TOS/Promise -約束- プチリメイク版

 【Story 1】


 ――俺達は、出逢う運命にあったのかもしれない。

 今年も桜が咲き誇る季節になり、うららかな陽の光が降り注ぐ春。
 ふわふわとした暖かい陽気の中、俺は眠ってしまってた。
「…あなたはいつも居眠りして、起きなさい!」
「……うぁっ!! いってぇ……」
「授業中よ。次、居眠りしたら……あなただけ毎日居残りにしてあげてもよくってよ?」
「あ、それだけは勘弁してくれ――いや、してください……」
「よろしい。では、授業中に戻りましょう」
 毎度の如く、居眠りして先生に叩き起こされる。
 これが俺の学園生活である……。
 ちなみに、俺はロイド。この学園の2年生だ。
 普通すぎてつまらない日々を送っている。
 何か、新しい刺激を求めてるんだ。どきどきする、そんな刺激を――。

 ◆ ◆ ◆

 授業が終わり、放課後。
 幼馴染のコレットと帰り道にある公園まで歩いてきたところで、近くの小学校に通う友人のジーニアスと合流する。
「もー、遅いよ二人とも!」
「ごめんね」
「ごめんな、先生にちょっと説教されてて」
「説教? また授業中に居眠りでもしたんでしょ? まったく、あまり姉さんを困らせないでよねー……。長時間愚痴を聞かされるのって疲れるんだよ」
 ジーニアスとリフィル先生は歳の離れた姉弟だ。
 ふたり揃って頭が良く、学校でも羨ましがられることもしばしばだ。
 興味のないことに関してはさっぱりな俺とは、頭の出来が正反対って事だな! 悔しいけど!
「わ、悪かったなっ……。じゃ、帰るか!」
「うん!」
「そうだね」
 俺達はだらだらと喋りながら帰り道を歩く。
 コレットが転んで教室の壁を壊したこと、来年遠くの私立中学に通うか悩んでること――。
 ずっと変わらない気がしていたこの日常も、終わりがあると気付いて、ふと切なくなった。
「じゃ、また明日!」
「またね〜」
「おう!」
 曲がり角で二人と別れた後、用事を思い出す。
「そうだ。今日はスーパーに寄らないと」
 今夜は親父が仕事で立て込んでるから、俺が飯当番だ。
 牛肉たっぷりの肉鍋でも作るか!

 ◆ ◆ ◆

「ありがとうございましたー」
 手に買い物袋をぶら下げて家に帰ろうとした時、不意に桜が見たくなった。
 確か満開の桜が見える公園があったはずだ。
 ま、少しだけなら大丈夫かな。
「綺麗だなぁ……」
 満開の桜を眺めていると、ふと隣に誰かがいることに気付いた。
 紺色の薄いパーカーを着た、鳶色の髪色の男だ。
 ずっと桜を見上げている。
 何かに惹かれるように、その男に話しかけた。
「……桜、綺麗ですね」
 話しかけても返事はない。
 無視かよ! と思った矢先、返事が帰ってきた。
「……ああ」
 見た目からは考えられないほど、低い声の返事だった。
 とりあえず話を繋げてみることにする。
「ここで、何してるんですか?」
「この場所が懐かしくなってな」
「昔、誰かとここに来たことが?」
「ああ、随分と昔のことだが」
「そうですか……」
 よく分からないけど、この人からは懐かしい感じがする。
 むしょうに名前を知りたくなって訊ねた。
「えっと、良かったらでいいんだけど、名前――教えてくれたらいいなって」
 隣の男は鼻で笑って、いたずらに答えた。
「知り合って10分も経っていない者に名乗れと?」
「うーん、お互い知り合うのは名前を教え合ってから……って先生が言ってたんだけど――あ、俺の名前はロイド」
「ロイド……か」
「ああ」
「……ロイド」
 顔をマジマジと覗き込まれて、急に恥ずかしくなる。
 なんでそんなに見つめるんだよ……。
「な、なんだよ……」
「――お前は、甘い物は好きか?」
「へ?」
 あまりに唐突すぎる問いかけに、疑問符を浮かべて一瞬硬直してしまった。
 男は迫るように回答を求めてくる。
「聞いているのだ。答えてくれ」
「え、うん。好きだけど? それが何か?」
「――そうか、別に大したことではないのだが」
「あんたって、変なヤツだな」
「フ……。もう18時か。では失礼する。また明日ここで会おう」
「ああ! 約束な」
 言いたいことを言ったのか、不思議な男は去っていった。
 俺もいい加減帰らないと。
 これが――こんな些細な事が、これから起こる運命の始まりだったなんて。
 今の俺には、考えられなかった。

 ◆ ◆ ◆

 なんだか不思議な気分だ。
 昨日、あの男と初めて逢ったはずなのに、懐かしい感じがした。
 まるで……父さんのような――。
 俺には本当の両親がいない。
 母さんは俺が小さい頃に事故で他界して……父さんは行方が分からない。
 もしかしたら――俺は捨てられたのかもしれない。
 でも名前は辛うじて覚えてる。
 その名前は――クラトス。
 あ、一人じゃないぞ。親父ならいる。親父は遠い親戚だけど。
 俺を本当の息子だと思ってくれてる、自慢の親父さ!
「ただいま」
「……遅かったな」
「ごめんな、親父。ちょっと散歩してたら遅くなった」
「そうか。飯食って宿題やって早く寝るんだぞ」
「分かってるよ」
 俺ん家は、昔でいう鍛冶屋みたいな工務店だ。
 親父がガラス製品や包丁を作ってるんだ。
 時々俺も手伝うから、簡単なものは作れるぞ!
 台所に立って、ぐつぐつ煮立った鍋に少しぬるくなった牛肉を投入する。
 20分煮込んで出来上がった肉鍋を親父のところへ持っていく。
「おう! うめぇじゃねえか!」
 俺特製の肉鍋を食べた親父は、曇りのない笑顔でそう言った。
 まぁ、当然だよな!
「そりゃそうと、おめぇも食ったらちゃんと宿題やるんだぞ」
 うげ、しっかりと杭を刺された――いや、釘を打たれた。

 ◆ ◆ ◆

 机に向かい、プリントとノートと向き合ったものの……全くシャーペンが進まない。
 こういう時は――!
「『アレ』やって寝るか……」
 ちなみに、アレとは――ゲームだ。
 最近『TOA』にハマってる。戦闘が面白いんだぜ!
 それはそうとして……。
「やっぱ宿題かったるいな〜。明日、授業始まる前にコレットに写させてもらうか……」
 宿題を中断し、TOAを進めて寝る。
 明日あの男との『約束』をちょっと楽しみにして……。


 【Story 1 Encount -遭遇- 桜の下の出逢い】
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