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brother.──プロローグ(1〜終)

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brother.4


「たった一人の肉親が死んだのに、通夜で母親の噂を流されても、上っ面だけの親戚に恩を売られても、世話になってるからって不当な扱いを受けても怒りもせず気を遣ってへらへら良い顔して」


「そんな、違う」


「挙げ句、僕の両親にもそういう顔して。身元引受人になってもらって申し訳ない気持ちから、こうやって恵まれた環境を用意されても、わざわざ自分からこき使われようとしてるの?

その小動物的根性、気に入らない」


「貴方に何が…分かるって、言うんですか」


「さぁね……でも少なくとも。今の君は、誰かに捕食されるのを待ってる小動物だよ」


「──じゃあ、どうすれば良かったんですか!」


頭に血がのぼって、声を荒げる。


「貴方が言う通り、たった一人の血の繋がった母は……お母さんはもう、いないんです!ずっと二人で生きてきたのに!」


父は自分が生まれる前に、出ていったのだという。
母はある研究所の職員として自身の『水の呪い』を解くために、また娘である自分も将来的に発症するだろうその『不治の病』を治すために孤独に戦っていた。

親の跡を継がずに本家を出ていき、親戚に白い目で見られても。病気の研究をし続けて、自分のことを大切にしてくれていた母を、名前は誇らしく思っていた。


「その母が……私の半分が、欠けてしまったのに!母が私に遺した腕輪だって……もう、無いのに」


(そう、母の死の間際に譲り受けた大切な腕輪は……今、手元にない)


あの通夜の日、親戚の子と起こしてしまったトラブルやどさくさの後に、ふとカバンを見ると腕輪は消えていたのだ。
名前はその日使われていた部屋や、広い庭も一人で必死になって探した。喪服も革靴も土で汚れるのも構わず。池に入って探そうとするのを、親戚が止めたほどだった。
結局、腕輪は見つからなかった。

名前が腕輪を身に着けていれば、済む話だった。ただ、腕につけて母がいなくなったことを認めてしまうことを、まだ受け入れられなかった。

名前はそれを今の今まで後悔していた。


(悔しい、悔しい。こんな、恵まれた人!大きなお家で、二人の両親に育てられて。

それなのに『一人で生きてきた』って顔して)


「──孤独を知らない人が、分かったようなこと言わないで!」



欠けてて、弱くて、子供な自分が生きていく為に、誰かの下で苗床になって自分を押しこめて暮らしていく以外に、どんな選択肢があるというんだろうか。

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