第三章
主人公の名前設定
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パイが待ち合わせの場所に着くと、チャンはバイクにまたがり、片肘をハンドルに乗せて待っていた。
パイの姿を見つけると、チャンはすぐに片手を挙げて笑みを浮かべた。
「おっ、来た来た。……それ、似合ってるな」
「……ありがとう」
照れくさそうに目を逸らしながら、それでも素直にお礼を言った。初めて袖を通すようなかわいい服にどこか落ち着かない気持ちだったパイは、その選択を肯定された気がしてどこかほっとしていた。
「じゃあ、これに乗って行こう」
チャンは軽快に言うと、後部座席を手でポンと叩いた。
「……バイクに乗るの、初めて」
パイは少し戸惑いながらも、チャンの背中の少し後ろにそっと飛び乗った。
「そりゃちょうどいい。いい景色、見せてやるよ」
エンジンが唸りを上げて、振動と共に動き出す。バイクが加速すると、パイの体に風が吹きつけてきた。
空を飛ぶよりもずっと低い視点で、地面すれすれを走り抜ける感覚。地形の起伏、吹き抜ける風、街の匂い──そのすべてが生々しく感じられて、鮮やかで、思わず胸が躍る。
(バイクって……こんな感じなんだ)
崩れかけた建物やひび割れた道路──その合間を縫うように人々の姿がある。家の前で洗濯物を干す老女、壊れた看板を直している男たち、瓦礫の中から使える素材を集める若者たち──この地面からの目線でしか気づけない人の営みがあった。
「着いたぞ!」
チャンの声に顔を上げると、そこには思いがけない光景が広がっていた。
市場──かつて破壊された街の跡地を再利用したその場所には、急ごしらえの屋台やテントが数多くひしめき合っていた。色とりどりの布や旗が風にはためき、人々の話し声や笑い声が響き、鍋からは湯気が立ち上がっている──音と匂いと熱気が混ざりあった空間は、生きている、という熱に包まれているようだった。
「すごい……」
パイは思わず小さく声を漏らす。祭りのような喧騒の中、彼女は立ち尽くしていた。
「どうした?」と、パイの隣に来たチャンが尋ねる。
「……こんなに人がいて、こんなににぎやかな場所があるなんて……私、知らなかった」
「何があっても人間また立ち上がる。案外たくましいもんだろ?」
チャンの言葉に、パイはこくりと頷いた。人造人間に破壊されたこの場所で、人々は新しい形の商売を立ち上げていた。
「じゃあ、行こうか!」
チャンと一緒に歩いて出店の方を回ると、通りを歩いていくと、すれ違った若い娘たちの涼やかな笑い声が聞こえた。
「ほら、あそこ見てみろよ」
チャンが指さした先には、飴細工の屋台があった。年配の男が、湯気の立つ鍋から飴をすくいあげ、手早く細い棒へ巻きつけて繊細な飴細工にしていた。パイは目を丸くして、その職人芸に見入った。
「すごい……」
湯気に透ける飴はキラキラ輝き、男は握りばさみで器用に飴をつまむと、刃を入れて形を作り出していく。それはみるみる間に尾の長い、見事な鳳凰の形になった。まるで魔法のようだった。
「……きれい。こんなの初めて見た」
パイの声には、素直な驚きと喜びが滲んでいた。
さらに歩くと、今度は香ばしい匂いが鼻をくすぐった。たこ焼き、焼き鳥、とうもろこし──鉄板のジュージュー焼く音が響き、いろんなものの焼けた匂いが混じり合っている。人々の笑顔があふれ、老若男女が買い物や食事を楽しんでいた。
「……見てるだけで楽しい」
ポツリとつぶやくパイに、チャンは満足そうに笑う。
「だろ?」
そのとき、12、3歳くらいの少女がチャンに駆け寄ってきた。日に焼けた笑顔を浮かべ、花の入ったバスケットを抱えている。
「チャンさん、今日もいい花あるよ! 朝咲いたばっかり!」
「お、そりゃいいな。今日ももらおうかな」
少女が見せてくれた花束は、白や黄、青、ピンクと色とりどりで、荒れた土地でもたくましく根を張り生き抜いてきた命の証は、鮮烈な色で夏を謳っていた。
チャンはその中から白い花を選んで買うと、パイに差し出した。
「ほら、どうぞ。……初デート記念だ」
戸惑いながらも、パイはそっとその花束を受け取った。花の香りが、微かに鼻先をくすぐった。それは忘れていた季節の匂いだった。
「ありがとう……」
パイの姿を見つけると、チャンはすぐに片手を挙げて笑みを浮かべた。
「おっ、来た来た。……それ、似合ってるな」
「……ありがとう」
照れくさそうに目を逸らしながら、それでも素直にお礼を言った。初めて袖を通すようなかわいい服にどこか落ち着かない気持ちだったパイは、その選択を肯定された気がしてどこかほっとしていた。
「じゃあ、これに乗って行こう」
チャンは軽快に言うと、後部座席を手でポンと叩いた。
「……バイクに乗るの、初めて」
パイは少し戸惑いながらも、チャンの背中の少し後ろにそっと飛び乗った。
「そりゃちょうどいい。いい景色、見せてやるよ」
エンジンが唸りを上げて、振動と共に動き出す。バイクが加速すると、パイの体に風が吹きつけてきた。
空を飛ぶよりもずっと低い視点で、地面すれすれを走り抜ける感覚。地形の起伏、吹き抜ける風、街の匂い──そのすべてが生々しく感じられて、鮮やかで、思わず胸が躍る。
(バイクって……こんな感じなんだ)
崩れかけた建物やひび割れた道路──その合間を縫うように人々の姿がある。家の前で洗濯物を干す老女、壊れた看板を直している男たち、瓦礫の中から使える素材を集める若者たち──この地面からの目線でしか気づけない人の営みがあった。
「着いたぞ!」
チャンの声に顔を上げると、そこには思いがけない光景が広がっていた。
市場──かつて破壊された街の跡地を再利用したその場所には、急ごしらえの屋台やテントが数多くひしめき合っていた。色とりどりの布や旗が風にはためき、人々の話し声や笑い声が響き、鍋からは湯気が立ち上がっている──音と匂いと熱気が混ざりあった空間は、生きている、という熱に包まれているようだった。
「すごい……」
パイは思わず小さく声を漏らす。祭りのような喧騒の中、彼女は立ち尽くしていた。
「どうした?」と、パイの隣に来たチャンが尋ねる。
「……こんなに人がいて、こんなににぎやかな場所があるなんて……私、知らなかった」
「何があっても人間また立ち上がる。案外たくましいもんだろ?」
チャンの言葉に、パイはこくりと頷いた。人造人間に破壊されたこの場所で、人々は新しい形の商売を立ち上げていた。
「じゃあ、行こうか!」
チャンと一緒に歩いて出店の方を回ると、通りを歩いていくと、すれ違った若い娘たちの涼やかな笑い声が聞こえた。
「ほら、あそこ見てみろよ」
チャンが指さした先には、飴細工の屋台があった。年配の男が、湯気の立つ鍋から飴をすくいあげ、手早く細い棒へ巻きつけて繊細な飴細工にしていた。パイは目を丸くして、その職人芸に見入った。
「すごい……」
湯気に透ける飴はキラキラ輝き、男は握りばさみで器用に飴をつまむと、刃を入れて形を作り出していく。それはみるみる間に尾の長い、見事な鳳凰の形になった。まるで魔法のようだった。
「……きれい。こんなの初めて見た」
パイの声には、素直な驚きと喜びが滲んでいた。
さらに歩くと、今度は香ばしい匂いが鼻をくすぐった。たこ焼き、焼き鳥、とうもろこし──鉄板のジュージュー焼く音が響き、いろんなものの焼けた匂いが混じり合っている。人々の笑顔があふれ、老若男女が買い物や食事を楽しんでいた。
「……見てるだけで楽しい」
ポツリとつぶやくパイに、チャンは満足そうに笑う。
「だろ?」
そのとき、12、3歳くらいの少女がチャンに駆け寄ってきた。日に焼けた笑顔を浮かべ、花の入ったバスケットを抱えている。
「チャンさん、今日もいい花あるよ! 朝咲いたばっかり!」
「お、そりゃいいな。今日ももらおうかな」
少女が見せてくれた花束は、白や黄、青、ピンクと色とりどりで、荒れた土地でもたくましく根を張り生き抜いてきた命の証は、鮮烈な色で夏を謳っていた。
チャンはその中から白い花を選んで買うと、パイに差し出した。
「ほら、どうぞ。……初デート記念だ」
戸惑いながらも、パイはそっとその花束を受け取った。花の香りが、微かに鼻先をくすぐった。それは忘れていた季節の匂いだった。
「ありがとう……」