「ヒューブ？あんた、さっきまで生死の境を彷徨ってなかった？何でまた襲ってくるわけ！？」

「下がってください！陛下！」

「…陛下？」

『陛下』という言葉を聞いたヒューブは一瞬動きを止める。

「（…双黒？あの時の。わたしはまた、取り返しのつかない事を…？）」

ヒューブの動きが止まっている事に気づいたコンラートは彼が持っている剣を弾き飛ばした。

コンラートが剣でヒューブの喉にあてる。

「コンラッド！ヒューブ！」

「有利、行ったら駄目！」

有利は２人のところへ行こうとしたがアリアに止められる。

「陛下―――！！」

すると後ろの方からギュンター達が走ってきた。

「いったい何事ですか！これは！」

「！」

ヒューブを見たグウェンダルはそのまま走りだす。

「あぁ、待て！グウェンダル！！」

有利が一応止めようとしたが。


ガッ！


そんな有利を通り過ぎ、グウェンダルは拳でヒューブを殴ったのだ。

「あーあ、殴っちゃった」

「しかもグーで殴った」

相変わらずのん気に話している双子だった。

「アリア様、平気ですか！？」

「リュイ？」

同じ様に走って来たリュイもまた彼女の側に駆け寄る。

「だから言ったのだ。コイツを再び城に戻すのは反対だと」

そう言うとグウェンダルは自分の剣を抜く。

それを見た有利は焦りながら、グウェンダルとヒューブの所に行こうとしたがコンラートに止められる。

「コ、コンラッド？」

「２０年前に、こうしておくべきだったのだ」

グウェンダルは剣を振り下ろす。

「ヒューブ！」

すると別の方向から彼を呼ぶ声が聞こえ、グウェンダルはギリギリの所で剣を止める。

「ニコラ？」

「立って！ヒューブ！」

ヒューブを庇ったのはニコラだったのだ。

「ニコラ？何故ここに？」

「早く！」

ニコラはヒューブを肩に抱えて、その場から逃げる。

それに気づいたグウェンダルは追いかけようとした。

「黒死剣（ｺｸｼｹﾝ）」

その言葉と同時に剣が投げられ、グウェンダルの目の前の地面に刺さった。

「…アリア？」

「お前、何やってんだ？」

「アリア…」

「アリア、何故止める。お前もあの男を恨んでるのではないのか？」

アリアがグウェンダルの事を止めた事は、ここにいる全員が驚いている。

「…確かに恨んでる。あの男さえいなければあんな事にならなかったかもしれないって思う。
でも、もしここであの男を殺したら…、生まれてくる子どもが１番可哀そうだと思うから止めたのよ」

「……アリア…」

アリアの口から出たのは二コラが産む子どもの事だったのだ。

「親がいない事がどれほど悲しいのかグウェン達はわかる！？父親の記憶が無いって事に！私達が…、母様から引き離された時の悲しさが！！
…私は生まれてくる子にそんな思いをさせたくない。もしそれでもあの男を殺すというなら、私が絶対に止める」

「アリア…」

今まで以上に真剣な表情で話す彼女に、ここにいる全員が驚きを隠せずにいた。

その時それを聞いてたグレタがグウェンダルの前に走って来る。

「ヒューブを苛めないで！」

「奴は許されない罪を犯したのだ」

「グレタもそうだもん！グレタだって、ユーリを殺そうとしたんだよ。
嘘ついて、勝手な理由で刺そうとしたんだよ。…今でも…、今でも思い出すと涙が出てくるよ。
つらくて、はずかしくて、消えちゃたくなる…！だけど…ユーリは怒らないんだよ。
グレタが悪いなんて一度も言わないんだよ？キライだなんて、絶対絶対言わないんだよ。
スキだって言ってくれるもん…可愛いって、おれも娘になればいいって…！

そのたびに、何て悪い事したんだろうって泣きそうになる。アリアもグレタが牢屋の中に居たときだって、優しくしてくれたんだよ。
ユーリなら悪いようにしないって！グレタが悪い事をしたのに、アリアもグレタの事責めないんだよ？」

「…グレタ…」

泣きながら思っていたことは話しているグレタに、有利は近づき優しくグレタを抱きしめる。

「…でも、うれしくって、ユーリの側にずっと居たいって思うんだよ…」

有利に抱きしめたグレタは涙を流しながら、じっとグウェンダルを見つめる。

「………」