⸜❤︎⸝Kohei Izumi
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「はすのべ市の方に新しく出来た水族館、一緒に行かね?」
射手練習を終えて換装を解いた公平くんが手にチケットをひらつかせてやってきた。
話を聞けば知り合いのエンジニアに貰ったとのこと。
水族館はとても好きなので二つ返事で快諾した。
「いつ空いてる?」
「日曜日と…あ、来週の木曜日空いてる。休講になって全休なんだよね」
「お、いいじゃん。木曜は俺も全休」
「なら木曜日に行こっか」
テンポよく日程が決まり、楽しみがひとつ増える。公平くんとはよく遊んでいるけど、市外に行くのは久々。何を着ていこうかな、なんて浮かれ気分でいれば、あっという間に日が過ぎた。
▽
白い膝丈のワンピースに足元はサンダル。ポニーテールに大きなリボンを結んで、ゆらゆらと揺れるパールのピアスをつけて。小さめなバッグを肩に掛ければお出かけスタイルの完成。
鏡の前でくるりと回って全身を眺める。
ちょっと気合入れすぎかな……。
でも久々のお出かけだもん、いいよね。
お気に入りのリップを塗って家を出る。
初夏のまだ過ごしやすい気候に感謝しつつ集合場所の駅前へ。時間までは5分ほど、どこで待とうかと考えていれば突然「おはよ、楓亜」と名前を呼ばれる。驚いて振り向けばそこに居たのは待ち合わせの相手。
「びっくりした、おはよ」
「真横にいたんですけど?」
全く気が付かなかった。それよりも、
「今日おしゃれだね、どしたの?」
「無視すんなよ!これは槍バカが選んだ」
返答より先に服のことが気になってしまう。失礼ながらも高校時代は私服がダサいで定評があった公平くん、大学に上がってそんなことも無くなっていたのだが今日のはもう おしゃれ って感じで…よねやんセンスいいもんね。組み合わせ次第でこんなに変わるんだ。
まじまじと見つめていればきまりが悪そうに目を逸らされる。
「…行こうぜ」
「あ、うん」
はすのべ市は隣の市だけど水族館があるのはその少し先。普段あまり乗らない電車に揺られる数駅の間、隣同士に座って他愛のない話をする。時々、ちらりと視線を感じるような気がした。
駅について少し歩けば見えてきた真新しい建物。今日行く水族館のチケットは、公平くんの知り合いのエンジニアがアクリルガラスの製作に携わったことで貰った優待券だったらしい。アクリルガラスの構造がトリオン兵の装甲の仕組みと通ずるんだってさ、と言われたことを思い出しながら色とりどりの魚たちを楽しむ。
平日ということもあり比較的空いていて快適に巡ることができる。
「わぁ…!」
「おぉ、すげーなこれ」
サンゴ礁の海を模した大水槽は思わずテンションが上がって声が出てしまうほどに綺麗で、2人とも子どものように駆け寄って観察する。
「あの魚槍バカにそっくり」
「本当だ。よねやんに送ってあげよ」
写真を撮って送ってみれば『魚界でも俺はもっとイケメンだぜ』と即レス。
「あいつ暇かよ」
「再テストの日って言ってたけどね…」
よねやんの心配をしつつ大水槽近くのフードコートで昼食にすることに。
丁度12時を過ぎ、お昼時で人も増えてきていた。きっと休日はかなり混むのだろう。
お腹も満たし、まだ時間もたっぷりとある。
休憩をして、またゆっくりと歩き出す。
様々な水辺の魚を見て回っていると、ブースの一角にアクリルガラスの見本を見つけた。
「これか、研究協力したってガラス」
「おぉ…!どの辺がトリオン兵?」
「わかんねー…強度的にはアステロイド数発防げるらしいぜ」
「ラービットじゃん……可愛くない……」
アクリルガラスの断片はとても分厚く何層にも重なっていて、間に立つと光の屈折で体がズレたように見えてとても面白い。
しばらく楽しく遊んでいた。
順路通りに大半を回り終えて、1番人気だというくらげブースへ向かった。パンフレットにも大きく掲載されておりとても楽しみにして来たのだ。
薄暗いブース。柔らかな照明演出に照らされ、水の流れる音とゆったりとした音楽の中ふわふわと漂うくらげ達。まるで宇宙空間のように美しかった。
中央のベンチに並んで腰かけ、癒しの空間を堪能する。
「見て。あのくらげ光ってる」
「え?どれ」
指をさした先を、グッと身を乗り出して眺める公平くん。
「本当だすげぇ」
一瞬、ふわりと公平くんの匂いが鼻を擽る。
ブースにいた人達が段々と移動して、今ここにいるのは私たちだけになった。
静かで心地よい沈黙が流れていた。
「好き…って言ったら困る?」
不意に隣から聞こえた言葉。
咄嗟のことに「ん?」と聞き返した。
「好きになっちゃった」
驚いて振り向くと思っていたよりも近い位置に、真剣な表情の公平くんの顔があった。
「…それ本気?冗談?からかってる……?」
頭がついていかない。え?冗談…だよね?
公平くんは私の師匠で、私は弟子で、付き合ってる?って聞かれたこともあるけど……ぐるぐると思考をめぐらせていると公平くんの真面目な声がまた聞こえる。
「いや本気。楓亜と付き合いたいって思ってる」
「ちょっとまって、」
思わず両手で顔を覆った。
まるで私たちだけが時の流れから放り出されたような感覚。一言一言の間がとてつもなく長く感じる。
「……本当に?」
「好きだよ。本当」
心臓がトクンと跳ねた。
「…急にずるいよ」と言えば「ごめん」と笑う公平くん。
そっかぁ…私の事好きだったんだ…。思い返せば公平くんといる時間はとても楽しかったし現在進行形でとても楽しい。そして思っていたよりもずっと長い時間一緒にいる。こんなに近くに居たのに気が付かなかったなんて、いつからだろうなんて、聞きたいことはいっぱいあるけれどまずは私が返事をしないといけない。
不思議とすぐに自分の中で答えが出た。
「私で良ければ、お願いします」
「……え?マジ?」
聞くなりきょとんとした表情になる。
断られると思っていたのだろうか。
でも、改めて考えて思った気持ちは、
「私も好きかも」
小さな声で呟けば、ぱぁっと顔が明るくなる。
「よっしゃ!これからよろしくな!」
ちょっとガッツポーズをして無邪気な笑顔で立ち上がる公平くん、かわいいじゃん。
「じゃあこれ初デートだな」といいながら私の手を引いて歩き出す。私よりも大きくてごつごつとした男の子の手。
どうしよう、すごいドキドキする。
イルカショーをみて、楽しかった気がするけれどあまり記憶に残ってない。ひたすらくらげブースでの出来事を反芻していた。
無駄に意識してしまって、変な感じ。
どうしたものかと困っていたら、突然「っあ〜!」と言いながら立ち止まる。
「ごめん、この雰囲気作り出したの俺だけど、いたたまれないし……いつも通りでいいから!!」
「それもそうだね」
思わずふふ、と笑ってしまった。
付き合ったと言っても突然全てが変わるわけじゃないよね。そう思うと気持ちがスっと軽くなる。
「あれ行こうぜ」
指さした先は触れ合いコーナー。いくつになってもくだらないことで騒げるのが私たちっぽくていいじゃん、と話したことを思い出した。
磯の匂いが一際漂う中、ヒトデやネコザメに素手で触れる。こういうのいつぶりだろう。ナマコを公平くんの手に乗せたら「キモ!」って大騒ぎして、この辺でようやくいつも通りに戻れた気がする。
そこからは変に意識することも無く、帰りがてら海岸でシーグラスを探してみたり、写真を撮ってみたり。充分過ぎるほど満喫してお土産を片手に三門市に戻ってきた。
「晩飯、ファミレスでいい?」
「いいよ」
改札を抜けたと同時に自然に繋がれる手。
軽く食べて帰ろうか、そんな話をしながらすっかり日が落ちて暗くなった夜道を歩き出す。ファミレスに入ろうとした瞬間「おっ!いずみと楓亜じゃん」という聞き覚えのある声にお互い咄嗟に手を離す。
「にれちゃんにオサノちゃんじゃん」
「よっすー。ねぇ2人今手繋いでなかった?」
チラ、と公平くんの方を見る。えーと…と歯切れの悪い感じ。なんと言おうか迷ってるね…さすが地元、知り合いに会うのが早すぎる。
「アタシも見た!なぁデート?付き合ってたの?」
そしてよりにもよってこの2人。ひかりちゃんとおサノちゃんじゃ明日には広まってそうだなぁ…。
私が答えていいものかと黙っていれば「あぁ、もう…そうだよ!」と公平くんが折れた。
「お、諦めた」
「オサノ、これビッグニュースじゃん!」
「てかいつから?」
「さっき」
目の前の2人がすごく楽しそう。おめでとうと言ってくれたまでは良かったが、「明日の空きコマ事情聴取な!」とにこやかに言われたのでちょっと大学行くの怖いかな。
2人を見送り、なんだか疲れている公平くんに声をかけて歩き出した。
いつもより、ほんの少し近い距離で。
射手練習を終えて換装を解いた公平くんが手にチケットをひらつかせてやってきた。
話を聞けば知り合いのエンジニアに貰ったとのこと。
水族館はとても好きなので二つ返事で快諾した。
「いつ空いてる?」
「日曜日と…あ、来週の木曜日空いてる。休講になって全休なんだよね」
「お、いいじゃん。木曜は俺も全休」
「なら木曜日に行こっか」
テンポよく日程が決まり、楽しみがひとつ増える。公平くんとはよく遊んでいるけど、市外に行くのは久々。何を着ていこうかな、なんて浮かれ気分でいれば、あっという間に日が過ぎた。
▽
白い膝丈のワンピースに足元はサンダル。ポニーテールに大きなリボンを結んで、ゆらゆらと揺れるパールのピアスをつけて。小さめなバッグを肩に掛ければお出かけスタイルの完成。
鏡の前でくるりと回って全身を眺める。
ちょっと気合入れすぎかな……。
でも久々のお出かけだもん、いいよね。
お気に入りのリップを塗って家を出る。
初夏のまだ過ごしやすい気候に感謝しつつ集合場所の駅前へ。時間までは5分ほど、どこで待とうかと考えていれば突然「おはよ、楓亜」と名前を呼ばれる。驚いて振り向けばそこに居たのは待ち合わせの相手。
「びっくりした、おはよ」
「真横にいたんですけど?」
全く気が付かなかった。それよりも、
「今日おしゃれだね、どしたの?」
「無視すんなよ!これは槍バカが選んだ」
返答より先に服のことが気になってしまう。失礼ながらも高校時代は私服がダサいで定評があった公平くん、大学に上がってそんなことも無くなっていたのだが今日のはもう おしゃれ って感じで…よねやんセンスいいもんね。組み合わせ次第でこんなに変わるんだ。
まじまじと見つめていればきまりが悪そうに目を逸らされる。
「…行こうぜ」
「あ、うん」
はすのべ市は隣の市だけど水族館があるのはその少し先。普段あまり乗らない電車に揺られる数駅の間、隣同士に座って他愛のない話をする。時々、ちらりと視線を感じるような気がした。
駅について少し歩けば見えてきた真新しい建物。今日行く水族館のチケットは、公平くんの知り合いのエンジニアがアクリルガラスの製作に携わったことで貰った優待券だったらしい。アクリルガラスの構造がトリオン兵の装甲の仕組みと通ずるんだってさ、と言われたことを思い出しながら色とりどりの魚たちを楽しむ。
平日ということもあり比較的空いていて快適に巡ることができる。
「わぁ…!」
「おぉ、すげーなこれ」
サンゴ礁の海を模した大水槽は思わずテンションが上がって声が出てしまうほどに綺麗で、2人とも子どものように駆け寄って観察する。
「あの魚槍バカにそっくり」
「本当だ。よねやんに送ってあげよ」
写真を撮って送ってみれば『魚界でも俺はもっとイケメンだぜ』と即レス。
「あいつ暇かよ」
「再テストの日って言ってたけどね…」
よねやんの心配をしつつ大水槽近くのフードコートで昼食にすることに。
丁度12時を過ぎ、お昼時で人も増えてきていた。きっと休日はかなり混むのだろう。
お腹も満たし、まだ時間もたっぷりとある。
休憩をして、またゆっくりと歩き出す。
様々な水辺の魚を見て回っていると、ブースの一角にアクリルガラスの見本を見つけた。
「これか、研究協力したってガラス」
「おぉ…!どの辺がトリオン兵?」
「わかんねー…強度的にはアステロイド数発防げるらしいぜ」
「ラービットじゃん……可愛くない……」
アクリルガラスの断片はとても分厚く何層にも重なっていて、間に立つと光の屈折で体がズレたように見えてとても面白い。
しばらく楽しく遊んでいた。
順路通りに大半を回り終えて、1番人気だというくらげブースへ向かった。パンフレットにも大きく掲載されておりとても楽しみにして来たのだ。
薄暗いブース。柔らかな照明演出に照らされ、水の流れる音とゆったりとした音楽の中ふわふわと漂うくらげ達。まるで宇宙空間のように美しかった。
中央のベンチに並んで腰かけ、癒しの空間を堪能する。
「見て。あのくらげ光ってる」
「え?どれ」
指をさした先を、グッと身を乗り出して眺める公平くん。
「本当だすげぇ」
一瞬、ふわりと公平くんの匂いが鼻を擽る。
ブースにいた人達が段々と移動して、今ここにいるのは私たちだけになった。
静かで心地よい沈黙が流れていた。
「好き…って言ったら困る?」
不意に隣から聞こえた言葉。
咄嗟のことに「ん?」と聞き返した。
「好きになっちゃった」
驚いて振り向くと思っていたよりも近い位置に、真剣な表情の公平くんの顔があった。
「…それ本気?冗談?からかってる……?」
頭がついていかない。え?冗談…だよね?
公平くんは私の師匠で、私は弟子で、付き合ってる?って聞かれたこともあるけど……ぐるぐると思考をめぐらせていると公平くんの真面目な声がまた聞こえる。
「いや本気。楓亜と付き合いたいって思ってる」
「ちょっとまって、」
思わず両手で顔を覆った。
まるで私たちだけが時の流れから放り出されたような感覚。一言一言の間がとてつもなく長く感じる。
「……本当に?」
「好きだよ。本当」
心臓がトクンと跳ねた。
「…急にずるいよ」と言えば「ごめん」と笑う公平くん。
そっかぁ…私の事好きだったんだ…。思い返せば公平くんといる時間はとても楽しかったし現在進行形でとても楽しい。そして思っていたよりもずっと長い時間一緒にいる。こんなに近くに居たのに気が付かなかったなんて、いつからだろうなんて、聞きたいことはいっぱいあるけれどまずは私が返事をしないといけない。
不思議とすぐに自分の中で答えが出た。
「私で良ければ、お願いします」
「……え?マジ?」
聞くなりきょとんとした表情になる。
断られると思っていたのだろうか。
でも、改めて考えて思った気持ちは、
「私も好きかも」
小さな声で呟けば、ぱぁっと顔が明るくなる。
「よっしゃ!これからよろしくな!」
ちょっとガッツポーズをして無邪気な笑顔で立ち上がる公平くん、かわいいじゃん。
「じゃあこれ初デートだな」といいながら私の手を引いて歩き出す。私よりも大きくてごつごつとした男の子の手。
どうしよう、すごいドキドキする。
イルカショーをみて、楽しかった気がするけれどあまり記憶に残ってない。ひたすらくらげブースでの出来事を反芻していた。
無駄に意識してしまって、変な感じ。
どうしたものかと困っていたら、突然「っあ〜!」と言いながら立ち止まる。
「ごめん、この雰囲気作り出したの俺だけど、いたたまれないし……いつも通りでいいから!!」
「それもそうだね」
思わずふふ、と笑ってしまった。
付き合ったと言っても突然全てが変わるわけじゃないよね。そう思うと気持ちがスっと軽くなる。
「あれ行こうぜ」
指さした先は触れ合いコーナー。いくつになってもくだらないことで騒げるのが私たちっぽくていいじゃん、と話したことを思い出した。
磯の匂いが一際漂う中、ヒトデやネコザメに素手で触れる。こういうのいつぶりだろう。ナマコを公平くんの手に乗せたら「キモ!」って大騒ぎして、この辺でようやくいつも通りに戻れた気がする。
そこからは変に意識することも無く、帰りがてら海岸でシーグラスを探してみたり、写真を撮ってみたり。充分過ぎるほど満喫してお土産を片手に三門市に戻ってきた。
「晩飯、ファミレスでいい?」
「いいよ」
改札を抜けたと同時に自然に繋がれる手。
軽く食べて帰ろうか、そんな話をしながらすっかり日が落ちて暗くなった夜道を歩き出す。ファミレスに入ろうとした瞬間「おっ!いずみと楓亜じゃん」という聞き覚えのある声にお互い咄嗟に手を離す。
「にれちゃんにオサノちゃんじゃん」
「よっすー。ねぇ2人今手繋いでなかった?」
チラ、と公平くんの方を見る。えーと…と歯切れの悪い感じ。なんと言おうか迷ってるね…さすが地元、知り合いに会うのが早すぎる。
「アタシも見た!なぁデート?付き合ってたの?」
そしてよりにもよってこの2人。ひかりちゃんとおサノちゃんじゃ明日には広まってそうだなぁ…。
私が答えていいものかと黙っていれば「あぁ、もう…そうだよ!」と公平くんが折れた。
「お、諦めた」
「オサノ、これビッグニュースじゃん!」
「てかいつから?」
「さっき」
目の前の2人がすごく楽しそう。おめでとうと言ってくれたまでは良かったが、「明日の空きコマ事情聴取な!」とにこやかに言われたのでちょっと大学行くの怖いかな。
2人を見送り、なんだか疲れている公平くんに声をかけて歩き出した。
いつもより、ほんの少し近い距離で。