冷徹鬼神の座す地獄へ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あれから押したり引いたり、何度も行き来したりしてみたものの、いくら試しても現世には繋がらず、地獄の世界へと戻ってしまう。
まさかと思った鬼灯が門を通ったりしてみたが、彼は問題なく現世に着いたようで、転送門が壊れたというわけでもなかった。
どうしてか雪は現世に向かえない。今回ばかりは鬼灯が力技でどうにかできるものでもないため、仕方なく閻魔庁へとんぼ返りすることとなった。
何事もなかったかのように戻ってきた鬼灯と、若干の疲労の色に、落胆した表情の雪を迎えた閻魔は、対局な表情をする二人をおろおろと見渡し、ひどく冷静な鬼灯から説明を受けて、納得したように頷いた。
「なるほどねぇ、それで戻ってきたんだ。いったい何事かと思ったよ」
「どうもすみません…何回やってもこっちに出てきてしまって……」
「いやいや、いいんだよ。
雪ちゃんが悪いってわけじゃないんだし、仕方ないよ。」
「私はいつも通りに現世へ降りれましたので、門が壊れたとかではなさそうなのですが……」
「浄瑠璃の鏡は今ちょっと修理中だから、雪ちゃんがこっちに来た原因とかもすぐに探せないんだよねぇ」
「修理には後2日かかると言ってましたか……ちょっとどついて急かしてきましょうかね」
「や、どついても修理は早まらないと思うので、やめてあげてください」
「ついでに日頃のうっ憤も晴らしてきます」とでも言うかのような、真剣な表情で金棒を担いだ鬼灯だったが、慌てた雪に引き留められた。地獄の見知らぬ技術者の頭が守られた瞬間だった。
「他に何か手掛かりはないんですか?」
「一応、記録課に頼めば調べてくれますね。
ただ、浄瑠璃の鏡の修理が終わるのとどっこいどっこいですが……、まあ、頼むだけ頼んでおきましょうか」
「となると、二日は地獄で足止めですか」
寝食どうしよう。と頭を抱える雪。自宅のベッドで寝ころんだ時は、まさかこんなことになるとは思ってもいなかった訳で、当然夕食はまだ食べていない。
つまり今、腹の虫が空腹に向かいつつあるのだ。ついでに言えば、知り合いのいない、しかも地獄という、治安がいいとは思えない場所での寝泊まり先など宛てがあるはずもない。
が、そこは流石の鬼灯も放っておくことはしないようだった。
「大王、閻魔殿の中に使ってない部屋がありましたよね」
「うん?そうだねぇ、確か鬼灯君の部屋の隣が、ついこの間空いたばかりだったと思うよ。
あ、もしかして官吏寮の部屋を使ってもらうの?」
「ええ、下手に放り出すと、亡者と勘違いした他の鬼に折檻を受けるかもしれませんから
私の部屋の近くが開いてるのであれば好都合です。管理がしやすい」
「管理…いやまぁ、寝泊まりしていい場所を貸してもらえるのはありがたいですけど。
お金とか払えませんよ…」
「貴女、大王や私が、子供相手にそんな無体を言うと思っているんですか?」
苦笑いをする閻魔と、若干半目になった鬼灯の視線が雪に突き刺さる。
喋った本人とて、閻魔と鬼灯が何かしら代償を払うよう要求してくるとは思ってはいない。だが、単に世話になるというのは、いくら成人していない学生とは言え、申し訳ないという気持ちが立たないわけではないのだ。
何か手伝えることはないだろうか。そう申し出ていたのは、一般人としては自然な発想だろう。
「手伝いと言われましてもねぇ……たった二日間ですし、そんな大層なことをお願いするわけにはいきませんし」
「掃除とか、一応料理もそこそこできますよ」
「鬼灯君、閻魔庁の掃除とかお願いしたらどうかな?
ちょうどこの前、閻魔庁のあっちこっちが汚れてるって言ってたでしょ。
清掃員の手も足りてないんだし、やってもらったらどうかな」
「まあ……掃除するくらいであれば、亡者と勘違いする者もいないでしょうね
念のため、こちらを貸し出しますので着けておいてください」
そう言って、鬼灯が懐から差し出してきたのはカチューシャだった。
ただし普通のカチューシャではなく、うさ耳や猫耳がついてるような、仮装や面白グッズとして使われる類のものであり、そのカチューシャについていたのは2本の鬼の角だった。
装着部分はできうる限り細めに作られ、色が黒色ということもあり、雪が頭につければ、一般の鬼と見分けがつかないくらいだった。
装飾品として付けられている角も、ハリボテなどではないしっかりとした触感があった。
まさか本物じゃ……と一瞬薄ら寒い感覚が背中を這ったが、きっと気のせいだろうとして蓋をする。気付かないほうがいいことが、世の中にはあるのだ。
「おぉ…角だ……」
「これならみんな、雪ちゃんが生者なんて思わなさそうだね。
にしても鬼灯君、こんなもの何で持ってたの?」
「座敷童子さん達が『鬼ごっこ』をしたいと言いまして」
「それ、外遊びのほうの話じゃないんだ」
※ ※ ※ ※
現世に帰れないとわかってから、あれやこれやと臨時の清掃員として手伝いをすることになった雪は、自らが案内役を買って出た鬼灯により、閻魔庁内の案内をされていた。
「急ごしらえになりますが、こちらが使っていただく部屋になります」
最初に案内されたのは、2日間だけお世話になる官吏寮の部屋だった。
閻魔が裁判を行う広間から、一本道で繋がった先に鬼灯の部屋があり、そこから横に伸びた通路を少し進んだところにある。
裁判の間から一本道とは言ったものの、通路は非常に長く、閻魔の姿は小粒ほどでも視認することができないくらい遠い。
運動能力が中の中である雪は、軽く息を切らしながら鬼灯を見上げた。流石鬼と言うべきか、それとも体力の多さが比ではないのか、息切れ一つなく涼しい顔だ。
対する鬼灯は、息切れを起こしている雪を見下ろしていた。アカガメのような目からは、何を考えているのかを窺い知れることはできない。
もしかしたら何も考えてないかもしれないが。
「わかってはいましたが、やはり体力がないですね」
「ま、まさかここまで広々としてるとは……転送門までも遠かったですし」
「今は仕事と同じ早さで歩いてましたからね。
貴女と私の歩幅は違いますし、追い付くのは大変でしょう
現世に帰るまでの間、いい運動になるんじゃないですか」
「いやそこは合わせてくれないんかい(がんばります)」
「本音と建前が逆ですよ」
「あ、やべ」
そこは合わせてくれないんかい!と内心で思いつつ建前を言ってたつもりが、思わず本音を喋っていたらしい。
サッと血の気を引かせた雪は、咄嗟に口を両手で塞いで俯いた。冷や汗がたらりと流れる。
ここまでのやり取りを踏まえて、生意気な態度を取るべき人ではないのは一目瞭然。いくら罰を与えるのが禁止されてる存在とは言え、上司に馴れ馴れしい態度はご法度だろう。どんな冷たい目で見られるか……。
チラッと頭上の鬼灯を盗み見る、が、予想に反して、冷たい目で見下されることはなく、当の鬼灯は、腕を組んだまま顎に手を当てて、何やら考えごとをしているようだった。
やがて自己完結に至ったのか「ふむ」と一言、納得したように頷くと、何事もなかったかのように閻魔殿の案内を再開した。
「一応、人通りの家具は置いてあります、追加いるものがあれば言ってください。
もっとも、そんな長居することはないとは思いますが」
「そうですね。取り敢えずきちんと寝られれば大丈夫だと思います」
(あれなんか今何かのフラグが立った気がする……いや気のせいか)
「それでは、ここから一通り殿内を案内します。
だいぶ歩くことになりますが、頑張ってついて」
キュルルルル、と、小さな鳴き声のようなものが響いた。案内の続きをしようと話していた鬼灯も、これには一瞬喋る口を止め、音の発信源を見つめる。
両手で目を覆い、耳まで真っ赤にした雪が、腹の虫を鳴らしながら踞っていた。
「ひとまず、食堂で何か食べますか」
「……ハイ……」
.
3/3ページ
