brother.──プロローグ(1〜終)
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brother.2
少女と恭弥が初めて言葉を交わしたのは、母が亡くなってから間もない頃だった。親族一同で集まり執り行われた、母の通夜の日。
雅やかな庭園の緑に、白い陽射しの照りつける、暑い夏の日だった。
……
本家の当主の娘であった母の通夜が、あくまで形式として親族の間で執り行われた。
あの日少女は、娘である自分への極めて表面的な心配の声やお悔やみの言葉から逃げだすように、親戚へはありきたりな感謝を述べて言葉をあしらい、気配を消して密かに白黒の幕をくぐり抜けた。
廊下を走り靴を履いて外に出る。庭園の池の側まで赴くと、独りで泣いた。
うんざりだった。
今は、誰の顔も見たくない。
あくまで形だけの通夜で、表面上を取り繕う親戚の誰が、自分が居ないことなど気に留めるだろう?
(本家を出て、研究者として働いていたお母さんが厄介者扱いされてたのは、知ってる。だからもう、ほっといて)
自分は今、世界で独りきりだ。
そう思ってる時だった。恭弥が声をかけてきたのは。
『泣いてるの? ……母親が死んだから』
『!……ッ…ほっといて、くれませんか?……私は、大丈夫ですので』
突然背後に現れた少年に動揺したが、無理して表情をつくって、答えた。早く何処かへ行ってくれ、と。
『君、どうするの。 これから独りだけど』
『ッ……』
『ま……僕には関係ないけど』
少女が答えないと分かると、彼は興味をなくしたように、どこかへ行ってしまった。
少女は彼が『独りだ』とわざわざ言ってきたことに腹を立てたが、直ぐにどうでもいことだと思った。
-
(今なら分かるけど……あの時は、心配して声かけてくれたんだよね。失礼なこと言っちゃったかも。お兄さん、怒ってるかな)
通夜の日を思い返す少女に、母親が訊ねた。
「ねぇ。この子に、あなたのお名前も教えてあげて頂戴」
「!……はい」
自分のよく知る同年代の『男の子達』とは違い、どこか大人びている。鋭利な空気をまとった“恭弥”を前に、少女は緊張で目を震わせながら答えた。
「名前、です」
「……」
彼は黙って名前を見ていた。
「あ……ごめんね。この子は同じ年の子みたいに、余り騒がしい子ではないからね。気にしなくていいよ。
でも、どうかな。椎南ちゃんは、恭弥と仲良くしてくれるかい?
僕達は、仕事で家を空けることが多くて、なかなかこの子に構ってやれないから。
良かったら……そうだね
恭弥の遊び相手になってくれないかな」
少女と恭弥が初めて言葉を交わしたのは、母が亡くなってから間もない頃だった。親族一同で集まり執り行われた、母の通夜の日。
雅やかな庭園の緑に、白い陽射しの照りつける、暑い夏の日だった。
……
本家の当主の娘であった母の通夜が、あくまで形式として親族の間で執り行われた。
あの日少女は、娘である自分への極めて表面的な心配の声やお悔やみの言葉から逃げだすように、親戚へはありきたりな感謝を述べて言葉をあしらい、気配を消して密かに白黒の幕をくぐり抜けた。
廊下を走り靴を履いて外に出る。庭園の池の側まで赴くと、独りで泣いた。
うんざりだった。
今は、誰の顔も見たくない。
あくまで形だけの通夜で、表面上を取り繕う親戚の誰が、自分が居ないことなど気に留めるだろう?
(本家を出て、研究者として働いていたお母さんが厄介者扱いされてたのは、知ってる。だからもう、ほっといて)
自分は今、世界で独りきりだ。
そう思ってる時だった。恭弥が声をかけてきたのは。
『泣いてるの? ……母親が死んだから』
『!……ッ…ほっといて、くれませんか?……私は、大丈夫ですので』
突然背後に現れた少年に動揺したが、無理して表情をつくって、答えた。早く何処かへ行ってくれ、と。
『君、どうするの。 これから独りだけど』
『ッ……』
『ま……僕には関係ないけど』
少女が答えないと分かると、彼は興味をなくしたように、どこかへ行ってしまった。
少女は彼が『独りだ』とわざわざ言ってきたことに腹を立てたが、直ぐにどうでもいことだと思った。
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(今なら分かるけど……あの時は、心配して声かけてくれたんだよね。失礼なこと言っちゃったかも。お兄さん、怒ってるかな)
通夜の日を思い返す少女に、母親が訊ねた。
「ねぇ。この子に、あなたのお名前も教えてあげて頂戴」
「!……はい」
自分のよく知る同年代の『男の子達』とは違い、どこか大人びている。鋭利な空気をまとった“恭弥”を前に、少女は緊張で目を震わせながら答えた。
「名前、です」
「……」
彼は黙って名前を見ていた。
「あ……ごめんね。この子は同じ年の子みたいに、余り騒がしい子ではないからね。気にしなくていいよ。
でも、どうかな。椎南ちゃんは、恭弥と仲良くしてくれるかい?
僕達は、仕事で家を空けることが多くて、なかなかこの子に構ってやれないから。
良かったら……そうだね
恭弥の遊び相手になってくれないかな」