【シェパード×リージョン】名前を付けられないもの
ノルマンディーには、多くのクルーと協力者が搭乗している。
協力者達には各々の部屋が与えられ、基本的にはそこで1日の大半を過ごす。
シェパードを信用して乗り込んだ者達とはいえ、サーベラスが造った船まで同じように信用できるわけではない。
その警戒心は、必然的に彼らの行動範囲を狭めていた。
そのため、協力者同士が顔を合わせるのは、食堂、手洗い場、シャワールームなど、クルーが共有で使用する区画か、あるいは同じ任務へ投入された時くらいのものだった。
そんなノルマンディーの船内で、最近妙な光景が増えていた。
「…………」
キュル、キュルとレンズと頭を細かく動かしながら、リージョンが食堂で静かに佇んでいた。
食事は有機生命体特有の行為であり、機械生命体のリージョンが食堂に近付く理由は、今まで全くなかった。
それがどうして、ここ最近見かけるようになったのだろうか。
「少佐……少佐!」
「ジョーカー、どうしたの」
「いや、ぁー……少佐は気にならないんですか」
「……何を?」
シェパードは首を傾げながら、ヒソヒソと小さな声で話しかけるジョーカーを見た。
「何か問題でも?」とでも言いたげな顔であるが──いや問題しかない。
「何って……ほら、あれ、あのゲスですよ」
「……リージョンのこと?」
「ええそのリージョンとかいうゲスのことです!
なんかここ最近、その……俺らの近くにいないですか?」
「……あぁ」
顎に手を当てたシェパードが、思い出したように声を漏らす。
「観測したいと言ったから、許可を出したのよ」
「……何を?」
「私たち……まぁ、主に私ね」
「…………」
フォークに突き刺していたトマトがポトッ、と落ちた。何を許可しているのだろうか、うちのCOMMANDERは。
「……それって俺たちのプライベートも見られるってことですか??」
「そのあたりは細かく条件を伝えてるから安心して。
少なくともあなた達の個人スペースや時間にいたことはないでしょう」
「まぁ……それは、確かに……?」
落ち着いて話すシェパードを目の前にして、ジョーカーの思考が一瞬止まった。
たしかに、個人空間や個人の時間にゲスを見かけたことはない。なんなら、こうして見かける時は、決まってシェパードが近くにいる時くらいだ。
シェパード自身の観測を許可というのはやはり訳がわからないが、少なくとも、プライベートを勝手に覗かせているわけではないらしい。
そこは安心してもいいのだろう。
……安心、していいのだろうか。
「EDIにも注意は払うように伝えてるし。
個人ログに接続されることもないわ」
「それは、ありがたいことで……でも大丈夫なんですか」
「肯定。少佐シェパードの話に偽りはない」
「いや、聞こえてたのかよ!?」
平然と会話に横入りしてくるゲス。声量を落として話していたはずだが、ゲスには意味を成していなかったようだ。
……EDIにも似たようなことをされる。AIや機械生命体特有の距離感なのだろうか。
「少佐シェパード、及びその周辺の有機生命体の観測が目的。範囲に含まれる」
「…………」
「言った通りでしょう、ジョーカー。
彼は嘘は言わないし、私もわざわざ嘘をつかない」
「それは……ぁー……もう! わかりましたよ……」
ナイフとフォークを机に投げ置き、降参のポーズを取る。ここまで言われては納得をするしかない。
司令官であるシェパードが許可した。範囲も限定されている。ならば一般クルーである自分は、もう何も言うまい。
納得の雰囲気を察したのか、シェパードは何事もなかったように食事を進めた。
リージョンもリージョンで、シェパードから少し離れた位置に戻っている。足音がほぼない。暗殺者かよ。
リージョンのレンズはキュルキュルと細かく回転し、弱い点滅を繰り返しながら、シェパードの動きに合わせるように照射先を変えていた。
あくまで人間的な視点によるものであり、本当にシェパードを見つめているとは限らない。
それでも少なくともジョーカーの目には、それが『シェパードを視ている』ように映った。
(主に……ねぇ……)
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