収拾癖シェパードさん


 今日も今日とて、リアラは例の収集物ログを見ていた。
 何度でも蘇るさ!と言わんばかりに、変わらずそこにあり続けるログ。消しても消しても生還してくるログ。
 ラクナイよりしぶとく、クローガンよりもタフなんてゲーム性が終わっている。
 誰だこのログを作ったやつ。←

 リアラは流れるような指の動きでバーを最下層まで流し、即座に例のフォルダへアクセスする。
 昨日と変わらないと見せかけて、一覧表に新たな収拾物が載っていた。

  【回収物一覧】
 ・銀河各地で拾得した武器、およびアーマー
 ~ 中略 ~
 ・クローガンの頭部 ※壁面装飾済
 ・ギャレス・ヴァカリアン①
 ・タリ・ゾラ①
 ・タリ・ゾラ②
 ・アードノット・レックス①
 ・リアラ・ティッソーニ①
 ・モーディン・ソーラス①
 ・ジャック① New!

 増えている。しかも今度はジャックだ。

 項目の詳細を開こうとして、直前で指がピタッと止まる。
 
 ──見るのか? 見ていいのか?

 シェパードに紹介されたジャックの姿を思い出す。
 半年前に比べると大分丸くなったというのがシェパードの証言だったが、初対面からどうにもリアラの苦手なタイプだった。
 教師として雇われているため、実力や倫理観は問題がないのだろう。だが全身から滲み出る快楽主義者のような雰囲気が、どうしても反発する。
 しかし、そんな人間であってもプライバシーはある。特に半年前は、シェパードですら踏み込むのに苦労したと聞いていた。

 そのため、シャドウブローカー達が集めた資料にも、あまり目を詳しく通していない。
 ……別に興味がなかったとかではない、決して←

「……そういえば、ジャックと初めて会ったときは、ギャレスも一緒にいたとシェパードは言ってましたね」

 ジャックと出会ったとき、同伴していたメンバーのうちの一人はギャレスだったと、どこかのタイミングで聞いていた。
  ログの内容は、極めて雑に出力されている文章であったが、ギャレスやタリの反応から、その内容は大きく異なってはいなかった。
 当時の状況をリアラは知らない。だが、同伴していたギャレスなら?
 きっと当時のことも、まだ覚えているだろう。
 そうと決まれば、ノルマンディー主砲のキャブレーションしかやることがない、あのトゥーリアンを捕まえて連れてくるしかない。

「ギャレス、今どちらにいますか」
≪リアラか? 今は機関室で主砲の調整中だ≫
「そうですか、ではそこでじっとしていてください」
≪……なんでだ?≫
「いいからじっとしていてください、今からそちらへ行きますので」
≪なんだか嫌な予感g──≫

 ブツっとオムニツールの通信を切る。ギャレスが何かを言っていたような気がするがきっと空耳だろう。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「さあギャレス、確認しましょう」
「……あぁ、そうだな」

 バイオティックでギャレスを捕獲し、無事に連行してきたリアラ。
 トゥーリアンの目が遠くを見つめるようにして、全てを悟ったような表情をしていたが、今はそんなことよりもログの確認が先決だ。

「ジャックという人間についての情報は、このログの閲覧が初めてなんです」
「シャドウブローカーの情報網はサーベラス以上だろう。集まらなかったのか?」
「いえ、集まりましたよ」
「……いやなんでそっちで見なかったんだ?」
「……忙しかったので」

 リアラがギャレスから視線を逸らした。
 嘘ではない、忙しかったのは事実だ。シェパードの情報の保護と、嘘偽りが混入していないか眺m確かめるので忙しかったので間違いではない

「それは私が主砲の調整を中断させられる理由になるのか?」
「なります」
「いやならないだろ」
「さっそくログを開きますね」
「話を聞いてくれ」
「聞いてますよ」
「聞き流せばいいってもんじゃない」

 ギャレスの言葉は、リアラの耳を通り抜けてそのまま壁にぶち当たった。←
 ブゥンといつもの音を立てて、端末の画面が遷移する。

 【ジャック 引渡・回収ログ①】
 種族:ヒューマン
 回収場所:パーガトリー
 回収時期:監獄船脱走中

 画面をスクロールしようとしていたリアラの指が止まる。

「……監獄船の脱走?」
「あぁ……懐かしいな。トゥーリアンが指揮していた凶悪犯を収容している施設だったんだ」
「ジャックはそこの職員だったのですか?」
「いや、収容されてる囚人だ」
「…………」

 グリムソン・アカデミーの教師として紹介されたジャックの姿が、再度リアラの頭を過った。

 ▼回収に至るまでの詳細
 ジャックは人類最強のバイオティック能力を持つとされる囚人だ。収容される前は、惑星プラギアのテルトン施設で、サーベラスによる非道な実を施されていた。

「……実験の対象者だったんですね」
「あぁ……シェパードと一緒に当時の施設の爆破任務に同行したが、酷いものだったさ」
「そうなんで……爆破?」
「サーベラス基地を爆破したいとジャックからの希望があったらしい。シェパードが言っていたな」
「…………」

 ジャックと親し気に話していたシェパードの姿が思い浮かぶ。「色々あったわね」だけで会話が終了していたが、まさかその色々に過去の因縁のある施設の派手な爆破任務があるとは思わなかった。
 ……いや、シェパードもなんやかんや爆破を好んでいた。
 いつものことだろう。

 バーガトリーに収容されているジャックについては、イルーシブマンが事前に身請け金を交渉し、残るは現場での引渡しの手続きのみとなっていた。
 が、イルーシブマンの躾不足により、コリス所長が欲に目が眩み暴走。
 生体としても死体としても価値の高いシェパードを捕らえようと画策するも、成功率零のため失敗。
 仕方なくジャックとの相討ちを狙い、シェパードが収納箱を開けるように仕向けるが、当たり前だがジャックはシェパードに目もくれず、恨み辛みの募った看守達へ特攻を仕掛ける。

 パチッと何かが弾けるような音がした。
 リアラの隣で一緒に画面を眺めていたギャレスが、音の発信源を探すように頭をキョロキョロとさせる。なんだか隣にいるリアラの雰囲気が不穏だ。
 見たくない、見たくないが、見なかったら見なかったで後が怖い。
 ブリキ人形のように動きにくくなった首を動かして横に向ける。リアラの右手にバイオティックエネルギーが集まっていた。

「……ギャレス」
「お、おう……」
「……この、コリス所長とやらは、シェパードを捕まえて、売ろうとしていたのですか?」
「そ、それは……うむ……そうだな。だが安心しろ、その、コリス所長へはシェパード自身がしっかり対応して──」
「なんだそれなら先に言ってくださいよ。続き読みますよ」
「……そうだな、うん」

 パチッと弾けていたバイオティックエネルギーが、一瞬で霧散する。
 ニッコリと無垢な少女のような笑みを浮かべたリアラの姿が逆に恐ろしかった。←
 ログを滑るリアラの指が、どことなく軽やかだ。

 ジャックのお陰で監獄船破壊の手間が省けたシェパードは、討ち漏れていたブルーサンズの部隊と、ついでにコリス所長を薙ぎ払い、シャトルベイにてようやくジャックと話し合い()を行う。

「ふふっ、流石シェパードですね」
「ああ……この時はとても、楽しそうだったな……」
「当時の姿を見れなかったのが残念です」
(……リアラの笑顔がこわいぞ)

 サーベラスに従うシェパードに、当然のように疑惑の目と嫌悪感を示すジャックだったが、シェパードがイルーシブマンの腹いせに提示した、ノルマンディー号にあるサーベラスの極秘データへのアクセス権によって釣られ、捕獲、収集。

 現在はノルマンディーに収納済み。
 なおサーベラスへの敵対心が強いため、定期的な重要書類の改造行為が目立つ。改造内容は『エンジン』の単語を全て『エロジジイ』へ変更。

「……ジャックは教師でしたよね?」
「生徒と接するためにも、発言を改めるよう約束させられてたらしい」
「それを守るなんて、案外律儀なんですね
 サーベラスへの対応も悪くありません。意外と私たち、気が合うのかも……」
「……」

 回収時の状態:囚人。恨み辛みに浸け込みながら冷凍保存。ストレス値が異常。
 現在の状態:シェパードとの関係、最良好。若かりし頃の性や生の乱れをぶちまけたにも関わらず受け止めたシェパードを珍獣のように思ってる。なお両刀である。

「……」
「……」
「……彼女はアサリだったんですか?」
「私もこれは初耳なんだが???」
「でもシェパードは知っているんですよね……」
「そう、みたいだな……」
「……」
「……」
「聞いたら教えてくれるでしょうか……」
「リアラ、流石にそれはやめとこう」

 好奇心ではやるリアラを、ギャレスが必死に止めた。シェパードによるジャックの性癖暴露が回避された瞬間だった。




.
7/8ページ
スキ