ヴェンツェル夢
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【やさしい束縛】
『……っ!!』
どうして、こんなっ!
わたしはただ、ヴェンツェルに会いに来ただけなのに。
アユムの左肩から右下にかけて、剣で切られたかの様な傷があった。
『はぁ、はっ……は、痛っ……』
必死で走るアユムの背後には、追い掛けて来る怪物。
「ギュアアアァルウウウ――!!」
『はっ……あと少しで、着く…のにっ……』
ダメ、頭がボーっとして……
アユムが走って来た地面には、ボタボタと赤い血の跡。
『ヴェン、ツェ……』
とうとうアユムは気を失った。
「ギュアアアァルウウウ――!」
「……アユムっ!?チッ、一切を灰燼に還せ、焔よ!――ダルティ・フェス・ベルク!」
間一髪、ヴェンツェルが怪物を焼き尽くした。
「おい!しっかりしろ!おいっ!」
アユムの息がほとんどない。
「クラウスっ……チッ、間に合わんか!」
ヴェンツェルはアユムの傷に手を添える。
「アユムっ!これで死んだら許さんからなっ!」
『んっ……』
目が覚めると、そこは見慣れた自室だった。
「アユムさんっ!」
『クラ、ウス?』
わたし、確か怪物に襲われて?
「痛いところはないですか!?頭は打ってないですか!?私が誰かわかりますか!?」
そんなに慌てなくても。
『えっと……うん、クラウス』
「良かった!安心しました」
さっきの形相からは考えられない笑顔で、クラウスは微笑む。
「にしても、ヴェンツェルが血塗れのアユムさんを抱えて来たときは、何ごとかと思いました」
『ヴェンツェルが?』
「はい。借りは作りたくないので全て
「アユムさんっ!痛いところは無いですかっ!?頭は打ってないですかっ!?私が誰かわかりますかっ!?」
会話の途中に突然入って来たのはエマで。
しかもクラウスと同じ質問してるよ。
『うん、もう大丈夫だから』
「良かったです!」
と泣き始めるエマを見て、服の違和感に気づく。
『エマだよね?着替えさせてくれたの。ありがとう』
「いえ。あっ、お仕事に戻らないと」
バタバタとエマは走り去って行った。
「アユムさん、その……続き良いですか?」
あ、クラウスと話してる途中だったっけ。
『うん』
「実は、その傷を治したのは私では無いんです」
『へ?』
「ヴェンツェルがアユムさんを連れて来た時には、もう治っていました」
じゃあ、ヴェンツェルが?
『でも何でわたし、ここに?』
「傷は治っていたんですが、呼吸がほとんど無くて、毒が体に回っていました。だから連れて来たんだと思います」
うわぁ、わたし本当に死にかけだったんだ。
ヴェンツェルが助けてくれなかったら確実に死んでたよね?
「アユムさん、私もそろそろ教会へ戻りますね」
部屋を去ろうとするクラウス。
『あ、クラウス!』
「はい?」
『その、ありがとう』
クラウスはニコニコ微笑むと、窓に向かって指を差す。
「お礼ならそこにいる人に言ってあげて下さい」
『そこ?』
よそ見をしているうちにクラウスの姿が消えていた。
アレ?早っ!
――トンッ。
小さな靴音がした。
「大丈夫なのか?」
窓から入って来たのはヴェンツェルだった。
『大丈夫、って!ヴェンツェルこそ大丈夫なの!?』
顔が真っ青なんだけど。
「フン、愚問だな」
そう言うけど体は震えている。
わたしはヴェンツェルの手を引き、今いるベッドに座らせた。
『ほんと、強がりなんだから』
にしてもこの震え、尋常じゃない。
『ねえ、ヴェンツェル?この震えって、わたしの傷治したことと関係ある?』
「オマエには教えてやらん」
ヴェンツェルはそう言うと、ぎゅうっとわたしを抱き締めた。
『ひゃっ、冷た……』
死人みたいに冷たい肌。
『あのさヴェンツェル、助けてくれてありがとう』
ヴェンツェルは無言のまま。
でも次第に体の震えがなくなって、肌に温もりが出てきたから少し安心した。
「アユム……俺より先に死ぬ事は許さん、何があってもだ」
『うん』
「何があっても俺が助けてやる。だからアユム、俺のそばにいろ」
『うんっ……』
そのやさしい束縛に目から熱い水があふれてきた。
『うっ、ひっく……ヴェンツェル、大好きだよ……』
愛しくて愛しくて。
「分かっている」
わたしを受け止めてくれたことが嬉しくて。
『うぅっ、愛してるのっ……』
「あぁ」
ヴェンツェルは言葉の代わりに、ふわりとキスをくれた。
何度も、何度も。
『ヴェンツェル……っ』
唇、頬、額、瞼。
順番にわたしの涙を舐め取るヴェンツェル。
それでも涙は止まらない。
「泣きすぎだ、アユム」
『だってっ』
どうしようもないくらいヴェンツェルが大切で。
ねえ、わたしはこんなにもヴェンツェルを愛してるよ。
「もう寝ろ」
優しくベッドに寝かされて、わたしはすぐ眠りについた。
どうにもまだ体力が回復していないらしい。
「アユム………して……」
意識を手放す前にヴェンツェルが囁いた言葉は、わたしの勘違いかな?
"愛している″って。
《END》オマエのいない世界など
2007.7.9(2024.6.27最終修正)