TOS/夏、あの空の下で
【Story 6】
二人は海を眺めた後、家へ帰ってきた。
「はい、今日も仕事頑張って」
「ありがとう」
「……うーん」
「どうしたのだ?」
「なんか、肩こったみたいなんだ」
「昨日の疲れでは無いか? ゆっくり休めば治るだろう」
「そうかな?」
「大丈夫だ。ロイドは身体が丈夫だから」
「そうだよな。じゃ、行ってらっしゃい!」
「ああ、行ってくる」
扉が閉まった音を聞いて。
「何か寂しいなー。暇だから風呂でも入るか……」
風呂に入ろうと脱衣所で服を脱いで浴場へ入る瞬間、鏡に妙なものが映った。
鏡の前に立ち、自分の身体を見る。
すると……これには驚かずにはいられなかった。
「な、何だ……これ……」
背中に、青みがかった光の羽が存在していた。
「こ、こんなの昨日無かったのに……! 父さんに見られなかったかな……?」
仕方無いので、ロイドは気にしながらも入浴した。
「こ、この羽は洗えるのか……?」
試しにスポンジを羽に当ててみた。
「透き通ってるのか……」
そして、子供の頃に読んだ絵本に描かれた天使の真似をして見た。つまり、飛んでみた。
「おお! 浮かんだ! いでっ」
浴場の天井に頭をぶつけてしまった。
「とりあえず、父さんには心配かけたくないから、バレない様にしなきゃな……」
やっぱり話そうかなとロイドは思ったが、黙る事に。
* * * *
その夜。
「おかえり!」
「ただいま。元気だったか?」
「う、うん……」
「……?」
「じゃ、ちょっと手洗ってくるよ」
「ああ」
洗面所へ向かおうとして、床に転がっていたコンセントにつまづいてしまって。
「うあっ!」
「ロイド!」
転ぶロイドを抱き止めたクラトスだったが、防衛本能で出てしまった光の羽を見て……
「……! こ、これは……」
「……!! み、見るな……」
「ロイ……」
「……こんなの変だよな」
「ロイ……」
「……やっぱり、変……「ロイド!!!」
「ひっ……!」
「ロイド、落ち着け。そして訳を教えてくれないか?」
「……いつからなのだ?」
「……今日、風呂に入ろうとしたら……」
「……原因は何か分かるのか?」
「分からない……」
「……そうか。では、二人でその原因を探って行こう」
「……俺の事、拒絶しないのか?」
「する筈が無かろう。かけがえの無い息子を、拒絶する親などどこに居る」
「……嘘つき」
「今まではこれからで塗り替えたのだ。黒歴史としてくれ」
「……うん」
「なんか羽、しまえるみたいなんだ」
そう言った瞬間、背の羽が消えた。
「……一瞬、お前が天使の様に見えたぞ」
「天使か……なんかかっこいいな」
「格好良いと言うより、可愛い……」
「可愛いって言うなよっ!」
夜は無邪気にはしゃいでいた。けれど朝になって……
「どうした? あまり食べないでは無いか」
「うん、なんか食べる気しなくて……」
「あまり無理をするな。辛かったら、何でも私に言ってくれ」
「ありがと、父さん」
少し、気持ちが楽になった。
午後、久しぶりに友人達と遊びに行った。
「ロイド、クラトスさんと随分仲良くなったみたいだね」
「へ? なんで分かるんだよ?」
「前と比べて表情が穏やかになったもん」
「うん、優しくなった気がするよ♪」
ロイドは一応、手の甲の玉と羽について話した。
「へぇ~。格好良いねぇ」
「天使みたい……」
「何だろうな、これ。俺も拾ったからよく分かんないんだよな」
「僕、聞いたことある。おとぎ話なんだけど、この世界には『輝石』っていう宝石が存在して、それを見つけて体に付けちゃうと命を吸い取られるって」
「私も知ってる。完全に命を吸い取られちゃう前に『要の紋』っていう変わってる鉱石を付けないといけないんだって。後、輝石を付けると光の羽が生えて、どんどん体がおかしくなっていって、最後に……死んじゃうんだって」
「もしかしたら、これってそのおとぎ話の輝石なのかな……? 俺、光の羽があるんだけど心配だな……」
「うーん。あまり詳しい事は知らないんだ……」
「……ごめんね。力になってあげられなくて……」
「いいって。じゃあさ、昼飯にしようぜ」
「そだね」
「賛成! 僕、お腹減っちゃったよ~」
そうして昼食を取ったロイド達。
だが、またもや変化がロイドを襲った。
「……っ!(あ、味がしない……ハンバーグの筈なのに!)」
「どうしたの? ロイド」
「いや、なんか味がしなくて……変だな。ハンバーグ食べた筈なのに……」
「……」「……」
友人二人は、目を見合わせた。
この先が死だとは限らない故に『そうかもしれない』と口に出せなかったのかもしれない。
本人には敢えて言わない。そこが彼らなりの思いやりだった。
「……僕、もうお腹いっぱい」
「私も! ロイドも一緒に遊ぼうよぉ♪」
「あ、うん」
その後、しばらく遊んで帰宅した。
「ただいま」
「おかえり。どうかしたのか?」
「いや、特に何も無いんだけど……今日、飯いらないから」
「……しかし、食事を摂らなければ餓死してしまうぞ?」
「なんか今日……ううん、なんでもない!」
ロイドは逃げ込む様にして自分のベッドになだれた。
「……」
変なのだ。いつになっても全くと言って良い程、眠くならない。
どうしても眠れないと思ったロイドは、いつもの場所へ出掛けた。
今日は潮が引いていて、かなり奥の方まで行ける。
「……」
けれど、今の彼が求めていた景色では無かった。
どこまでも続くこの砂浜にそろそろ飽きてきて、羽を出して空へ飛ぼうとした時だった。
温かい誰かに手を取られ、後ろを振り返ると……
「……どこへ行くのだ」
「なんできたんだよ……」
「……最近のお前は、暗い顔をしている」
「……」
「……お願いだ。何が有ったのか、私に話してくれないか?」
ロイドはとりあえず、最近身に起こった事を父に明かした。
「……そうか、本当にすまなかったな。お前の事に気付いてやれなくて……」
「……父さんの悲しい顔見たくなかったから……」
「……私を気遣うな。お前の笑顔が消える事が唯一堪える」
「父さん……」
「……そろそろ、家に戻るか?」
「いや。もっと奥に行ってみたい!」
「では、行こうか」
「んもう! 早く行こうぜ!」
いつかの様にロイドはクラトスの手を取って、走り出した。
その先には、果てしなく続く海岸と夜明け前の藍色が広がっていた。
「なぁ、父さん!」
「何だ?」
「父さんの夢は?」
「私の夢……そんなの決まっているだろう。お前とずっと二人でいる事、だ」
「偶然だな! 俺も一緒!」
「偶然では無いと思うぞ」
「あはは、そうかもな!」
二人はずっと向こうへ走っていった。
そして、二人はもうすぐ知る事になる。
願った夢がずっと遠いという事を。
【Story 6 謝る事が出来たなら】
二人は海を眺めた後、家へ帰ってきた。
「はい、今日も仕事頑張って」
「ありがとう」
「……うーん」
「どうしたのだ?」
「なんか、肩こったみたいなんだ」
「昨日の疲れでは無いか? ゆっくり休めば治るだろう」
「そうかな?」
「大丈夫だ。ロイドは身体が丈夫だから」
「そうだよな。じゃ、行ってらっしゃい!」
「ああ、行ってくる」
扉が閉まった音を聞いて。
「何か寂しいなー。暇だから風呂でも入るか……」
風呂に入ろうと脱衣所で服を脱いで浴場へ入る瞬間、鏡に妙なものが映った。
鏡の前に立ち、自分の身体を見る。
すると……これには驚かずにはいられなかった。
「な、何だ……これ……」
背中に、青みがかった光の羽が存在していた。
「こ、こんなの昨日無かったのに……! 父さんに見られなかったかな……?」
仕方無いので、ロイドは気にしながらも入浴した。
「こ、この羽は洗えるのか……?」
試しにスポンジを羽に当ててみた。
「透き通ってるのか……」
そして、子供の頃に読んだ絵本に描かれた天使の真似をして見た。つまり、飛んでみた。
「おお! 浮かんだ! いでっ」
浴場の天井に頭をぶつけてしまった。
「とりあえず、父さんには心配かけたくないから、バレない様にしなきゃな……」
やっぱり話そうかなとロイドは思ったが、黙る事に。
* * * *
その夜。
「おかえり!」
「ただいま。元気だったか?」
「う、うん……」
「……?」
「じゃ、ちょっと手洗ってくるよ」
「ああ」
洗面所へ向かおうとして、床に転がっていたコンセントにつまづいてしまって。
「うあっ!」
「ロイド!」
転ぶロイドを抱き止めたクラトスだったが、防衛本能で出てしまった光の羽を見て……
「……! こ、これは……」
「……!! み、見るな……」
「ロイ……」
「……こんなの変だよな」
「ロイ……」
「……やっぱり、変……「ロイド!!!」
「ひっ……!」
「ロイド、落ち着け。そして訳を教えてくれないか?」
「……いつからなのだ?」
「……今日、風呂に入ろうとしたら……」
「……原因は何か分かるのか?」
「分からない……」
「……そうか。では、二人でその原因を探って行こう」
「……俺の事、拒絶しないのか?」
「する筈が無かろう。かけがえの無い息子を、拒絶する親などどこに居る」
「……嘘つき」
「今まではこれからで塗り替えたのだ。黒歴史としてくれ」
「……うん」
「なんか羽、しまえるみたいなんだ」
そう言った瞬間、背の羽が消えた。
「……一瞬、お前が天使の様に見えたぞ」
「天使か……なんかかっこいいな」
「格好良いと言うより、可愛い……」
「可愛いって言うなよっ!」
夜は無邪気にはしゃいでいた。けれど朝になって……
「どうした? あまり食べないでは無いか」
「うん、なんか食べる気しなくて……」
「あまり無理をするな。辛かったら、何でも私に言ってくれ」
「ありがと、父さん」
少し、気持ちが楽になった。
午後、久しぶりに友人達と遊びに行った。
「ロイド、クラトスさんと随分仲良くなったみたいだね」
「へ? なんで分かるんだよ?」
「前と比べて表情が穏やかになったもん」
「うん、優しくなった気がするよ♪」
ロイドは一応、手の甲の玉と羽について話した。
「へぇ~。格好良いねぇ」
「天使みたい……」
「何だろうな、これ。俺も拾ったからよく分かんないんだよな」
「僕、聞いたことある。おとぎ話なんだけど、この世界には『輝石』っていう宝石が存在して、それを見つけて体に付けちゃうと命を吸い取られるって」
「私も知ってる。完全に命を吸い取られちゃう前に『要の紋』っていう変わってる鉱石を付けないといけないんだって。後、輝石を付けると光の羽が生えて、どんどん体がおかしくなっていって、最後に……死んじゃうんだって」
「もしかしたら、これってそのおとぎ話の輝石なのかな……? 俺、光の羽があるんだけど心配だな……」
「うーん。あまり詳しい事は知らないんだ……」
「……ごめんね。力になってあげられなくて……」
「いいって。じゃあさ、昼飯にしようぜ」
「そだね」
「賛成! 僕、お腹減っちゃったよ~」
そうして昼食を取ったロイド達。
だが、またもや変化がロイドを襲った。
「……っ!(あ、味がしない……ハンバーグの筈なのに!)」
「どうしたの? ロイド」
「いや、なんか味がしなくて……変だな。ハンバーグ食べた筈なのに……」
「……」「……」
友人二人は、目を見合わせた。
この先が死だとは限らない故に『そうかもしれない』と口に出せなかったのかもしれない。
本人には敢えて言わない。そこが彼らなりの思いやりだった。
「……僕、もうお腹いっぱい」
「私も! ロイドも一緒に遊ぼうよぉ♪」
「あ、うん」
その後、しばらく遊んで帰宅した。
「ただいま」
「おかえり。どうかしたのか?」
「いや、特に何も無いんだけど……今日、飯いらないから」
「……しかし、食事を摂らなければ餓死してしまうぞ?」
「なんか今日……ううん、なんでもない!」
ロイドは逃げ込む様にして自分のベッドになだれた。
「……」
変なのだ。いつになっても全くと言って良い程、眠くならない。
どうしても眠れないと思ったロイドは、いつもの場所へ出掛けた。
今日は潮が引いていて、かなり奥の方まで行ける。
「……」
けれど、今の彼が求めていた景色では無かった。
どこまでも続くこの砂浜にそろそろ飽きてきて、羽を出して空へ飛ぼうとした時だった。
温かい誰かに手を取られ、後ろを振り返ると……
「……どこへ行くのだ」
「なんできたんだよ……」
「……最近のお前は、暗い顔をしている」
「……」
「……お願いだ。何が有ったのか、私に話してくれないか?」
ロイドはとりあえず、最近身に起こった事を父に明かした。
「……そうか、本当にすまなかったな。お前の事に気付いてやれなくて……」
「……父さんの悲しい顔見たくなかったから……」
「……私を気遣うな。お前の笑顔が消える事が唯一堪える」
「父さん……」
「……そろそろ、家に戻るか?」
「いや。もっと奥に行ってみたい!」
「では、行こうか」
「んもう! 早く行こうぜ!」
いつかの様にロイドはクラトスの手を取って、走り出した。
その先には、果てしなく続く海岸と夜明け前の藍色が広がっていた。
「なぁ、父さん!」
「何だ?」
「父さんの夢は?」
「私の夢……そんなの決まっているだろう。お前とずっと二人でいる事、だ」
「偶然だな! 俺も一緒!」
「偶然では無いと思うぞ」
「あはは、そうかもな!」
二人はずっと向こうへ走っていった。
そして、二人はもうすぐ知る事になる。
願った夢がずっと遠いという事を。
【Story 6 謝る事が出来たなら】