「砂熊――！？」

柵の中で砂熊が対峙している有利は驚くしかなかった。

「ちょっと待って…砂熊。もしかして、こんなのと戦えっての！？」

驚くしかない有利だが、そんな事を全く気にしていない一行は応援する。

「陛下の華麗なる剣で凶暴なる砂熊を退治して下さい！」

「獣如き、ガツンと一発見舞ってさしあげなさい！」

「そんな…！ガツンと一発って簡単に仰いますけど、無理ですから――！！」

無責任な発言に突っこむ有利。

「大丈夫！陛下なら出来ます」

「頑張ってね～、有利」

「ユーリなら大丈夫だって♪」

「ユーリー！頑張れー！」

「皆、人事だと思って…っ」

グレタはともかく、笑いながら応援している双子とコンラートだった。

すると、突然砂熊は有利を襲い掛かる。

「うわああぁああ！！」



ドッカ――ン！



「………あれ？」

いくら待っても砂熊は襲って来ない事に気づいた有利だが、目の前には大きな穴が掘られいた。

「そういえば、砂熊って穴を掘って身を隠す習性があるんだったな」

砂熊の習性を思い出していた健だが、砂熊は有利の目の前で地面に穴を掘ったり出てきたりを繰り返していた。

「陛下！顔を出している瞬間を狙ってください！」

「…これって、モグラ叩き？」

「モグラ叩きなんでしょうね」

有利の小さなツッコミにも、アリアは苦笑しながら答える。



ガキン



「べ～～あ～～…」

有利はモルギフで砂熊の頭を叩いたのだった。

叩かれた砂熊はまた巣の中へと戻っていくと、中から違う声が聞こえる。

不思議に思った有利は巣の中を覗いてみると、そこにいたのはライアンだった。

「じゃあ、さっきの砂熊は…」

ケイジだったという事だ。

それからは、ギュンターが考えた儀式を次々とこなしていく。

巨大な和紙に『渋谷有利原宿不利』という字を書いた。

「あ～あ、床に墨汁が…」

「これ、誰が掃除するんだろうな…」

「大変そうですね…」

有利達が移動した後、双子とエイルはジッと墨汁で汚れた床を見ていた。

次には以前から建設していた野球場で試合形式をしていたが、見事有利はコンラートの投球をホームランで打ち返したのだった。

戻ってきた有利をグレタは花束を渡す。

「さすがですね。まだまだ俺の投球じゃ抑えられそうにないな」

「…コンラッド、本気で投げてた？」

苦笑いをする有利だが、コンラートは相変わらずの爽やか笑顔で答える。

「ええ、スポーツマンシップに則ってアレが俺の本気です」

「そっか、ま、最初のノーコンからすればすごく上手くなったよ…っていうか、」

「ん？」

有利は周りを見渡す。

「これ、ほんとに儀式なの？なんか見せ物になってる気がするんだけど…」

「仕方ないんじゃない？」

「そうだな」

「ま、今回は君のお披露目が目的なんだから、ある意味見せ物なのは仕方ないよ」

「さ、次へ参りましょう！」

「え？まだあるの…？」

まだ続く儀式に疲れきった顔をする有利だった…。

しばらくして休憩に入り、双子と有利、コンラートは廊下を歩いている。

「はぁ～～っ やっと休憩だ！」

「お疲れ様です、陛下」

「沢山あったからな～」

大量の儀式をこなした有利は、疲れた顔をしている。

「本当だよ！いつまで続くの？」

「後は眞王廟に行って立会人の前で、成人の誓いをするだけからしらね」

「本当に！？」

「本当よ」

残り１つだと聞いた有利は喜ぶ。

すると、有利はなぜ眞王廟でやるのか不思議に思う。

「本来は眞王陛下にも誓いを聞いて頂く為なんですが、」

「眞王陛下が居ない今でも、一応儀式としてやるらしいけどな」

「ふ～ん、ん？」

すると、廊下の途中にある部屋からラザニア達の話し声が聞こえる。

「そうなのよ！少し前に十貴族と特別貴族の皆様が集まって、会議をされていたでしょう？」

「はい…」

「その議題が、新しい魔王陛下を選ぶ事だったのよ」

「そうそう！そして決まったのがヴォルフラム様ってわけ」

彼女達が話していた内容は、有利の次の魔王の事だった。

その内容は十貴族と特別貴族の会議で話し合いされていたのだ。

「ほら、ユーリ陛下は異世界に帰られてしまわれたから」

「王位をいつまでも空けておくわけにもいかないでしょ？」

「でもっ ユーリ陛下は戻ってらっしゃってるじゃありませんか」

「だから、ちょっと困った事になってるのよねぇ～」

彼女達の話しを聞いた有利達４人は中庭の方へと赴き、有利が居なかった間に起こった出来事を話し始める。