TOS/全年齢
消失 -Sleep-
世界統合後から数百年が過ぎたのだろうか。
当時はまだ小さな芽だった大樹も、今では世界樹と呼ぶに相応しい姿となっていた。
この場所に、二人の天使は佇んでいる。
あの頃と何一つ変わらぬ姿で。
「……この木も、成長したな」
「そうだな」
少年の言葉に連ねるようにして、男も口を開く。
二人の表情には、当時のような明るい雰囲気は無かった。
「――なぁ、俺たち、ずっとこうして一緒に過ごしてきたけど……もう、いられないと思う」
少年は暗い声色で、今まで抱えてきた不満を明かす。
それを聞いた男は無言で頷いた後、こう答えた。
「……そうか、お前がそう言うのなら、私もそう思うことにしよう」
この男は昔からこうだ。
大切な人を傷付けたくないがゆえに、相手の言葉に同調し、本音を誤魔化すのだ。
「……なあ、アンタの――クラトスの本心を聞かせてくれよ」
「私は――お前が望むのなら別れてもよいと思っている」
どうしてアンタはいつも……俺の希望を優先するんだよ……。
「……じゃあ――別れよう」
俺は、この事を決断して後悔しないのだろうか?
本当に、これが俺が望んだ事なのだろうか――?
「――ああ」
そう言うと、男は少年をやんわりと抱きしめた。
温もりから愛した記憶が鮮明に呼び起こされ、少年は瞳に涙を浮かべた。
「……私は、お前が私の息子で良かったと、心から思っている」
「……俺も、父さんの息子で良かったと思う」
「これまでの時間で、お前やアンナのような大切な存在に出逢えた事を、私は誇りにしたい」
「精一杯誇れよ。アンタは讃えられる事を成し遂げてきたんだからさ」
「フ……それもそうだな」
男は少々自嘲染みた笑みを浮かべる。
やがて、この時が訪れた。
「好きだったよ、クラトス」
「私も……お前を愛していた」
「またな」「さらばだ」
きっと同じ事を言ってくれるのだろうと予想して口にした別れの言葉。
しかしそれは、最後の瞬間ですれ違ってしまった。
恐らくあの言葉が、彼の本音だったのだろう。
異なる言葉に気付いて振り返る頃には、彼の姿はどこにもなく、彼の佇んでいた場所に、ただ輝石が落ちているだけだった。
「――ごめん」
俺は、選択を間違ってしまったんだ。
後悔しないと決めていたはずなのに、涙が止まらない。
雪降る街で想いを伝えあった日も、初めてキスをした日も、初めて体を重ね合わせた日も、全て、過去に流れてしまった。
数百年にも渡って愛し合った時間も、数千年にも及ぶひとつの生命の時間も――。
またね。おやすみなさい。だいすきなひと。
おれもつかれちゃったから、ちょっとだけねむるね……。
先程の出来事を思い出す事もなく、彼も姿を石に変えた。
そこにはもう、誰もいない。
生きているようで死んでいる、二つ分の石が佇んでいるだけ――。
世界統合後から数百年が過ぎたのだろうか。
当時はまだ小さな芽だった大樹も、今では世界樹と呼ぶに相応しい姿となっていた。
この場所に、二人の天使は佇んでいる。
あの頃と何一つ変わらぬ姿で。
「……この木も、成長したな」
「そうだな」
少年の言葉に連ねるようにして、男も口を開く。
二人の表情には、当時のような明るい雰囲気は無かった。
「――なぁ、俺たち、ずっとこうして一緒に過ごしてきたけど……もう、いられないと思う」
少年は暗い声色で、今まで抱えてきた不満を明かす。
それを聞いた男は無言で頷いた後、こう答えた。
「……そうか、お前がそう言うのなら、私もそう思うことにしよう」
この男は昔からこうだ。
大切な人を傷付けたくないがゆえに、相手の言葉に同調し、本音を誤魔化すのだ。
「……なあ、アンタの――クラトスの本心を聞かせてくれよ」
「私は――お前が望むのなら別れてもよいと思っている」
どうしてアンタはいつも……俺の希望を優先するんだよ……。
「……じゃあ――別れよう」
俺は、この事を決断して後悔しないのだろうか?
本当に、これが俺が望んだ事なのだろうか――?
「――ああ」
そう言うと、男は少年をやんわりと抱きしめた。
温もりから愛した記憶が鮮明に呼び起こされ、少年は瞳に涙を浮かべた。
「……私は、お前が私の息子で良かったと、心から思っている」
「……俺も、父さんの息子で良かったと思う」
「これまでの時間で、お前やアンナのような大切な存在に出逢えた事を、私は誇りにしたい」
「精一杯誇れよ。アンタは讃えられる事を成し遂げてきたんだからさ」
「フ……それもそうだな」
男は少々自嘲染みた笑みを浮かべる。
やがて、この時が訪れた。
「好きだったよ、クラトス」
「私も……お前を愛していた」
「またな」「さらばだ」
きっと同じ事を言ってくれるのだろうと予想して口にした別れの言葉。
しかしそれは、最後の瞬間ですれ違ってしまった。
恐らくあの言葉が、彼の本音だったのだろう。
異なる言葉に気付いて振り返る頃には、彼の姿はどこにもなく、彼の佇んでいた場所に、ただ輝石が落ちているだけだった。
「――ごめん」
俺は、選択を間違ってしまったんだ。
後悔しないと決めていたはずなのに、涙が止まらない。
雪降る街で想いを伝えあった日も、初めてキスをした日も、初めて体を重ね合わせた日も、全て、過去に流れてしまった。
数百年にも渡って愛し合った時間も、数千年にも及ぶひとつの生命の時間も――。
またね。おやすみなさい。だいすきなひと。
おれもつかれちゃったから、ちょっとだけねむるね……。
先程の出来事を思い出す事もなく、彼も姿を石に変えた。
そこにはもう、誰もいない。
生きているようで死んでいる、二つ分の石が佇んでいるだけ――。