「なあなあ、ちゃんと眠れたかよ？」
「お前は遠足前日の小学生か」

落ち着きのない円場が回原にツッコミを入れられる。今日は2月14日。お前らさすがにソワソワしすぎだろ！

「泡瀬くん？傍観者の姿勢だけどもしかして抜け駆けかな？」
「いや、違」

まだ何も貰っていない。…高望みなのは重々承知だけど少しは貰えたらいいななんて期待、誰だってするだろ？

「抜け駆けと言えば回原だろ。朝イチで普通科の子に呼び止められてるとこ見たぜ？」
「鱗それまじ？白状した方がいい」
「下駄箱にも入ってたよな」

俺も目撃していた。回原、言いふらさないけどモテるんだよな。

「泡瀬も鱗もどんだけ俺の事見てんだよ。確かに貰ったけど、応援してます だったし義理だろ？」
「ぐぬぅ。勝者かよ」

今日は円場のリアクションが一段と激しい。内心喜んでるのわかってるぞ回原。そりゃ純粋な好意は嬉しいよな。羨ましいぜ。ぐだぐだと話を続けていた中、「おい、あれ八百万じゃね？」と突然の鱗のひと言で俺たちの視線は窓の外へ。

「はっ？！」
「いってこいよ〜泡瀬♡」

半ば強制的に送り出され、玄関へ用件を聞きにいく。

「あら泡瀬さん、ごきげんよう！」
「お、おう。…誰かに用事か？」
「いえ、実はバレンタインですので……」

ゴクリ。『バレンタイン』その言葉に胸が高鳴る。マジか八百万、もしかして俺にか……？

「チョコレートに合うお紅茶をお裾分けに来ましたの！是非B組の皆さんで召し上がってください」

・

・

「……紅茶？」

やばい。あげて落とされるとはまさにこのこと。ポカンとしている俺を不思議そうに見るも八百万は続ける。

「はい。先日、拳藤さんたちにお渡しする約束をしておりますの」
「なるほど…。わかった、渡しておくよ」
「よろしくお願いします、泡瀬さん。ではわたくしはこの辺で失礼いたしますわ」
「気をつけてな」

そう、そうだよな。わかっていたさ……。見送って談話室に戻るとキラキラした目の3人が待っていたが、明らかに落ち込んでいるであろう俺を見て恐る恐る話しかけてきた。
「皆でって、紅茶貰った。女子たちではなしてたんだと」簡潔に伝えたがお前ら、「あちゃー」って顔をするな。

「泡瀬、元気出せよ」
「なんかスマン」
「来年に期待だな」

▽

夕方、寮の中に甘い匂いが漂ってきて、全員がダイニングに集められた。

「ハッピーバレンタイン！B組男子のために、女子全員で作りました！」
「ヤオモモに分けてもらった美味しい紅茶も淹れたよ」

ほっこりと平和なお茶会にてクラスの仲がまた深まった。

「ホワイトデー待ってるよ♡」

ｰfinｰ