第二章
主人公の名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
──1か月後。
西の都にあるレジスタンスの地下拠点。薄暗い照明に照らされながら、パイは生真面目な顔をして、道具や機械類の整備を手伝っていた。
「ほら、飲まないと干からびるよ」
不意に差し出された水筒に、パイは瞬きをした。声の主はレジスタンスメンバーの女性──ローズマリー。24歳で、長いカールした金髪に青い瞳のセクシーで姉御肌な女性だ。おおらかな性格で周囲からの信頼も厚い。
「……ありがとう」
パイは水筒を受け取った。そのしぐさはまだどこかぎこちなかったが、それでも逃げずに目を見てお礼を言った。
「ははっ、なんか不器用だな、あんた。でも一生懸命なところ嫌いじゃないよ」
パイは小さくうなずいて、それ以上は何も言わなかった。山奥で暮らし、修行漬けの日々を送ってきたパイにとって、年の近い女性との交流にはまだ戸惑うことばかりだった。どう振舞えばいいのかもわからない。
しかし、戸惑いながらもゆっくり言葉を交わすようになっていった。
少し前の彼女なら、そもそも言葉を交わそうともしなかったはずだ。
その様子を少し離れた場所からトランクスが見守っていた。彼女の変化を、ほほえましく受け止めるように。
***
──1カ月前。あの夜。
トランクスはゆっくりと目を開けると、レジスタンス拠点の無機質な天井が見えた。その冷たい灰色をぼんやりと見つめながら、自分がまだ生きていることを確認する。
「……トランクス!」
声と同時に、体に重みを感じる。彼の胸元にパイが飛び込んできた。
「ごめん、ごめんなさい……わたし……わたしが……!」
震える声、彼女の両肩が細かく震えているのが伝わる。
「泣くなって……」
それでも、こんなに近くに彼女を感じたのは久しぶりで、どこか嬉しくて。トランクスは困ったように笑った。
パイは言葉を探すように、ぽつり、ぽつりと話しだした。
「怖かった……トランクスが死ぬかと思って、怖くてたまらなかった……。……あのとき、自分ひとりで突っ込んで……バカみたいだった……。私、あなたまで失いたくない」
まるで泣きじゃくる子どものようだったが、彼女なりに絞り出した、素直で切実な思いが込められていた。
「……俺もだよ」
少しためらいながらもパイの背中にそっと手を添えると、トランクスは言った。
「パイが突っ込んでいったとき、すごく怖かった。止められなくて……。今までもずっと、パイが死んだらどうしようって、そればっかり考えてたから……」
小さな静寂が、ふたりを包んだ。呼吸と鼓動だけが重なっていた。
しばらくしてトランクスがそっと口を開いた。
「……なあ、実はそうしていると傷口が痛むんだけど……」
「わっごめん!」とパイは慌てて体を起こすと、思わずトランクスと目が合った。
一拍の間をおいて、ふたりはふっと笑い合った。お互いちょっとだけ肩の力が抜けた気がした。張りつめていた二人の間の時間がようやくほどけたような、やっと訪れた安堵のひとときだった。
***
今、パイは拠点の片隅で必死に整備をしていた。
そのとき、「パイさん!」と明るく声をかけてきたのは、以前パイとトランクスに救われた少年のライムだった。少し日焼けした顔に無邪気な笑顔を浮かべ、木製の長い棒を手にしている。
「棒術の構え、教えてよ! トランクスさんに教わったけど、まだ全然ピンとこなくてさ」
「……私、教えるの上手くないから……」
「いいよ! ちょっとでいいから。お願い!お願い!」
押しに弱いのか、しぶしぶといった感じだが、パイは一拍置いて立ち上がる。
肩に下げていた如意棒を手に取ると、ライムの横に並び静かに構えの姿勢を取った。
「手は……こう。足は……もっと外」
「おおっ……なるほど、こうか……?」
ふたりのやり取りは、なんだか微笑ましかった。
ライムの構えに手を添える様子は、不器用な優しさを含んでいた。
その様子を見まもっていたトランクスは、ほんの少し目を細めた。
その瞬間──
ふと、パイがあたりを見渡すと、すぐにトランクスに気づいてにっこり微笑んだ。まるで、人混みで親を探して見つけた子どもが安心するように。
トランクスの心臓が跳ねるように、鼓動が早くなる。
不意の笑顔にギクシャクと手を挙げて合図すると、思わず照れてうつむいてしまった。
1か月前のあの夜を境に、パイの中では何かが変わったのだろう。態度や言葉が変わってきつつあった。よそよそしさはなくなり、最近はゆっくりと、昔仲良く焚火を囲んで語り合ったときみたいな距離感を取り戻しつつあった。
(こうやって、笑い合えるだけでうれしいんだな……)
しかし、喜びを感じたのはつかの間、ふと視線を戻すとパイはもうこちらを見ていなかった。チャンがやってきて何か言葉を交わしている。チャンが話すことを聞いて、パイがクスクス笑っている。その表情は、トランクスに見せる笑顔とは少し違って見えた。
胸の奥で、さざ波のように広がる感情のうねり。それはゆっくりと、不安の渦となって彼の心に広がっていった。
──仲間を持つことは、彼女にも、自分にとっても大きな一歩のはずだ。
……なのに。
どうして、こんなにも落ち着かないんだろう。
西の都にあるレジスタンスの地下拠点。薄暗い照明に照らされながら、パイは生真面目な顔をして、道具や機械類の整備を手伝っていた。
「ほら、飲まないと干からびるよ」
不意に差し出された水筒に、パイは瞬きをした。声の主はレジスタンスメンバーの女性──ローズマリー。24歳で、長いカールした金髪に青い瞳のセクシーで姉御肌な女性だ。おおらかな性格で周囲からの信頼も厚い。
「……ありがとう」
パイは水筒を受け取った。そのしぐさはまだどこかぎこちなかったが、それでも逃げずに目を見てお礼を言った。
「ははっ、なんか不器用だな、あんた。でも一生懸命なところ嫌いじゃないよ」
パイは小さくうなずいて、それ以上は何も言わなかった。山奥で暮らし、修行漬けの日々を送ってきたパイにとって、年の近い女性との交流にはまだ戸惑うことばかりだった。どう振舞えばいいのかもわからない。
しかし、戸惑いながらもゆっくり言葉を交わすようになっていった。
少し前の彼女なら、そもそも言葉を交わそうともしなかったはずだ。
その様子を少し離れた場所からトランクスが見守っていた。彼女の変化を、ほほえましく受け止めるように。
***
──1カ月前。あの夜。
トランクスはゆっくりと目を開けると、レジスタンス拠点の無機質な天井が見えた。その冷たい灰色をぼんやりと見つめながら、自分がまだ生きていることを確認する。
「……トランクス!」
声と同時に、体に重みを感じる。彼の胸元にパイが飛び込んできた。
「ごめん、ごめんなさい……わたし……わたしが……!」
震える声、彼女の両肩が細かく震えているのが伝わる。
「泣くなって……」
それでも、こんなに近くに彼女を感じたのは久しぶりで、どこか嬉しくて。トランクスは困ったように笑った。
パイは言葉を探すように、ぽつり、ぽつりと話しだした。
「怖かった……トランクスが死ぬかと思って、怖くてたまらなかった……。……あのとき、自分ひとりで突っ込んで……バカみたいだった……。私、あなたまで失いたくない」
まるで泣きじゃくる子どものようだったが、彼女なりに絞り出した、素直で切実な思いが込められていた。
「……俺もだよ」
少しためらいながらもパイの背中にそっと手を添えると、トランクスは言った。
「パイが突っ込んでいったとき、すごく怖かった。止められなくて……。今までもずっと、パイが死んだらどうしようって、そればっかり考えてたから……」
小さな静寂が、ふたりを包んだ。呼吸と鼓動だけが重なっていた。
しばらくしてトランクスがそっと口を開いた。
「……なあ、実はそうしていると傷口が痛むんだけど……」
「わっごめん!」とパイは慌てて体を起こすと、思わずトランクスと目が合った。
一拍の間をおいて、ふたりはふっと笑い合った。お互いちょっとだけ肩の力が抜けた気がした。張りつめていた二人の間の時間がようやくほどけたような、やっと訪れた安堵のひとときだった。
***
今、パイは拠点の片隅で必死に整備をしていた。
そのとき、「パイさん!」と明るく声をかけてきたのは、以前パイとトランクスに救われた少年のライムだった。少し日焼けした顔に無邪気な笑顔を浮かべ、木製の長い棒を手にしている。
「棒術の構え、教えてよ! トランクスさんに教わったけど、まだ全然ピンとこなくてさ」
「……私、教えるの上手くないから……」
「いいよ! ちょっとでいいから。お願い!お願い!」
押しに弱いのか、しぶしぶといった感じだが、パイは一拍置いて立ち上がる。
肩に下げていた如意棒を手に取ると、ライムの横に並び静かに構えの姿勢を取った。
「手は……こう。足は……もっと外」
「おおっ……なるほど、こうか……?」
ふたりのやり取りは、なんだか微笑ましかった。
ライムの構えに手を添える様子は、不器用な優しさを含んでいた。
その様子を見まもっていたトランクスは、ほんの少し目を細めた。
その瞬間──
ふと、パイがあたりを見渡すと、すぐにトランクスに気づいてにっこり微笑んだ。まるで、人混みで親を探して見つけた子どもが安心するように。
トランクスの心臓が跳ねるように、鼓動が早くなる。
不意の笑顔にギクシャクと手を挙げて合図すると、思わず照れてうつむいてしまった。
1か月前のあの夜を境に、パイの中では何かが変わったのだろう。態度や言葉が変わってきつつあった。よそよそしさはなくなり、最近はゆっくりと、昔仲良く焚火を囲んで語り合ったときみたいな距離感を取り戻しつつあった。
(こうやって、笑い合えるだけでうれしいんだな……)
しかし、喜びを感じたのはつかの間、ふと視線を戻すとパイはもうこちらを見ていなかった。チャンがやってきて何か言葉を交わしている。チャンが話すことを聞いて、パイがクスクス笑っている。その表情は、トランクスに見せる笑顔とは少し違って見えた。
胸の奥で、さざ波のように広がる感情のうねり。それはゆっくりと、不安の渦となって彼の心に広がっていった。
──仲間を持つことは、彼女にも、自分にとっても大きな一歩のはずだ。
……なのに。
どうして、こんなにも落ち着かないんだろう。