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イラスト企画
2020/05/15 05:31もう1年以上まえの話なのだけれど
スキマの絵師なのに、ツイッター企画に引っ張り出されたことがあります
購入者は、じぶんでかくわけではないにもかかわらず、イラスト企画の主催をしているらしかったです
そのひとをモデルに、自立しないまま同人活動をした気になってしまうことがどうして危険なのか、伝えたくて物語を考えてみました
以下、長いです
市子(仮)は子どものころから引きこもりでした
それは日常的なことなので、いまさら特徴的なこととも思いませんが、30代になると、重度のパニック障害として生活保護を受けるようになったのは、じぶんでもショックでした
毎日の楽しみは、8匹ほど飼っている猫を眺めることと、ゲームへの課金を仲間に自虐すること、そしてもちろんアニメです
生活はカツカツだけれど、それ自体がサブカルへの恩返しになるはずです。フリマアプリで絵師を探し、個人のクリエイターに対して課金するのがライフワークとなっていたので、そのように感じるようになっていました
事件のきっかけは、黒バスの版権イラストを依頼したことでした
それをツイッターで実況していたら、あるフォロワーが「そのひとの絵で進撃も見てみたいな」とつぶやきました。絵師に相談したら、オーケー。そのフォロワーにもお金を出し合ってもらううち、市子はいつしかイラスト企画の主催となることができたのでした
じぶんで絵を描くことができなくても、注目され、感謝されるなんて、フリマアプリは夢のような場です
そんなときでした―――神絵師の「夜々」(仮)さんに出会うことができたのは
夜々さんの、線も、色使いも、なにもかも市子の理想を越えています。夕日を見るよりももっと、胸がきゅーっとなるほど惹かれました
ちょうど、料金表には大人数のキャラを描けるとあったので、特に「好きなキャラ」というものがなかった市子は、どんどんリクエストするうち、いつの間にか弱ペダのキャラを28人、描いてもらうことになってしまいました。しかし夜々さんは面白がって、追加料金を要求することなく快諾。感極まった市子は、フォロワーたちのすきなキャラクターも聞き出すことにします。みんなやはり選びきれないようです。ハイキューやヒプマイなど、挙がった膨大なキャラクターを夜々さんにリクエストしていきました
しかし、夜々さんの遅延が気になります
問い合わせるとちゃんと作業は進んでいたものの、驚愕の真実を告げられるのでした
せめてフリマアプリにおける取引の有効期限には間に合わせるために、夜々さんが本職を辞していると告白したのです
それまで破格だった夜々さんは、生活費のために、料金を1枚10万円に引き上げるしかないと告げ、市子はそれをフォロワーにも支払うよう促すのですが、連絡が取れないひとが現れ始めました
なかには、急に料金を要求してきた夜々さんを詐欺師だという者もいます。だけど、着々と作業してくれているし、相場を調べると、キャラ30人ほどの絵というのは、10万円でも破格に安すぎるのです
すでに夜々さんのイラスト企画を始めて半年。これまで7枚を仕上げてもらうことができました。傑作ばかりで、夜々さんの繊細なタッチに、あえてキャラクターが生き生きとしている構図を指定することで、本人の魅力が限界を超えているのです。市子のフォロワーも伸びる一方。けれど、今後の3枚も合わせて、既に100万円も入金していました
あとは忍たまイラスト、1枚に55人
鬼滅イラスト、1枚に40人
銀魂イラスト、1枚に24人
これらは、もちろんフォロワーの気まぐれによって随時変更になり、リテイク料金が無限に重なります
夜々さんが確定申告でなん度も税務署に通わなければいけないということで、ゆっくりと作業しているなか、市子は金融機関や少ないリア友からお金をせびりながら、これからどうなるのか不安で、呼吸ができずのたうち回ることもありました。夜々さんを気に入ったフォロワーがつくたび、むしろすきなキャラを尋ねる手は止まりません。それは課金の感覚に本当によく似ていて、実際にネトゲの料金もかさむ一方です
でもいいのです。じぶんは働かずしてアートディレクターになった障碍者の星なのだから
3枚の作品の納期が近いある日、市子は改めてリクエストの主たちに連絡しました。「まだ絵が納品されないの。ちょっと待ってね」
すると驚くようなリプが返ってきます
「リクエスト?」
「確かにすきなキャラは教えたけど……」
「お金取るの?」
信じられないことに、本当の詐欺師は、市子だったのです
そのうち、リツイートを見たひとが「イラスト企画って他人にかかせるものだっけ?」とささやき、ボヤ騒ぎも起きるようになりました
「なんで取引を実況したりするの? ラフとか未完成のものは著作権法的に公開しちゃいけないんだよ」
「集合絵じゃなくて、せめてじぶんだけが得をするカプ絵か夢絵にしないと。二次創作で『みんなのためになりたい』なんて信じられない」
市子は涙が止まらなくなりながら、障害があって生活保護でやりくりしていることを、Twitterだけでなくブログ記事なども使って発表しましたが、火に油を注ぐだけでした
「みんなの血税で課金してたのか。よく明かしたな」
「おまえみたいな廃課金が過呼吸になったって心底どうでもいいことなのに」
「涙が止まらないならそのまま干からびてください人類のためにお願いです」
もはや、フリマから納品の通知を眺めても、フォロワーから夜々さんの絵にリクエストが来ても、なにが書いてあるのかわかりませんでした。新たにまだ体験していなかった障害が重なったのかもしれません
猫が人間のことばを話します
「市子ちゃんはじぶんでなにもしたことがないね」
「わたしみたいな片輪が働いていいわけないでしょ!おまえこそ働いてじぶんで食べていけよ!ご主人がこんなになっているのに!」市子はハサミを猫に突き立てました
スキマの絵師なのに、ツイッター企画に引っ張り出されたことがあります
購入者は、じぶんでかくわけではないにもかかわらず、イラスト企画の主催をしているらしかったです
そのひとをモデルに、自立しないまま同人活動をした気になってしまうことがどうして危険なのか、伝えたくて物語を考えてみました
以下、長いです
市子(仮)は子どものころから引きこもりでした
それは日常的なことなので、いまさら特徴的なこととも思いませんが、30代になると、重度のパニック障害として生活保護を受けるようになったのは、じぶんでもショックでした
毎日の楽しみは、8匹ほど飼っている猫を眺めることと、ゲームへの課金を仲間に自虐すること、そしてもちろんアニメです
生活はカツカツだけれど、それ自体がサブカルへの恩返しになるはずです。フリマアプリで絵師を探し、個人のクリエイターに対して課金するのがライフワークとなっていたので、そのように感じるようになっていました
事件のきっかけは、黒バスの版権イラストを依頼したことでした
それをツイッターで実況していたら、あるフォロワーが「そのひとの絵で進撃も見てみたいな」とつぶやきました。絵師に相談したら、オーケー。そのフォロワーにもお金を出し合ってもらううち、市子はいつしかイラスト企画の主催となることができたのでした
じぶんで絵を描くことができなくても、注目され、感謝されるなんて、フリマアプリは夢のような場です
そんなときでした―――神絵師の「夜々」(仮)さんに出会うことができたのは
夜々さんの、線も、色使いも、なにもかも市子の理想を越えています。夕日を見るよりももっと、胸がきゅーっとなるほど惹かれました
ちょうど、料金表には大人数のキャラを描けるとあったので、特に「好きなキャラ」というものがなかった市子は、どんどんリクエストするうち、いつの間にか弱ペダのキャラを28人、描いてもらうことになってしまいました。しかし夜々さんは面白がって、追加料金を要求することなく快諾。感極まった市子は、フォロワーたちのすきなキャラクターも聞き出すことにします。みんなやはり選びきれないようです。ハイキューやヒプマイなど、挙がった膨大なキャラクターを夜々さんにリクエストしていきました
しかし、夜々さんの遅延が気になります
問い合わせるとちゃんと作業は進んでいたものの、驚愕の真実を告げられるのでした
せめてフリマアプリにおける取引の有効期限には間に合わせるために、夜々さんが本職を辞していると告白したのです
それまで破格だった夜々さんは、生活費のために、料金を1枚10万円に引き上げるしかないと告げ、市子はそれをフォロワーにも支払うよう促すのですが、連絡が取れないひとが現れ始めました
なかには、急に料金を要求してきた夜々さんを詐欺師だという者もいます。だけど、着々と作業してくれているし、相場を調べると、キャラ30人ほどの絵というのは、10万円でも破格に安すぎるのです
すでに夜々さんのイラスト企画を始めて半年。これまで7枚を仕上げてもらうことができました。傑作ばかりで、夜々さんの繊細なタッチに、あえてキャラクターが生き生きとしている構図を指定することで、本人の魅力が限界を超えているのです。市子のフォロワーも伸びる一方。けれど、今後の3枚も合わせて、既に100万円も入金していました
あとは忍たまイラスト、1枚に55人
鬼滅イラスト、1枚に40人
銀魂イラスト、1枚に24人
これらは、もちろんフォロワーの気まぐれによって随時変更になり、リテイク料金が無限に重なります
夜々さんが確定申告でなん度も税務署に通わなければいけないということで、ゆっくりと作業しているなか、市子は金融機関や少ないリア友からお金をせびりながら、これからどうなるのか不安で、呼吸ができずのたうち回ることもありました。夜々さんを気に入ったフォロワーがつくたび、むしろすきなキャラを尋ねる手は止まりません。それは課金の感覚に本当によく似ていて、実際にネトゲの料金もかさむ一方です
でもいいのです。じぶんは働かずしてアートディレクターになった障碍者の星なのだから
3枚の作品の納期が近いある日、市子は改めてリクエストの主たちに連絡しました。「まだ絵が納品されないの。ちょっと待ってね」
すると驚くようなリプが返ってきます
「リクエスト?」
「確かにすきなキャラは教えたけど……」
「お金取るの?」
信じられないことに、本当の詐欺師は、市子だったのです
そのうち、リツイートを見たひとが「イラスト企画って他人にかかせるものだっけ?」とささやき、ボヤ騒ぎも起きるようになりました
「なんで取引を実況したりするの? ラフとか未完成のものは著作権法的に公開しちゃいけないんだよ」
「集合絵じゃなくて、せめてじぶんだけが得をするカプ絵か夢絵にしないと。二次創作で『みんなのためになりたい』なんて信じられない」
市子は涙が止まらなくなりながら、障害があって生活保護でやりくりしていることを、Twitterだけでなくブログ記事なども使って発表しましたが、火に油を注ぐだけでした
「みんなの血税で課金してたのか。よく明かしたな」
「おまえみたいな廃課金が過呼吸になったって心底どうでもいいことなのに」
「涙が止まらないならそのまま干からびてください人類のためにお願いです」
もはや、フリマから納品の通知を眺めても、フォロワーから夜々さんの絵にリクエストが来ても、なにが書いてあるのかわかりませんでした。新たにまだ体験していなかった障害が重なったのかもしれません
猫が人間のことばを話します
「市子ちゃんはじぶんでなにもしたことがないね」
「わたしみたいな片輪が働いていいわけないでしょ!おまえこそ働いてじぶんで食べていけよ!ご主人がこんなになっているのに!」市子はハサミを猫に突き立てました