第三章
主人公の名前設定
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「そろそろ腹も減っただろ。……俺のおすすめ食ってみるか?」
チャンは軽く親指を立て、通りの奥を差し示す。そこには、木材とトタンで組まれた簡素な屋台がぽつんと佇んでいた。客は小さな椅子に座り、湯気を立てる丼に顔を近づけている。
「ラーメン、だよね?」
「おう。俺が食った中じゃ、ここの親父が一番うまい」
そう言って胸を張るチャンに連れられ、パイは屋台の前に腰を下ろした。すぐに、醤油と焦がしニンニクの香ばしい匂いが鼻をくすぐってくる。屋台の奥では、寡黙な店主が無言で鍋を振るっていた。
やがて湯気をまとったラーメンが2つ目の前に置かれた。パイは箸を取って、麺をすする。
「……!」
一瞬、言葉を失い、次の瞬間──
「……おいしい!」
パイが目を見開いて叫ぶと、チャンは得意げに笑った。
「だろ! 俺が食った中で一番のシェフだ!」
その言葉に、カウンターの奥で作業をしていた店主が、ちらりと目を上げた。無言のままだったが、わずかに唇の端が上がっていた。ほんの少しだけ、得意げな顔を見せた気がした。
店主はそのまま滑らかな手つきで鍋を扱い、寸分の無駄もなく麺を湯に泳がせる──その所作に、最初は気付かなかった違和感があった。よく見ると、店主の右袖は肘で止まっており、足も軽く引きずっていた。
(……片手が、ない……足も……)
人造人間の襲撃。きっとこの人も、あの暴力に巻き込まれた一人なのだろう。
けれど、その姿に弱さは微塵もなかった。失ったものがあってもなお、自分の手で鍋を振り、旨い一杯を作り上げる。──このラーメンには、そんな店主の誇り高い生き様が溶け込んでいる。
あつあつのスープに、しっかり味の染みたチャーシュー、コシのある麺。焼け跡の町の片隅で、こんなにも丁寧に作られた味に出会えるとは思っていなかった。
「……なんだか……すごく沁みる味」
ぽつりとつぶやくパイに、チャンは箸を止めた。
「だよな」
それ以上は言わず、ふたりはしばらく黙ってラーメンを味わった。喧騒の中で味わう、小さな静けさ。湯気に包まれたその時間が、妙に心地よかった。
ラーメンを食べ終えると、チャンがふいに立ち上がる。
「……もうひとつ、見せたいとこがある」
人混みを離れ、ふたりは市場のさらに奥へと足を向ける。瓦礫を抜け、崩れた階段を登る。細い坂道の途中でパイがちらりと振り返ると、遠くに市場の喧騒が、かすかに見下ろせた。
そして──たどり着いた丘の上。
「……わあ……」
パイの口から、思わずため息のような声が漏れた。
瓦礫の向こうに、穏やかに波打つ青い海が広がっていた。日差しを受けた海面がきらめき、まるで時間ごと包み込んでしまうような穏やかさで、遥か彼方へと続いている。
「ね、きれいだろ?」
チャンが隣で言った。
「……うん。すごく」
風が吹く。潮の香りがふたりの間をすり抜けていく。
パイは無意識に手に持っていた小さな花束を見下ろした。何もかも壊れた世界でも──美しい自然はまだそこにある──こんなふうに、人と笑って、美味しいものを食べて、ただ目の前の風景に見とれられる時間がある。
(……世界って思ってたより、広い)
風が吹き抜ける丘の上。海を見て目を輝かせるパイの横顔を、チャンがそっと見つめていた。
チャンは軽く親指を立て、通りの奥を差し示す。そこには、木材とトタンで組まれた簡素な屋台がぽつんと佇んでいた。客は小さな椅子に座り、湯気を立てる丼に顔を近づけている。
「ラーメン、だよね?」
「おう。俺が食った中じゃ、ここの親父が一番うまい」
そう言って胸を張るチャンに連れられ、パイは屋台の前に腰を下ろした。すぐに、醤油と焦がしニンニクの香ばしい匂いが鼻をくすぐってくる。屋台の奥では、寡黙な店主が無言で鍋を振るっていた。
やがて湯気をまとったラーメンが2つ目の前に置かれた。パイは箸を取って、麺をすする。
「……!」
一瞬、言葉を失い、次の瞬間──
「……おいしい!」
パイが目を見開いて叫ぶと、チャンは得意げに笑った。
「だろ! 俺が食った中で一番のシェフだ!」
その言葉に、カウンターの奥で作業をしていた店主が、ちらりと目を上げた。無言のままだったが、わずかに唇の端が上がっていた。ほんの少しだけ、得意げな顔を見せた気がした。
店主はそのまま滑らかな手つきで鍋を扱い、寸分の無駄もなく麺を湯に泳がせる──その所作に、最初は気付かなかった違和感があった。よく見ると、店主の右袖は肘で止まっており、足も軽く引きずっていた。
(……片手が、ない……足も……)
人造人間の襲撃。きっとこの人も、あの暴力に巻き込まれた一人なのだろう。
けれど、その姿に弱さは微塵もなかった。失ったものがあってもなお、自分の手で鍋を振り、旨い一杯を作り上げる。──このラーメンには、そんな店主の誇り高い生き様が溶け込んでいる。
あつあつのスープに、しっかり味の染みたチャーシュー、コシのある麺。焼け跡の町の片隅で、こんなにも丁寧に作られた味に出会えるとは思っていなかった。
「……なんだか……すごく沁みる味」
ぽつりとつぶやくパイに、チャンは箸を止めた。
「だよな」
それ以上は言わず、ふたりはしばらく黙ってラーメンを味わった。喧騒の中で味わう、小さな静けさ。湯気に包まれたその時間が、妙に心地よかった。
ラーメンを食べ終えると、チャンがふいに立ち上がる。
「……もうひとつ、見せたいとこがある」
人混みを離れ、ふたりは市場のさらに奥へと足を向ける。瓦礫を抜け、崩れた階段を登る。細い坂道の途中でパイがちらりと振り返ると、遠くに市場の喧騒が、かすかに見下ろせた。
そして──たどり着いた丘の上。
「……わあ……」
パイの口から、思わずため息のような声が漏れた。
瓦礫の向こうに、穏やかに波打つ青い海が広がっていた。日差しを受けた海面がきらめき、まるで時間ごと包み込んでしまうような穏やかさで、遥か彼方へと続いている。
「ね、きれいだろ?」
チャンが隣で言った。
「……うん。すごく」
風が吹く。潮の香りがふたりの間をすり抜けていく。
パイは無意識に手に持っていた小さな花束を見下ろした。何もかも壊れた世界でも──美しい自然はまだそこにある──こんなふうに、人と笑って、美味しいものを食べて、ただ目の前の風景に見とれられる時間がある。
(……世界って思ってたより、広い)
風が吹き抜ける丘の上。海を見て目を輝かせるパイの横顔を、チャンがそっと見つめていた。