収拾癖シェパードさん
リアラは例の収集物ログを見ていた。
あれから何度か削除を行っていたが、どこかにバックアップがあるのか、それとも1から再生成しているのか、削除をした翌日には、全く同じ名前のフォルダ、同じ名前のログがそこに鎮座していた。
最早一種のホラーである。
作成者をたどってみようとしても、何故か途中で痕跡が途切れており、たどり切れない。
シャドウ・ブローカーの矜持もズタズタだ。
「……またできてる……」
昨日消したフォルダが丸ごと蘇っている。
フォルダの削除だけではなく、生成されていたという事実すら丸ごとなかったことにすり替えたというのに、どうしてかまた蘇っている。不死鳥かな?
「リアラ……もう諦めたら?」
「いいえ、諦めません」
「でも何回も失敗してるじゃない」
「シャドウ・ブローカーとして引いてはいけない戦いがあるんです」
「これそんな壮大な話だっけ????」
リアラの後ろで飲物を飲んでいるタリが首を傾げた。
リアラってこんなキャラだっけ?
ふと、先日のログの内容を思い返す。
『クノッソス遺跡に引き籠っていた』
『凡ミスにより謎のプロセアン装置に閉じ込められ』
『シェパードへの第一声は「あぁ、ついに幻覚まで見え始めたわ」』
『放置プレイによるノイローゼ状態。プロセアン狂』
『一時期プロセアンの知識に触れたシェパードを解剖しようかと狂いかけていた』
「…………」
元からこんなんだったかもしれない。
「別に放っておけばよくない?」
「いいえ」
「実害ないよ?」
「問題はそこではありません」
「じゃあ何?」
「私が作成者を特定できないという事実です」
「…………」
「…………」
「リアラ、もしかして意地になってる?」
「なっていません」
な っ と る や ろ が い←
現シャドウ・ブローカー、謎のフォルダの削除に躍起になるの巻。熱意の方向が間違いすぎている。
「あ」
「ん?」
「増えてる」
「え、ウソ。誰?」
タリがすかさず端末に駆け寄り、かじりつく勢いで画面を覗き込んだ。
【回収物一覧】
・銀河各地で拾得した武器、およびアーマー
~ 中略 ~
・クローガンの頭部 ※壁面装飾済
・ギャレス・ヴァカリアン①
・タリ・ゾラ①
・タリ・ゾラ②
・アードノット・レックス①
・リアラ・ティッソーニ①
・モーディン・ソーラス① New!
「……モーディンですね」
「……モーディンね」
リアラの指が画面を滑る。フォルダ画面に戻り、何やら怪しげな動きを始めた手を、タリは咄嗟に掴んだ。
「タリ、離してください」
「ダメ、離したら消そうとするでしょう」
「これは存在してはいけないフォルダなんです」
至近距離でリアラの顔をまじまじと見てしまったタリ。うっすら隈をつけ、瞳孔の開いた目に戦慄を覚えた。
完全にキマってる。恐い。
「リアラ、落ち着いて。もしかしたら内容に手がかりがあるかもしれない」
ありません。
「それに読んでる最中にアクションがあるかもしれない」
ありま……ないとも言えない。
「シャドウ・ブローカーの益になりそうなネタもあるかもしれない」
いえありません。
「……」
「ね、リアラ、とりあえずギャレスも呼んで見てみましょう?」
「……読み終わったら消しますからね」
タリの説得により、ギャレスを巻き込んでログを読むことが確定した。
◆ ◆ ◆ ◆
「そういうわけで読みますよ」
「まて、話が全く見えないんだが」
「私に報告してきた時と立場が逆ね、ギャレス」
ギャレスは両脇を固めるクォリアンとアサリを交互に見た。
さっきまでは、自室で愛銃の手入れを鼻歌混じりで行っていたのだが、目をギラつかせて腕を掴むリアラと、無言で腕を掴んでくるタリの圧により、囚人よろしく連行されてきたのだ。
がっちり両脇をホールドされたギャレスは、最早されるがまま、進むままに身を任せることにした。女性陣、思っているよりも力が強い←
リアラの指が画面を滑り、新しく追加されたモーディンの詳細を開いた。
──ヴォン
【モーディン・ソーラス 回収ログ①】
種族:サラリアン
回収場所:オメガ
回収時期:隔離区域で開院中
▼回収に至るまでの詳細
オメガでは当時、人間とヴォーチャー以外の有機生命体にのみ感染する謎の疫病が流行していた。
モーディンは、感染拡大を防ぐために隔離された地域でクリニックを営んでいた医者兼科学者だ。
クリニックを訪れたシェパードに対して、明らかにそんなこととは無縁そうな武装をガン無視で、臨時ボランティアと勘違いしてマシンガントーク。
「待って、ちょっと待って、ストップ」
タリが片腕を挙手する。続きをスクロースしようとしてたリアラが、タリを見つめた。
「シェパード、アーマーだったのよね?」
「そのようですね」
「アーマー着てるのにボランティアって思ったってこと?」
「……ログにはそうあります」
「……あたし、サラリアンって賢いし視力もいいと思ってたんだけど」
「モーディンを普通のサラリアンとして扱うほうが難しいのでは?」
「……確かに」
堪忍袋の緒が異常に長いシェパードにより、穏便に話を止められ、シェパードがボランティアではなくスカウターであることを認知するモーディン。
ここで一度回収フラグが立ったものの、隔離地区の状態を放置して回収されるわけにはいかないため、回収条件を提供。
「いやモーディン自分から回収条件提示したの??」
「タリ……このログの言葉を真に受けたらだめです」
「そうなんだけど、でも……このログ……」
チラッとタリがギャレスとリアラの顔を見た。
二人のいない間に改めてログを確認したが、概ねあっているのだから侮れない。
ただ、文章で使われる表現がとてつもなく大雑把で雑すぎるだけであって、中身は正常なのだ。中身は。
……それを言うとリアラの表情が抜けるので言わない。絶対に言わない。
シェパードらが、道を塞ぐブルーサンズ、ヴォーチャー達を薙ぎ払い、ちぎっては投げて突き進み、環境維持システムへモーディン印の治療薬を投げ入れたことにより、治療薬が拡散され、謎の疫病が収まった。
これにより、モーディンは無事シェパードによって回収、収集される。
現在はノルマンディーに収納済み。
回収時の状態:人の話を聞かないマシンガントーク。口に違わないマシンガンの扱い。治療狂い。
現在の状態:シェパードとの関係、最良好。変わらないただ一つのマシンガントーク。機嫌が良い時は歌う。良くなくても歌う。
「……治療狂い……」
「ギャレス? なぜそこに反応したんですか?」
「いや、なんでもない、なんでもないぞリアラ。うん」
ハイライトの消えたリアラの目がギャレスに向けられる。
ギャレスは慌てて目を逸らした。今合わせたらやられる、確実に。
「歌とかめちゃくちゃ意外な特技ね」
「案外上手かった、と、シェパードが言っていました」
「なんだっけ、確か『なんでも研究、アサリ、トゥーリアン、バタリアン』」
「……なんで覚えてるんですか」
「いや、なんか耳に残っちゃって……」
「……私は必要だったのか?」
「何言ってるの、共犯者は多いに越したことはないわ」
「いつの間にそんな毒されたんだ、タリ」
その後リアラの手によってフォルダは消された。
──翌日普通に復活した。←
「いつか絶対根絶します」
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