彼が天使に堕ちるまで
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管理の行き届いてない孤児院は、どこもかしこも薄汚れており、おおよそ綺麗とは言い難い風貌だ。それ故、子供たちに宛てがわれる自室も不衛生で、物置と言われても疑わないレベルであった。
そんな部屋の中でも比較的綺麗に整えられた一室が、少女──ユキに宛てがわれた自室だ。
「あんたの部屋はここだよ、あたしは掃除なんてしないから、自分で綺麗にしな」
「はい、ありがとうございます」
部屋を宛てがわれた際に冷たく言い放たれたが、ユキはそれをさして気にすることもなく、お辞儀をして女に感謝の意を伝えた。
そんなユキの様子に、女は関心を示すことなどない。チラと彼女の旋毛を見下ろし、気味悪そうに顔を顰めながら、逃げるようにして部屋から出ていく。
残されたユキは、カビ臭い空気に鼻を手で覆いながら、埃っぽいシーツを摘みあげた。
元々は白かったであろうシーツは、埃と塵のせいで灰色に薄汚れていた。その様から、普段から殆ど掃除などされていないということが、容易に想像できる。
……まぁそんなことは、この孤児院に来たときからわかりきってはいたことだが。
それでも、比較的綺麗にしてあると言う部屋を宛てがわれたのは、あの男が言うように、将来的に売るための価値を下げないためなのだろう。
アルビノのように白いというだけでも異質で、珍しいものを好む金持ちにとっては、良い玩具になる。だが、見た目が損なわれていては価値が下がるというものだ。
隻眼と言うだけで価値は下がってはいるのだが、小綺麗な眼帯という小物を飾るだけで映える。中には、そういったものを好む輩もいるというのだから、人の性癖なんてものは十人十色だ。
いずれにせよ、今の自分に抗える術はなく、ただ、波風が立たぬよう、礼儀正しい人間を演じるしかない。
未来の見えない己の行く先を想い、ユキは静かに目を伏せると、まずは少しでもこの埃っぽさをマシにしなくては、と、部屋の隅に置かれていた掃除用具を手に取った。
*** *** ***
また一人死んだ──
女の口から発せられた台詞に、男は隠すことなく悪態をついた。
違法孤児院であるこの場所において、譲り渡された、あるいは拾った子供達は、経営者夫婦にとってはただの道具であった。
近年の闇市場界隈では、幼い子供の臓器がよく売られている。
人体実験に使用する研究者や、特殊な趣味を持つ収集家など、正規の手順で臓器や玩具を得られない者たちが、こぞって高値で買い叩いているのだ。
この孤児院で死亡する子供は、その殆どが何かしらの臓器を失っているが、その後の遺体にすら、価値をつけて引き取る人間もいるのだから、こんな楽な仕事はないだろう。
だが、いくら金儲けの道具とは言え、死なれては後処理が面倒なのだ。
この孤児院の子供には籍などもなく、行政による監査が入ることがないため、正規の手順に則って埋葬屋に依頼し、手厚く埋葬する必要はないが。それでも、死体を家の中に放置するほど、夫婦は横着者ではなかった。
だが、たかだか道具に自分たちの時間を割くほど、律儀な人間でもない。
「見つけるのが早くて良かったわ、まだ腐ってなかったんだもの」
「あぁ、それならまだ"中身"は無事そうだな
いつものを呼びつけて売るか」
それでも、傷み始めたガワには価値がない。その後の残骸は、庭にでも埋めてしまえばいい。
端金で買われた子供も、俺たちの役に立てて光栄だろう。
スプラッター映画の映されるテレビを見ながら、ニヤリと笑いながら男は言い放った。
孤児院とは名ばかりの施設。売られる子供は、全て身元が定かではないもので、悪環境で何をされようが、誰も気に止めやしない。
だが、と、男は珍しくも頭を働かせた。この前売られた彫刻のように白い娘は、他の"道具"と同じように扱うことはできない。
異質な存在は、それだけでも希少価値が高いのだ。万が一壊れでもしたら大変だ。
「白いのは無事そうか」
「……あぁ、この前きた子供ね。今のところは元気そうよ。
にしても、あんたがあの白いのを育てるなんて言った時は、頭がどうかしちゃったのかと思ったけど」
「あれの肌色は珍しいし、何より顔がいい。片目がないのは残念だが、育ちきれば値打ものだ」
「本当にそうなるといいけど……あの子供、彫刻みたいに白くって気味が悪いったらあしりゃしないのよ……」
「まぁ、せいぜい死なないように餌は与えといてやれよ
後、傷はつけるな」
商品価値が下がるからな。
ビールを片手に映画を見る男は、将来手に出来るであろう金のことを思い、クツリと笑みを浮かべた。
喉の奥で笑いながら白色を思い浮かべた男は、ふと、薄汚い白を身に纏う子供のことを思い出した。
それは随分と前にこの孤児院に来た子供で、早々にくたばるものが大半の中、しぶとく生き残っている。
引き取った当時は、ボロ雑巾が来たと落胆したものだ。全身火傷を負ったその子供は、まともな環境でないにも関わらず生き残っているが、その見た目から商品価値はないに等しい。中身についても、あまり値打ちは見込めないだろう。
だが、こちらが命令したことについて、黙って行うという性格だった。反抗的な目つきは気に食わないが、そこは便利であると男は評価している。
「おい、あのガキはまだ生きてるんだろう?」
「あのガキ?」
「火傷のガキだよ、包帯でぐるぐる巻の」
「あぁ、まぁ、まだ生きてるね。」
「間違っても白いのに近付けるなよ、皮膚病なんて移された時には、それこそただのゴミに成り下がるからな」
だが、便利である。それ以上でもそれ以下でもない。
男と女にとって、子供は全て等しく自分達のための"道具"なのだから。
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