TOS/夏、あの空の下で

 【Story 8】


 1日目の朝。

「ロイド、調子はどうだ?」
『まぁまぁ。でもちょっと体だるい……』
「そうか」

 昼になり。

「ロイド、本を読んでやろう」
『なんの本?』
「『Promise -約束-』という本だ」
『いいよ』

「……そして二人は、昔果たせなかった約束を果たしました。」
『……この本の二人って、永遠なんだよな』
「ああ」
『俺たちも、永遠でいられたらいいのに』
「そうだな」

 夜になって。

「ロイド、私の部屋に居なさい」
『何でだよ?』
「寂しいだろう?」
『あ、分かったぞ! さっきの本みたいにする気だな!?』
「……嫌なら自分の部屋へ戻るか?」
『い、嫌とは言ってないだろ』
「居るだけでいいぞ」
『ふーん』
「……良ければ……」
『やっぱり添い寝したいのかよ!』
「……フ」

 2日目の朝。更に異変が。

『なんでだ……』

 ロイドは、自分の足で歩けなくなっていた。
 無理に歩こうとするが、痺れて痛い。

「ロイド、どうした?」
『歩けない……』
「……!」

 結局、クラトスに抱えられて居間に降りたロイド。

『お姫様だっこって恥ずかしいな』
「私はお前の王子様ということか?」
『な……!///』

 昼。クラトスが昼食を摂っていた時の事。

『カレーって、どんな味だっけ?』
「……よくは言えないが、辛みが強い……と言ったところか」
『そっか。しばらく食べてないから忘れちゃって』
「……」
『そんな顔するなよっ』
「フ……そうだな」

 * * * *

『父さんってさ、水族館で買ったキーホルダーってどこに付けてるんだ?』
「バスの鍵に付けている」
『じゃあ、観覧車の時計は?』
「財布だ」
『俺は二つとも家の鍵に付けてるぞ!』
「そうか」

 夜になって。
 眠れない中、ふと目に付いたペンダントを開いてみる。
 そこには、セピア色に色褪せたフィルムが入っていた。

 そのフィルムを良く見てみると、二人の男性が映っている様にも見える。
 とても、幸せそうな顔で微笑んでしまう。

(幸せそうだな……)

 その写真と、今の自分達の現状に虚しくなったロイドは落ち込む。

 ロイドは父の事を想い、ペンダントに願いを込めた。

(俺が死んでも、またどこかで父さんと出逢えます様に)

 その瞬間、ペンダントが光り出して謎の声を聞いた。

 ――二つ目の願いは叶えました。後、二つ。
 願いを叶えましょう。

(俺の願いは一つだけだよ)

 分かりました――。

 そういうと、ペンダントの光は消えた。

(暇だな……でも動けない……早く朝になんないかな……)

 ……

(なんか寂しい……)

 ……

 そして、朝になって。

「ロイド、起きてるか?」
「……」
「ロイド……?」

 ロイドはぎこちない動きで手を動かし、父の手を握った。

「……すまんな……守りきれなくて……」

 ロイドがスケッチブックに手を伸ばそうとしているのを見て、クラトスはそれとペンを渡した。

 とても揺らいだ文字で、こう言った。

『おれ きょうしぬんだ?』

 父は少し躊躇ったが、その問いに答える。

「ああ……」
『そっか でもおれ かなしくないよ』
「どうしてだ?」
『とうさんとまたどこかであえるって おねがいしたから だからだよ』
「……無力で……すまないな」
『あやまるなよ おれもなきたくなってくるじゃんかっ』
「泣いても……いいぞ……」
『うそだよ でもないたらかなしくなっちゃ』
「……ロイド!」

 急にロイドの顔が苦痛に変わる。痛みだしたのだろう。

『だいじょうぶ』

 痛い筈なのに、笑っているその表情は今にも泣きそうだった。

「……大丈夫では無い筈だ」
『おれ とうさんにあえてうれしかった たくさんおもいでつくれて よかった』
「……そんな事、言わないでくれ……」

 段々、目が閉じていく。

『とうさんのきもち すごくうれしかったよ』
「……」
『とうさんのむすこで ほんとうによかった ありが』

 スケッチブックとペンを持っていた手が、力を無くして落ち、そしてロイドは目を閉じた。

 やがて、熱い涙が溢れた。

 「……ロイド……?嘘と言ってくれロイド……!!」

 まだ少し温かい体を抱き締めるが、全く反応がない。
 その時、左手から輝石が落ちた。
 クラトスはそれを拾い、机の上にそっと置く。

 もう目を醒ます事は無いかけがえのない息子を、もう一度強く抱き締めながら父はしばらく涙を流し続けた。

 それから数ヵ月後。

(ロイド……遠い都会の会社へ転勤する事になった。当分の間会えないが、必ず会いに来る。だから待っていてくれ……)

 墓を去ろうとした時。

「こんにちは。お久しぶりです」

 * * * *

「ロイドは……本当にクラトスさんの事を心配していました」
「そうか……」
「前に輝石の事を聞いてきた時……とても悲しそうな顔をしていました」
「……私も、どうして早く気付いてやれなかったのだろう、と後悔した。けれど気付いた所で、打つ手は無かったと思うがな」
「きっと、心配させたくなかったんだと思います。大切なお父様だから……」

 少し長話をして、金髪の少女は花を添え帰っていった。その姿をクラトスはそっと見送った。

 その後、都会へ向かおうとして。
 クラトスは左手に、あの輝石を付けた。
 目を閉じれば、ロイドの温もりが柔らかく父を包んだ。

『また、どこかで逢えたらいいよな。俺達……』

 そう、声が聞こえた気がした。
 けれど、目を開けてもそこには誰も居ない。

 父は、輝石に軽く口付けをして、背に蒼い羽を広げ大空へ飛び立った。

 その時の、空の色はずっと忘れない。
 二人が歩き出した、あの日の空と同じだったから。


 【Story 8 私達が歩いた道のり】
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