穴が開いたまま、向き合い方さえわからなくなっていた。
(きっと……気づかれてた)
自分の想いなんて、とっくにパイには知られていたのかもしれない。
だからこそ戸惑い、そして──ほんの少し、距離を置かれていたのかもしれない。
せっかく、また笑って話せるようになった今。
彼女の笑顔が少しずつ戻ってきたこの時間を壊してしまうくらいなら、この気持ちは、心の奥底、深く深くにしまっておくべきなんじゃないか──そう思っていた。
(……でも、それでいいのか?)
問いかけてみる。けれど、答えは出ない。
ぼんやりと考えているうちに、
ぽつ、ぽつ……。
頬に落ちてきたのは小さな雨粒だった。
「……あ」
顔を上げると、空の色がさらに暗い灰色になっていた。
途端に、まるで堪えきれなかったかのように、雲が破れた。
ザァアァ……。
音を立てて、冷たい雨が一気に降りそそいでくる。雨粒が肩を打ち、髪を濡らし、視界が揺れる。シャツの布地が肌に張りついて、体温がじわじわと奪われていく。
(……なんだよ、こんなときに)
苦笑にも似た溜め息が、口から漏れる。
けれど、それでも飛ぶ速度を上げようとは思わなかった。
ただ、雨に打たれていたかった。
流れ落ちてくる冷たい滴が、自分のふがいなさや情けなさ、そしてままならない恋心を、静かに浄化してくれるような気がしていた。
(俺は……何をしてるんだろうな)
空から降る雨の音だけが、響きつづけていた。