⸜❤︎⸝Oji Kazuaki
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酔って潰れた王子先輩を介抱したのがちょうど3ヶ月前。
お詫びとお礼を兼ねてお洒落なイタリアンに連れて行ってもらって以来、一緒に過ごす時間が増えている。
遅い時間の防衛任務後は突然現れて送ってくれるし、夜勤はシフトが被ることが多い。
付き合って1年になる彼氏には申し訳ないが、王子先輩と過ごす少しの時間の方が楽しくて楽しくて仕方ない。
そろそろ潮時かなと思いつつも休みが合わず、ダラダラと何も言い出せないまま引きずってしまっている。
今日も防衛任務を終え、会議に呼ばれた隊長と、同年代飲みに行くオペを送り、帰り支度をする。
今日も王子先輩来てくれるかな、なんて淡い期待は早々に、ガラガラと音を立てて崩れ去る。
ラウンジを通ると王子先輩と座る綺麗な女の子がいた。隊服……ってことはB級かな。見覚えがないから上がりたての子か、下位の子かもしれない。にしてもすごいお似合いじゃん?彼女?
もしかしたら今まで夜送ってくれていたのも、私は嬉しかったけれどお詫びのうちかもしれない。
王子先輩的に酔って潰れたところを後輩に介抱されるなんて、どれだけのダメージを受けたことだろうか。そう考えればすぐ分かるじゃん。気づきなよ私。そのままそっと通り過ぎてひとりで帰った。
▽
翌日、久々に本部に来るのが鬱だった。何故なら防衛任務が王子隊とペアだから。ペアと言っても指示も行動も隊ごとなんだけどさ。
王子先輩って勘がいいから私がモヤモヤしてるのに気づいたらどうしよう。恥ずかしいんだけど……。
「元気ないじゃんどうしたの?」
「んー…ちょっと寝不足で」
おっと、作戦室で気を抜きすぎた。隊長から心配されてしまった。
「あらあら。さっさと終わらせて昼寝しよ」
「そうするわ」
見ていたオペも心配してくれて申し訳ない。寧ろ暴れて元気になった方が私らしいかもしれない。
思考を虚空に飛ばしていれば「ねえ電話じゃない?」とかけられた声で現実に戻る。
ソファの上で震えてるスマホを手に取ると着信は……彼氏から。なんでこんな時に。
「はい?」
『あ、でた。あのさ今日うちで宅飲みすることになったからおいでよ』
「誰と?」
『サークルの人達!彼女紹介しろって皆うるさくてさ』
うわ最悪。私にメリットないし知り合いもほとんどいないじゃん。どうせボーダーの奴と付き合ってるとか言ったんでしょ。大っぴらにはしないでねって言ってたの忘れられてるな。
『あ、そうそう!流れでつい、な。嫌だった?』
「過去いい経験が無かったから行きたくないです。バイバイ」
これが固定電話ならガシャリと音を立てて受話器を戻しているだろう。一方的に通話を終了して隊の面々に向き直る。
「ごめんおまたせ!いこっか!」
▽
防衛任務も卒なく終え、作戦室に常備してある布団を広げて寝転べばいつの間にか熟睡していた。
起きたら作戦室には私ひとりで、L○NEには2人から先に帰るという旨のメッセージが来ていた。気を利かせて起こさずにいてくれたらしい。時間を確認すれば20時40分。2時間半近く寝ていたらしい。とりあえず顔を洗って覚醒する。……お化粧したままだったけどまあ良いでしょう。帰るだけだし。
地下通路から本部を出て大通りを過ぎ、近道の商店街を抜けて旧道へ入れば人通りはぐっと減る。時折吹き抜ける風が冷たくて、冬がすぐそこまで近づいていると感じる。
街灯の光の上に、お月さまが明るく光り輝いている。よく見ると、星も夜空に輝いていた。
星座を探しながらゆっくりと歩いていれば、「ふわふわ?」とただ1人しか呼ばないであろう呼称が聞こえ振り返る。
「やっぱりふわふわだ。君、本当に面白いね。どうして上を向いて歩いていたんだい?」
数時間前まで一緒に任務をしていた人物。なぜいつも突然現れるのだろうか。王子先輩が興味深々といった顔で近づいてきた。
「星が綺麗だったので……星座を探していました」
「へぇ、ロマンチックだね」
隣に並んだ王子先輩も空を見上げた。静かに夜空を眺める王子先輩の横顔がとても綺麗で、つい見とれてしまっていた。視線がパチリと合いニコリと笑顔が飛んでくる。
「あ、あの王子先輩はなんでここに?」
慌てて適当な話を振って誤魔化す。本部から王子先輩の家へはこの道は通らないはず。
「羽矢さんを送った帰りなんだ。今日は王子隊でミーティングをしていたからね」
なるほど納得の理由である。
「偶然出会えたことだし、ふわふわも送っていくよ」
「ありがとうございます」
偶然の出来事に胸を躍らせ横に並んで歩き始める。しかしここから私の家には5分ほどでついてしまう。物足りなさを覚え、言葉を付け足す。
「でも私の家、ここからすぐですよ」
「そうだね。なら、寄り道でもしようか」
一言に込めた思いを掬って貰えたようで、家とは別の方向へ曲がった。他愛ない会話をしながら、なだらかな道をゆっくりと進む。
だんだんと住宅が減り、みかん畑に差し掛かる。上へ上へと続くみかん畑からは収穫をひかえたみかんの香りが甘く漂ってきた。
ふと王子先輩が足を止めた。目の前にあったのは、少しの遊具と子どもが思いっきり走り回れそうな広場のある公園。大人の胸の高さほどの柵で囲まれており、街に面したところにはベンチが3つならんでいる。
そういえば、みかん畑の中に夕日が綺麗に見える公園があるとユカリちゃんが言っていた。もしかしたらここのことかもしれない。
夜なので夕日は見れないものの、目の前に広がる三門市の街の灯りがキラキラと綺麗だった。吸い込まれるように中を進み、柵にもたれて眺めてみる。王子先輩も隣に並んだ。
自然と会話が止み、遠くで車が通る音だけが聞こえる。きっとここが寄り道の終着点だろう。そろそろ帰ろうって言われるかな、そっと王子先輩の顔色をうかがえば、相変わらず綺麗な横顔がなんだか儚くて。見てはいけないものを見てしまったような気分になり前に向き直る。
すると、ほんの少し距離が近づいて肩に手が回される。距離を測られているような行動に、やめてと言うべきか受け入れるべきか。
何も言わずに迷っているこの時間を肯定と受け止めたのだろう。スルリ、と王子先輩の腕が腰にまわり背中に体温を感じる。抵抗できなかった。というより抵抗したくなかったが正解かもしれない。ごめん彼氏。
勘違いしたいし、この瞬間が終わらないで欲しい。最近期待値ばかり上げられている。
正直王子先輩が女遊び激しいって噂も聞いてるし、多分事実だし……彼女もいるんじゃないのって思うけど、でも、でも
全力で脳内の全私がそれぞれの言い分を述べて大会議が始まっている。
お互いに無言のこの時間が意味するものとは。先に沈黙を破ったのは王子先輩だった。
「僕、君じゃないとだめなんだけど」
不安そうな声が背中に伝わる。心臓がとくりと跳ねた。
こんな王子先輩は初めてだ。私の前ではいつもかっこよくて、余裕があって、王子さまで、ひとつしか歳は違わないのに大人だなって思っていて。
反芻して言葉の意味を理解すると、嬉しさとどうしようも無い気持ちから涙が溢れそうだった。でもズルいよ。私ばっか好きなんだと思ってた。
「……お顔見せてください」
「…嫌だね。今の僕、格好悪いから」
「……私にはかっこ悪いとこ見せてくれないんですか?」
「出来れば見せたくないかな」
ほらズルい。しかし腰に巻き付く腕は思っていたよりも簡単にほどけて、私は王子先輩の方に向き直る。
見られちゃった、と言って困ったように笑う王子先輩。
どちらからともなく唇が重なった。
「楓亜ちゃん、彼氏いるんだっけ?」
「はい」
「付き合ってどのくらい?」
「1年くらいです」
「結構長いね。最近楽しい?」
「……」
言葉につまる。だって王子先輩と居る方が楽しいから。
きっとお見通しなのだろう。さっきまでの気弱な姿は見間違いかな?というくらい言葉が飛び交う。
「そのつまんない男やめて僕にしなよ」
「王子先輩、私何も答えてませんよ」
「僕といる方が楽しいでしょ?」
「王子先ぱ、」
「一彰って呼んでよ」
「……一彰先輩」
「よく出来ました」
完全に向こうのペースにのまれてしまった。
悔しくて反論を試みる。彼女かはわからないけど、昨日の女の子も気になるし…これくらい言い返してもいいよね。
「一彰先輩こそ、つまらない女やめて私にしたらどうですか?」
「もちろんそのつもりだよ」
間をあけずに返答が返ってきた。
完全に調子を取り戻した王子先輩はブレることなくストレートな言葉をぶつけてくる。
なんでそんなに笑顔で爽やかに答えちゃうんですか?ていうかやっぱり女いたんだ。めちゃくちゃ遊んでたんでしょ。人の気も知らないで。言えたことじゃないんですけどさ……ぶつぶつ文句を呟けばどんどん顔が曇っていった。あれ?この程度でメンタルくる人だっけなんて大変失礼なことを思っていれば「ごめんね楓亜ちゃん」と素直に謝罪の言葉が飛び出した。
「事実だからどれだけ文句を言われても仕方がないよね。全部ちゃんと受け止めるよ」
「ずるいです」
「うん」
「一彰先輩の周り、可愛い人で溢れてたから。私がお付き合いしてたの何かの間違いだったんじゃないかって思ってたんですよ」
私の口から溢れる本音。言った自分がびっくりしているけど、結構未練残ってたんだ。
少しの間の後、ちょっと驚いたような視線とぶつかる。
「楓亜ちゃん」
「なんですか……」
「僕さっきさ、すごく久しぶりにキスしたんだけど……この意味わかる?」
トン、と私の唇に細長い指が触れる。
「え、あ、、えっ」
「好きだよ、楓亜ちゃん」
脳がキャパオーバーを起こして真っ白になると共に、3年前の記憶が蘇る。
あぁ、同じセリフで告白されたっけ。視界がくるくる回る感覚。うるさいのは心臓の音だろうか。まるで時の流れから私だけ放り出されたかのような感覚。ちゃんと、私も言わないと。
「私も好きです一彰先輩」
「よろしくね」
「こちらこそ。よろしくお願いします!」
「そういえば、二股は良くないな。電話かけようか」
「あっ、ハイ」
ころりと態度が変わった一彰先輩から笑顔の圧を感じる。
急いでスマホを取り出して電話をかける。あら、着信きてたんだ…。
「あ、もしもし?」
『もしもし?何?今日やっぱり来れる?』
そういえばこの人たち飲み会してたんだっけ。今となってはもうどうだっていい。
「本当に突然で申し訳ないんだけど別れよ」
『は?』
「ごめんなさい」
『え?何?は?理由は?何かあったの?』
「好きな人ができました」
『なにそれ。浮気じゃん』
「うん」
『うんじゃないだろ?勝手に別れるとか言うな』
「でももう付き合えないから」
『無理だって俺の面子潰す気かよ』
あれ〜サクッと別れられると思っていたのにな。お酒が入っているせいもあってかすぐヒートアップして怒鳴るような声が聞こえ、耳からスマホを離した。と同時に一彰先輩が「貸して」と私からスマホを奪って話し始めた。
「ごめんね、楓亜ちゃん貰っちゃった」
『は?お前誰』
「彼氏」
『は?二股かけてたのかよアイツ。クソ女かよ』
「その発言取り消してくれない?耳障りなんだけど」
『お前何様だよ!楓亜とかわれ』
「う〜ん。強いて言うなら王子様かな。楓亜ちゃんとかわるのは嫌だね」
『王子様ってなんだよ厨二かよ!……いや待てオージ……?』
「そうだけど?知り合いにいたかな?」
『まじでねぇわ最悪。お前去年俺の元カノと寝ただろ。橘って奴』
「え?覚えてないなぁ?ごめんね」
『覚えてらんないほど女と寝てんの?王子様は最低だな』
「いや?僕から声をかけたら覚えてるってこと。常識じゃない?」
『……ダル。もういい勝手にしろよクソ女の私物全部捨てとくからっツーツー』
電話が終わったようでスマホを手渡される。たった今別れた私の元彼氏をブロックした状態で。
向こうの声が途切れ途切れにしか聞こえなかったので内容はイマイチわからない。円満解決では無さそうだけど大丈夫かな。え、怖いんだけど。
「楓亜ちゃん、こいつの家に大切なもの置いてた?」
「大切なもの……あったかな、洋服いくつかと……」
「なら大丈夫そうだね。服は新しいの買ってあげる」
あ、私のもの捨てるって言われたのかな。
笑顔でショッピングに行こうと言われて苦笑いでお礼を告げる。怖すぎて通話の内容は聞けないな。
「帰ろうか。それとも、僕の家くる?」
「心の準備がままならないので後日でお願いします……」
「本当にふわふわって面白いよね。冗談だよ。そんなに急かさないから安心してほしいな?家まで送っていくよ」
「も〜〜〜やめてください」
Happy end♡
お詫びとお礼を兼ねてお洒落なイタリアンに連れて行ってもらって以来、一緒に過ごす時間が増えている。
遅い時間の防衛任務後は突然現れて送ってくれるし、夜勤はシフトが被ることが多い。
付き合って1年になる彼氏には申し訳ないが、王子先輩と過ごす少しの時間の方が楽しくて楽しくて仕方ない。
そろそろ潮時かなと思いつつも休みが合わず、ダラダラと何も言い出せないまま引きずってしまっている。
今日も防衛任務を終え、会議に呼ばれた隊長と、同年代飲みに行くオペを送り、帰り支度をする。
今日も王子先輩来てくれるかな、なんて淡い期待は早々に、ガラガラと音を立てて崩れ去る。
ラウンジを通ると王子先輩と座る綺麗な女の子がいた。隊服……ってことはB級かな。見覚えがないから上がりたての子か、下位の子かもしれない。にしてもすごいお似合いじゃん?彼女?
もしかしたら今まで夜送ってくれていたのも、私は嬉しかったけれどお詫びのうちかもしれない。
王子先輩的に酔って潰れたところを後輩に介抱されるなんて、どれだけのダメージを受けたことだろうか。そう考えればすぐ分かるじゃん。気づきなよ私。そのままそっと通り過ぎてひとりで帰った。
▽
翌日、久々に本部に来るのが鬱だった。何故なら防衛任務が王子隊とペアだから。ペアと言っても指示も行動も隊ごとなんだけどさ。
王子先輩って勘がいいから私がモヤモヤしてるのに気づいたらどうしよう。恥ずかしいんだけど……。
「元気ないじゃんどうしたの?」
「んー…ちょっと寝不足で」
おっと、作戦室で気を抜きすぎた。隊長から心配されてしまった。
「あらあら。さっさと終わらせて昼寝しよ」
「そうするわ」
見ていたオペも心配してくれて申し訳ない。寧ろ暴れて元気になった方が私らしいかもしれない。
思考を虚空に飛ばしていれば「ねえ電話じゃない?」とかけられた声で現実に戻る。
ソファの上で震えてるスマホを手に取ると着信は……彼氏から。なんでこんな時に。
「はい?」
『あ、でた。あのさ今日うちで宅飲みすることになったからおいでよ』
「誰と?」
『サークルの人達!彼女紹介しろって皆うるさくてさ』
うわ最悪。私にメリットないし知り合いもほとんどいないじゃん。どうせボーダーの奴と付き合ってるとか言ったんでしょ。大っぴらにはしないでねって言ってたの忘れられてるな。
『あ、そうそう!流れでつい、な。嫌だった?』
「過去いい経験が無かったから行きたくないです。バイバイ」
これが固定電話ならガシャリと音を立てて受話器を戻しているだろう。一方的に通話を終了して隊の面々に向き直る。
「ごめんおまたせ!いこっか!」
▽
防衛任務も卒なく終え、作戦室に常備してある布団を広げて寝転べばいつの間にか熟睡していた。
起きたら作戦室には私ひとりで、L○NEには2人から先に帰るという旨のメッセージが来ていた。気を利かせて起こさずにいてくれたらしい。時間を確認すれば20時40分。2時間半近く寝ていたらしい。とりあえず顔を洗って覚醒する。……お化粧したままだったけどまあ良いでしょう。帰るだけだし。
地下通路から本部を出て大通りを過ぎ、近道の商店街を抜けて旧道へ入れば人通りはぐっと減る。時折吹き抜ける風が冷たくて、冬がすぐそこまで近づいていると感じる。
街灯の光の上に、お月さまが明るく光り輝いている。よく見ると、星も夜空に輝いていた。
星座を探しながらゆっくりと歩いていれば、「ふわふわ?」とただ1人しか呼ばないであろう呼称が聞こえ振り返る。
「やっぱりふわふわだ。君、本当に面白いね。どうして上を向いて歩いていたんだい?」
数時間前まで一緒に任務をしていた人物。なぜいつも突然現れるのだろうか。王子先輩が興味深々といった顔で近づいてきた。
「星が綺麗だったので……星座を探していました」
「へぇ、ロマンチックだね」
隣に並んだ王子先輩も空を見上げた。静かに夜空を眺める王子先輩の横顔がとても綺麗で、つい見とれてしまっていた。視線がパチリと合いニコリと笑顔が飛んでくる。
「あ、あの王子先輩はなんでここに?」
慌てて適当な話を振って誤魔化す。本部から王子先輩の家へはこの道は通らないはず。
「羽矢さんを送った帰りなんだ。今日は王子隊でミーティングをしていたからね」
なるほど納得の理由である。
「偶然出会えたことだし、ふわふわも送っていくよ」
「ありがとうございます」
偶然の出来事に胸を躍らせ横に並んで歩き始める。しかしここから私の家には5分ほどでついてしまう。物足りなさを覚え、言葉を付け足す。
「でも私の家、ここからすぐですよ」
「そうだね。なら、寄り道でもしようか」
一言に込めた思いを掬って貰えたようで、家とは別の方向へ曲がった。他愛ない会話をしながら、なだらかな道をゆっくりと進む。
だんだんと住宅が減り、みかん畑に差し掛かる。上へ上へと続くみかん畑からは収穫をひかえたみかんの香りが甘く漂ってきた。
ふと王子先輩が足を止めた。目の前にあったのは、少しの遊具と子どもが思いっきり走り回れそうな広場のある公園。大人の胸の高さほどの柵で囲まれており、街に面したところにはベンチが3つならんでいる。
そういえば、みかん畑の中に夕日が綺麗に見える公園があるとユカリちゃんが言っていた。もしかしたらここのことかもしれない。
夜なので夕日は見れないものの、目の前に広がる三門市の街の灯りがキラキラと綺麗だった。吸い込まれるように中を進み、柵にもたれて眺めてみる。王子先輩も隣に並んだ。
自然と会話が止み、遠くで車が通る音だけが聞こえる。きっとここが寄り道の終着点だろう。そろそろ帰ろうって言われるかな、そっと王子先輩の顔色をうかがえば、相変わらず綺麗な横顔がなんだか儚くて。見てはいけないものを見てしまったような気分になり前に向き直る。
すると、ほんの少し距離が近づいて肩に手が回される。距離を測られているような行動に、やめてと言うべきか受け入れるべきか。
何も言わずに迷っているこの時間を肯定と受け止めたのだろう。スルリ、と王子先輩の腕が腰にまわり背中に体温を感じる。抵抗できなかった。というより抵抗したくなかったが正解かもしれない。ごめん彼氏。
勘違いしたいし、この瞬間が終わらないで欲しい。最近期待値ばかり上げられている。
正直王子先輩が女遊び激しいって噂も聞いてるし、多分事実だし……彼女もいるんじゃないのって思うけど、でも、でも
全力で脳内の全私がそれぞれの言い分を述べて大会議が始まっている。
お互いに無言のこの時間が意味するものとは。先に沈黙を破ったのは王子先輩だった。
「僕、君じゃないとだめなんだけど」
不安そうな声が背中に伝わる。心臓がとくりと跳ねた。
こんな王子先輩は初めてだ。私の前ではいつもかっこよくて、余裕があって、王子さまで、ひとつしか歳は違わないのに大人だなって思っていて。
反芻して言葉の意味を理解すると、嬉しさとどうしようも無い気持ちから涙が溢れそうだった。でもズルいよ。私ばっか好きなんだと思ってた。
「……お顔見せてください」
「…嫌だね。今の僕、格好悪いから」
「……私にはかっこ悪いとこ見せてくれないんですか?」
「出来れば見せたくないかな」
ほらズルい。しかし腰に巻き付く腕は思っていたよりも簡単にほどけて、私は王子先輩の方に向き直る。
見られちゃった、と言って困ったように笑う王子先輩。
どちらからともなく唇が重なった。
「楓亜ちゃん、彼氏いるんだっけ?」
「はい」
「付き合ってどのくらい?」
「1年くらいです」
「結構長いね。最近楽しい?」
「……」
言葉につまる。だって王子先輩と居る方が楽しいから。
きっとお見通しなのだろう。さっきまでの気弱な姿は見間違いかな?というくらい言葉が飛び交う。
「そのつまんない男やめて僕にしなよ」
「王子先輩、私何も答えてませんよ」
「僕といる方が楽しいでしょ?」
「王子先ぱ、」
「一彰って呼んでよ」
「……一彰先輩」
「よく出来ました」
完全に向こうのペースにのまれてしまった。
悔しくて反論を試みる。彼女かはわからないけど、昨日の女の子も気になるし…これくらい言い返してもいいよね。
「一彰先輩こそ、つまらない女やめて私にしたらどうですか?」
「もちろんそのつもりだよ」
間をあけずに返答が返ってきた。
完全に調子を取り戻した王子先輩はブレることなくストレートな言葉をぶつけてくる。
なんでそんなに笑顔で爽やかに答えちゃうんですか?ていうかやっぱり女いたんだ。めちゃくちゃ遊んでたんでしょ。人の気も知らないで。言えたことじゃないんですけどさ……ぶつぶつ文句を呟けばどんどん顔が曇っていった。あれ?この程度でメンタルくる人だっけなんて大変失礼なことを思っていれば「ごめんね楓亜ちゃん」と素直に謝罪の言葉が飛び出した。
「事実だからどれだけ文句を言われても仕方がないよね。全部ちゃんと受け止めるよ」
「ずるいです」
「うん」
「一彰先輩の周り、可愛い人で溢れてたから。私がお付き合いしてたの何かの間違いだったんじゃないかって思ってたんですよ」
私の口から溢れる本音。言った自分がびっくりしているけど、結構未練残ってたんだ。
少しの間の後、ちょっと驚いたような視線とぶつかる。
「楓亜ちゃん」
「なんですか……」
「僕さっきさ、すごく久しぶりにキスしたんだけど……この意味わかる?」
トン、と私の唇に細長い指が触れる。
「え、あ、、えっ」
「好きだよ、楓亜ちゃん」
脳がキャパオーバーを起こして真っ白になると共に、3年前の記憶が蘇る。
あぁ、同じセリフで告白されたっけ。視界がくるくる回る感覚。うるさいのは心臓の音だろうか。まるで時の流れから私だけ放り出されたかのような感覚。ちゃんと、私も言わないと。
「私も好きです一彰先輩」
「よろしくね」
「こちらこそ。よろしくお願いします!」
「そういえば、二股は良くないな。電話かけようか」
「あっ、ハイ」
ころりと態度が変わった一彰先輩から笑顔の圧を感じる。
急いでスマホを取り出して電話をかける。あら、着信きてたんだ…。
「あ、もしもし?」
『もしもし?何?今日やっぱり来れる?』
そういえばこの人たち飲み会してたんだっけ。今となってはもうどうだっていい。
「本当に突然で申し訳ないんだけど別れよ」
『は?』
「ごめんなさい」
『え?何?は?理由は?何かあったの?』
「好きな人ができました」
『なにそれ。浮気じゃん』
「うん」
『うんじゃないだろ?勝手に別れるとか言うな』
「でももう付き合えないから」
『無理だって俺の面子潰す気かよ』
あれ〜サクッと別れられると思っていたのにな。お酒が入っているせいもあってかすぐヒートアップして怒鳴るような声が聞こえ、耳からスマホを離した。と同時に一彰先輩が「貸して」と私からスマホを奪って話し始めた。
「ごめんね、楓亜ちゃん貰っちゃった」
『は?お前誰』
「彼氏」
『は?二股かけてたのかよアイツ。クソ女かよ』
「その発言取り消してくれない?耳障りなんだけど」
『お前何様だよ!楓亜とかわれ』
「う〜ん。強いて言うなら王子様かな。楓亜ちゃんとかわるのは嫌だね」
『王子様ってなんだよ厨二かよ!……いや待てオージ……?』
「そうだけど?知り合いにいたかな?」
『まじでねぇわ最悪。お前去年俺の元カノと寝ただろ。橘って奴』
「え?覚えてないなぁ?ごめんね」
『覚えてらんないほど女と寝てんの?王子様は最低だな』
「いや?僕から声をかけたら覚えてるってこと。常識じゃない?」
『……ダル。もういい勝手にしろよクソ女の私物全部捨てとくからっツーツー』
電話が終わったようでスマホを手渡される。たった今別れた私の元彼氏をブロックした状態で。
向こうの声が途切れ途切れにしか聞こえなかったので内容はイマイチわからない。円満解決では無さそうだけど大丈夫かな。え、怖いんだけど。
「楓亜ちゃん、こいつの家に大切なもの置いてた?」
「大切なもの……あったかな、洋服いくつかと……」
「なら大丈夫そうだね。服は新しいの買ってあげる」
あ、私のもの捨てるって言われたのかな。
笑顔でショッピングに行こうと言われて苦笑いでお礼を告げる。怖すぎて通話の内容は聞けないな。
「帰ろうか。それとも、僕の家くる?」
「心の準備がままならないので後日でお願いします……」
「本当にふわふわって面白いよね。冗談だよ。そんなに急かさないから安心してほしいな?家まで送っていくよ」
「も〜〜〜やめてください」
Happy end♡