収拾癖シェパードさん
ギャレスがリアラの暴走を止めた翌日。
止めた手前もう興味のないふりをしていたギャレスだが、寝て起きてもジャックの両刀の話が頭に浮かんでいて離れなかった。
もしかしたら見逃しがあるのかもしれない。ログの内容に追記があるのかもしれない。確認が必要だ。
それらしい理由をこじつけたギャレス。武器在庫一覧を滑る手の勢いが止まらない。←
新しく増えたはずの在庫にすら目もくれず、バーの最下層まで一直線。数日前まで念入りに武器在庫を見ていたギャレス・ヴァカリアンはどこにいった。
最早見慣れた名前のファイル。そこに何故あるのかと沸いた数日前の疑問は綺麗に蒸発していた。
ブゥンと画面が遷移して、例の回収一覧が目に入る。早速ジャックの項目を見つけようとスクロールしたところで、ギャレスの指がピシッと固まった。
【回収物一覧】
・銀河各地で拾得した武器、およびアーマー
~ 中略 ~
・ギャレス・ヴァカリアン①
・ギャレス・ヴァカリアン② New!
・タリ・ゾラ①
・タリ・ゾラ②
・アードノット・レックス①
・リアラ・ティッソーニ①
・モーディン・ソラス①
・ジャック①
な ん か 間 に 増 え て る。
視線を上に向けて、もう一度画面を見る。
【ギャレス・ヴァカリアン② New!】
「……うん」
見間違いじゃない、やっぱりなんか増えてる。
ギャレスの頭上では【nowloading】と読み込みマークがタイマーを刻んでいた。そしてその背後から近づいてくる……否、既にその背後にいる一つの影。
「……いや、待て。なんで私の──」
「②が追加されている」
「…………」
ローディングが完了し、なんとか再起動したギャレスのすぐ後ろから、聞きなれたような慣れてないような電子音の音声が流れてきた。
またもやギャレスがピシッと固まる。今度は指だけではなく体全体が石化した。
なんとか首部分だけでも石化を解いて横へむけると、視界の隅に見慣れた機体のゲスがそこにいた。
な ん か 後 ろ に い る。
「……」
「……」
「……なんでいるんだ」
「ギャレス・ヴァカリアンの生体シグナルが乱れていた」
「……前なら来なかったよな」
「貴方はシェパードの盟友。細心の注意が必要だ」
「あ、ッハイ」
ギャレスの渇いた声が響いた。そうだった、このゲス、シェパード第一主義だった。
「この端末が原因?」
「もう落ち着いた。問題ない」
「先ほどまで生体シグナルに明確な変動があったが」
「見間違いかと思っただけだ」
「何をだ」
「…………」
「こちらのログか」
「…………」
頼むから帰って????
ギャレスの切実な思いも空しく、リージョンがあっさりと原因にたどり着く。
そもそもゲスに目で訴えようとするのが間違いだ、諦めるしかない。←
「生体シグナルの変動を検知した。やはり原因の追究が必要」
「頼むから戻ってくれ」
「拒否する。貴方に何かあれば悲しむのはシェパードだ」
「…………」
押しても引いても戻りそうもないリージョン。言ってることはわかる、ゲスらしく合理的な理由だ。
何よりシェパード第一主義の軸が全くブレていない。←
「ギャレス・ヴァカリアン」
「……わかった。わかった。わかったよ……」
とうとうギャレスが折れた。
「それで、このログを見ようとしていたのか?」
「あぁ、そうだ」
「……ウィルス感染を引き起こすものは何もない」
「まあ……色々あるんだよ、色々……」
「?」
「とりあえず、見るか」
「御意」
ギャレスの指が、自分のログの②の項目に触れる。ブゥンと音を立てながら、いつもと同じ冒頭の文字が現れた。
【ギャレス・ヴァカリアン 回収ログ②】
種族:トゥーリアン
回収場所:オメガ
回収時期:三大傭兵団からの包囲中
「あぁ……懐かしいな」
「ギャレス・ヴァカリアン」
「ん、何だ」
「回収ログと書かれているが」
「……気にするな」
「……キュル」
リージョンの装甲がパタパタと動いた。何やら納得してなさそうにレンズも回転したが、気にせず先を読み進める。
▼回収に至るまでの詳細
ノルマンディーが木っ端みじんになり、シェパードが宇宙で爆発四散し、放流されたギャレスは、シタデルの官僚主義から離れて無法地帯であるオメガで活動に勤しんでいた。
一般人や善良な民間企業に害のある宙賊などを、有志で討伐するグループを形成。
いつからか、住民らや宙賊から賞賛や皮肉を込めて呼ばれだした【アークエンジェル】という、中二病まっしぐらな名前をコードネームとして、本名を隠しながら活動するようになる。
「いやちょっと待て」
「どうした、ギャレス・ヴァカリアン」
「どうしたもこうしたもない」
「何か気になることが?」
「逆にお前は気にならないのか??」
「……ふむ」
一瞬、リージョンの頭の装甲が、傘が拡がるように開いてそのまま収束した。考え事をする人間と同じような動きで、レンズの下に手を当てる。
最近、人間の近くで活動するようになったためか、動きが妙に人間臭い。とうの本人にそれを言ったなら「モーションを更新した」と情緒もへったくれもない回答をされるのは目に見えてるのだが。
「ギャレス・ヴァカリアンは水棲生物だったのか?」
「いやなんでそうなった」
「『放流』は水を放す、もしくは魚介を自然水域へ放すことと定義されている」
「私のどこが魚なんだ」
「銀河には未知の種族も少なくない。トゥーリアンのネットワークにない習性がある可能性を考慮した」
「そんな考慮しなくていい!」
「……ならば中二病という言葉について──」
「それは掘り下げたらいけない」
「…………キュル」
やはり納得してなさそうにレンズを回転させたリージョンだが、さっさと次へ進めようとギャレスの指が画面を滑った。
が───。
なお、シェパードに知られたときは死にかけるくらい恥ずかしかった模様。
「……」
「……」
「…………」
「……ネットワークに接続。具体的な症状について検出」
「?」
「中二病について」
「おいばかやめろ」
中二病を疾病と捉えたのか、銀河規模の集合知に問い合わせようとするリージョンを、ギャレスが全力でとめる。
レンズを掴まれておもくそ揺さぶられたリージョンから、訳の分からないエラー音のようなゲスの鳴き声が出力された。
その音で接続が切れたと判断したギャレスが、パッと両手を離す。レンズを掴まれてシェイクされたリージョンが、威嚇するように装甲をパカッと開いて熱を排出した。
「電子回路に影響」
「お前がネットワークに接続するからだ」
「しかし、ギャレス・ヴァカリアンが死にかけたと」
「……いや、うん、悪かったよ。けどこれは実際に死にかけたとかじゃないから本当に気にしないでくれ。頼むから」
「……御意」
「続き見るぞ……」
調子に乗って悪党たちを裁きまくった結果、オメガの三大傭兵団が団結するという前代未聞の珍事を引き寄せ、仲間たちも爆発四散し、孤立無援状態で籠城を余儀なくされる。
当時、正体不明のアークエンジェル()スカウトのために潜入していたシェパード達と合流。
シェエパードが事前にデカメックを同士討ち機として改良していたり、ガンシップの整備士を眠らせ(永眠)て不良状態にさせるなどの小細工も功を成し、三大傭兵団の撃退に成功。
最後の最後に顔面で、ロケットランチャーの弾を受け止めるという身体を張った曲芸を披露。死にかけるくらい恥ずかしかったコードネームの記憶を抹消しようとする。
ゴンッと鈍い音を立てながら、ギャレスが端末へ頭突きをした。正確には、膝から崩れ落ちてそのまま端末画面とキッスした。←
リージョンの視線がギャレスに突き刺さる。いや、人間的な視線はない、視線はないが、レンズの光があちこちに激しく照射されていた。
脈はある、死んでいない。しかし生体シグナルが激しく乱れている。
異常事態か?
「ギャレス・ヴァカリアン」
「……」
へんじがない ただの しかばね のようだ。
だが、リージョンのセンサーでは身体反応が検知できていた。
処理能力の限界か、一時的なオーバーヒート。リージョンはそう結論付けた。どこか納得したように頭の装甲がパタパタ動く。
要するに、ギャレスの精神が死んだため端末画面へ顔から突っ込んだのだ。なお、リージョン視点からすると。
ギャレス・ヴァカリアンは精神的負荷が一定値を超えると顔面から物体へ突っ込む。
となる。絵面が大変酷い。←
「……間違ってはいない、間違ってはいないが……
きょくげいって、なんだよ……」
「ギャレス・ヴァカリアン。頭は大丈夫か」
「……それだと別の意味に聞こえる」
「?? 頭は正常か」
「なんでもっと悪化するんだ」
「……思考能力に問題はないか?」
「お前ちょっと楽しんでないか????」
「言葉の意味を理解しかねる」
「なんか……なんだかなぁああ……」
ギャレスにも意味はわかる。リージョンは真にギャレスの頭を心配しているだけなのだ。まったく、煽りなどではなく。
だがそれを今のギャレスが人間語に変換した場合……。
『お前頭大丈夫?』『頭イカれてない?』『考える力残ってる?』『ちょっと何言ってるのかよくわからない』
だった。
ギャレス、ログの雑出力に汚染されたため、リージョンの気遣いを煽り言葉として変換する能力を獲得。
実に不要だ。←
精神的にボロボロになったギャレスは、ようやく姿勢を正して画面へ向き直る。
ぶつけた際に機材にヒビが入っていたが、問題なく動くようだ。修繕費はシェパードが連合へ請求してくれるだろう。
倒れてそのままシェパードにより保護、収集される。
現在はノルマンディーに再収納済み。
回収時の状態:アークエンジェル。孤高のスナイパー。中二病要素もりもり。アークエンジェル。
現在の状態:シェパードとの関係。慈愛。驚異の回復力により即座に復帰。なお好みの体位は────
リージョンが反応する間もなく、ギャレスの指が画面を速攻で閉じた。
それに少し不満そうな排気音を出しながら、インコのとさかが立つようにリージョンの頭装甲が開き、レンズがギャレスを照射した。
「……おい、なんで私を見る」
「まだログを確認していた」
「もう終わりだったぞ」
「しかし最後まで読み進めていない」
「いや、あれで終わりだった」
「シェパードとの接触においての選好について──」
「やめろ口に出すな」
「私には口はない」
「屁理屈いうな」
「それで先ほどの体位とは──」
「おいばかやめろ」
「シェパードが好む体位については把握済み」
「それは詳しく……いやまて何でお前が知ってる???」
「…………キュルッ」
濁すような、もしくは「言いません」とでも言うように、リージョンのレンズが素早く回転した。どうにか聞き出そうと詰め寄ってくるギャレスの姿に、穴のあいた胸がくすぐられるような、新規情報を取得したときのような感覚が生じる。
しばらくギャレスを眺めたリージョンは、おもむろに手をレンズに当てると。
「……なるほど、これが『愉快』……」
「おい、私で情緒を学習するな」
後日、ギャレス②のログで気になったところをリージョンが調べ上げ、本人に質問するという姿が目撃された。
「オメガでの『珍事』についてだが──」
「お前まで汚染されてるのかリージョン」
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