彼が天使に堕ちるまで
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孤児院が建てられている場所は、人の往来のある中心街から遠く離れた、鬱蒼と茂る森の近くだ。その建物はいつからあったのかはわからず、ボロボロな様子から、古い建物であることは見てとれた。
そんなボロ小屋の近くに、整備されていない森がある──それだけでも陰鬱で嫌な気配しかしないが、夜になるとより一層不気味で、薄ら寒い雰囲気が漂う。
そんな様に「化物が出る」と、噂が飛び交うのには、そう時間はかからなかった。
そんなだからこそ、物珍しさだけで近寄る"普通"の人間は誰もいない。逆を言えば、そんな不気味な場所に足を運ぶような人間は、相当な物好きか訳ありなわけなのだが……。
全身を包帯で巻いた子供も、まさしくそうだった。
自分を産み落とし、まともに育ててこなかった母親に、頭のイカれた糞のような性格の父親……否、正確には母親の連れの男であり、実の父親ではないのだが、それはさしたる問題ではない。
最後に見た母親は、まるで化け物を見るような顔で己を見下ろしてきていたのが、その記憶に新しい。
『いらない、こんなモノ、私の息子じゃない』
『──こんな、こんな化け物』
この世の者を見る目ではない。その視線が、その言葉が、母親であった人間に捨てられたのだと理解するのに、時間はそう要さなかった。
──苦しい
そう思う感情すら麻痺した。
まともな教育も、食事も与えられることなく、無為に時間は過ぎていく。
だからといって死にたくはない。生ゴミとして捨てられたものから、食べられそうな残飯を漁り、食あたりを起こして嘔吐しようと、生きるために必死に食らいついた。
生きて何かをするわけではないが、自分をこんな場所に捨てたやつの思い通りに死ぬのはゴメンだ。
だが、生き甲斐がない時間を過ごしているうちに、人間の中身は腐っていく。
彼もきっとそうなる。心のどこかで自分が冷え切っていくのを感じていた彼は、しかし、同じように捨てられた、ある少女と出会うことで、少しずつ変わっていくことになる。
「はじめまして、少年
いや、二度目まして、かな」
それは本当に人間なのかと、一瞬目を疑った。
「私はユキ、あなたの名前は?」
「…………ザック、そう呼ばれてる」
これが、彫刻のような少女と、手負いの獣の少年の出会いだった。
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