TOS/全年齢

 十字架の痕


 全ての始まりは、神の悪戯だった。
 特として変な出逢いではなく、予告もされなかった突然の顔合わせだったのだから。
 まさかそれが、俺たちを引き裂く運命という名の悲劇の開幕でもあった事を、俺はまだ知らなかった。

 手から滑り落ち、地面に落下した剣にこびりついた紅いもの。
 もう二度と、皮肉も助言も口にはしないかつての師匠――そして、唯一の肉親。
 決闘を行う事は、どちらかが必ずして散るという事を十分に理解していたはずなのに、それでも……涙が溢れて止まらないのは何故だろう……。
『正々堂々刃を交え、勝利したのなら、その者に決して情けをかけるな』
 アンタは以前、俺にそう言った。
 それでも、それでも――アンタだけには、情けない姿を晒さずにはいられないんだ……。
 ずっと隠していたけど、本当はアンタの事が好きだった。
 剣の師匠として、親として、恋愛対象として――。
 でも、その想いも、もう二度と届くことはない。
 壊れやすいシャボン玉のように、天へ昇る最中に割れてしまうのだから……。
 俺は、大事な人を失った。
 許される事のない刻印を刻まれた。
 なぁ、左胸の傷――まだ痛むんだ。
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