収拾癖シェパードさん
ギャレスの指が馴れたように端末に触れる。
途中新しく見かけた武器在庫を一瞬だけ覗き見をし、すぐにスクロールバーの最下層へとたどり着いた。
「お、今日はもう更新されたのか」
「レックスの時は遅かったのに、今回はやいわね」
右旋性の飲み物を片手に、タリがギャレスの横から端末画面をのぞき込む。シェパードの収拾物一覧に、新たな項目が追加されていた。
【回収物一覧】
・銀河各地で拾得した武器、およびアーマー
・使用用途不明の鉱物。※ノルマンディーに収納済み
・プロセアン由来と思われる遺物
・所有者不明のドッグタグ
・各宇宙船の模型
・スペース・ハムスター
・クローガンの頭部 ※壁面装飾済
・ギャレス・ヴァカリアン①
・タリ・ゾラ①
・タリ・ゾラ②
・アードノット・レックス①
・リアラ・ティッソーニ① New!
「リアラか」
「リアラね」
「連絡するか?」
「…………」
「まあリアラなら……」
「いや本人の許可は取りなさい」
「取った方がいいか?」
「レックスが『勝手に見ろ』だったからって全員そうとは限らないでしょ」
「……それもそうだな、連絡しよう」
「え、ここから連絡するつもり? ……まあそのほうが早いわね」
ギャレスがオムニツールを起動させた。
オレンジ色のディスプレイからリアラの名前を探し出し、呼びかける。
「リアラ、少しいいか?」
『…………』
「?? リアラ? 聞こえているか?」
『あ、すみません、作業に集中していました。
珍しいですね、ギャレスから呼びかけてくるなどと』
「少し確認したいことがあってな」
『そうでしたか、少々お待ちください』
端末を操作する電子音と、書類を片づける音が響き、やがて落ち着いた。
『お待たせしました。
それで、確認したいこととは?』
改まったリアラの声。普段は呼びかけてこないギャレスからの連絡のためか、その頭の中では様々な疑問が飛び交っていた。
確認したいこととは何でしょうか。プロセアン? クルーシブル?
それともシャドウ・ブローカーの情報が必要になった?
「君についての妙なログを見つけた」
『…………』
私について?
『私について?』
「ああ。シェパードによる回収物一覧という──」
『…………』
「リアラ?」
『……すみません。もう一度お願いします』
「シェパードによる回収物一覧だ」
『そこではなく、なぜその一覧に私がいるのですか???』
至 極 全 う な 疑 問 で あ る。
「ああ、そうだ」
あ っ さ り 肯 定 す な。
『……少し、理解ができないのですが』
「安心しろ、私もタリも入っている」
『安心する要素はいったいどこに……?』
「ちょっと、私を安心材料として入れないでくれる??」
『タリ? タリもその場にいるのですか?』
「……まあ、そうなるわね」
リアラからの応答に一瞬の間が空く。
『なぜタリもそこに?』
「前回レックスのログを見るときにギャレスに呼ばれて……」
『レックスのログもあるのですか?』
「ええ」
『それも見たのですか?』
「本人の許可を取ってからね」
『……つまり呼びかけてきた理由は……』
「閲覧許可を取るためよ」
『…………』
リアラの思考が一瞬止まった。意味がわからない。いや言っていることの理解はできる。
が、何故そのログにリアラ自身の名前が入っているのか、意味がわからない。
『……それ、は、私も見ていいものなんですよね?』
「ああ、クルーなら誰でも見れるようになってる」
プライバシーはどこに行った???
『……一先ず私もそちらに行きますね』
リアラオフ。オムニツールが停止した。
「リアラも来るみたいだ」
「人数が増えたわね」
「飲み物でも取ってこよう」
「私の分もついでに持ってきて」
「……」
ギャレスが左旋性の飲み物を一つ、右旋性の飲み物を二つ手に戻ると、そこには既に合流したリアラの姿があった。
「すまない、待たせたようだな」
「いえ、お気になさらず……ところでその飲み物は?」
「ログを見ながら飲もうかと」
「……鑑賞会??」
「間違ってはいないわね。ありがとうギャレス」
タリとリアラは、ギャレスから差し出された飲み物を受け取った。
一見、なんてことのない同僚の集まりに見えるが……。
忘れてはならない、この三人が集まった原因を。
ファイル名【シェパードによる回収物一覧】
「……よくこんなものがここにありますね」
「武器在庫の中に紛れてるのは異常だよな」
「その異常にいち早く適応してそうなあなたは何なんですか??」
「だよね、普通そういう反応になるよね」
「タリ、あなたも随分とリラックスしているようですけど????」
リアラが飲み物を片手にタリへ詰め寄った。
「違うのよリアラ、最初は私も止めてたの」
「最初は?」
「…………」
「タリ?」
「……色々あったのよ」
「何があればこうなるんですか???」
「……リアラ」
「??」
ポン、とタリの右手がリアラの左肩に乗せられる。
一拍の間を置いて、タリは至極真剣な声で言った。
「恋愛心理本なんてあてにしちゃだめよ」
「話の筋が見えないのですが!?」
め っ ち ゃ ど う で も い い こ と だ っ た。
「……ひとまずそれはいいです、一旦置いといて、ログを先に見ましょう」
「あ、少し待つんだリアラ、一回心構えを──」
ヴォン
【リアラ・ティッソーニ 回収ログ①】
種族:アサリ貝
「…………」
ピタっと停止したリアラに、何を見たのかと気になった二人が横から画面を覗き見る。
「……」
「……」
「……私、種族欄は普通にクォリアンだったわ」
「……なぜ私だけ?」
「私もトゥーリアンだった」
「なぜ私だけ???」
アサリ貝。どこからどう見てもアサリ貝。上から見ても下から見ても【アサリ貝】
画面を少し傾ける。──【アサリ貝】
反対から見る。──【アサリ貝】
目を擦る。──【アサリ貝】
「リアラ……角度を変えても変わらないぞ?」
「分かっています」
リアラは片手で目を覆うと、そのまま天を仰いだ。もしかしたら目が疲れているのかもしれない。
まあその理屈は両隣の二人も同じものを見ている時点で通じないのだが。←
「……続き、見ましょうか」
と、視線を戻すと。
【リアラ・ティッソーニ 回収ログ①】
種族:アサリ
サ イ レ ン ト 修 正 入 っ た。
「「「…………」」」
「さっきと項目違わない?」
「……いや気のせいだろう、きっと最初からこうだった」
「いやでもたしかに──」
「きっとこうだった」
「……そうかもしれない?」
「ッスゥーーーー…………続きを見ましょう」
回収場所:テルム
回収時期:プロセアン遺跡調査中
▼回収に至るまでの詳細
アサリ族の考古学者であるリアラは、発掘調査のためにクノッソス遺跡に引き籠っていた。
「引き籠ってたのではなく遺跡調査なのですが???」
50年近くプロセアンの歴史と絶滅の謎を研究しており、非常に研究熱心な学者であったが、うっかりプロセアン絶滅の真相へ片足を突っ込んだため、危険視されたサレンにより、ゲスの強襲を受ける羽目に。
「うっかり????」
慌てて防衛システムを起動したが、凡ミスにより謎のプロセアン装置に閉じ込められ、逆さ吊り気味で長時間放置されることとなる。
「これは事実とは相違していないですがね?????」
「……合ってるの?」
「合ってるぞ、シェパードと一緒に見たからな」
「そうですが!! そういう問題ではありません!!」
ようやく情報を掴んで救助に来たシェパードへの第一声は「あぁ、ついに幻覚まで見え始めたわ」だった(シェパード情報)
「「…………」」
「……ギャレス?」
「言ってたな」
「言ってたんだ……」
「あの時は仕方なかったんですっ!!!!」
シェパードが鉱山用レーザー掘削機を操作し、遺跡ごと破壊することによって救出……ならぬ回収、拾得。
現在はノルマンディーに収納済み。
「「………………」」
「……ギャレス?」
「あの時のシェパードは……少し生き生きとしていたな……」
「ギャレス???」
回収時の状態:放置プレイによるノイローゼ状態。プロセアン狂。
「ギャレス?????」
「私じゃない、私じゃないぞこのログを作ってるのは
リアラ、おい、その手のバイオティック・アビリティを仕舞え、仕舞うんだ。
シンギュラリティを使おうとするんじゃない」
「…………」
「タリ? おいタリ。なんで離れた」
「気のせいだよ、頑張って」
「何を????」
「その間にログみとくから」
「何で?????」
リアラがシンギュラリティを発動させようと、手をワキワキさせながら、ジリジリとギャレスを追いつめる。
我関せずを貫くと決めたタリは、そっとその場から後退し、端末の横へ避難した。
そのまま画面に指を走らせ、ログの続きを盗み見る。
現在の状態:シェパードとの関係、再良好。一時期プロセアンの知識に触れたシェパードを解剖しようかと狂いかけていた。
「リアラ……シェパードの解剖は流石にちょっとどうかと思う」
「ギャレス??????」
「なんでそれまで私のせいになるんだ!!??
まて、リアラ! やめ……アッーーーーーーー!!!!????」
「……なんか倉庫が騒がしいな」
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