ポケットの中身のモンスター
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どこか遠くで鳥の鳴き声がする。暗い視界が徐々に明るくなるのを感じて、もう朝なのかと思った。
フワリと温い風が吹く。まるで壮大な草原に寝転んでいる時に感じるような、爽やかな風だ。
窓を開けたまま寝てしまったのだろうか、今の季節は春真っ只中でほんのり温かい気温になっているため、網戸にしたまま寝てしまっていたのかもしれない。
差し込む朝日に、ゆるゆると目を開けようとするが、まだ眠いせいか、なかなか瞼が動かない。これでは二度寝を決め込んで遅刻してしまう。
仕方なしに目を閉じたまま、力が入らずぐでんぐでんな体を起こして、右手で瞼を擦った。
ボヤ〜っとする視界に違和感を感じるが、寝ぼけた頭では上手く思考がまとまらない。あれ、自分の部屋はいつからこんな緑の装飾が増えたんだろうか。
そういえば、今日は不思議な夢を見た。
どんな夢だったのかはあまりよく覚えていないが、小さな子供3人と遊んでいたのは覚えている。
その髪色が赤、青、黄といった信号色で、何とも印象的だったように思えたが、あくまで夢なので何でもありなんだろう。
大きく欠伸をし、固まった体をボキボキと解しながらゆっくりと深呼吸をする。
肺が清涼な空気で満たされてとても爽やかな気分だ、まるで本当に草原にいるかのよう…………
「…………ん?」
と、そこまで考えて思考が止まる。
新鮮な空気を吸い込んだおかげで、眠気も覚めて頭がクリアになった。クリアになったが、おかしいな、私の視界もある意味でとってもクリアな状況にってしまっているのだ。
右を見る、木と野原だ
左を見る、木と野原だ
上を見る、清々しいくらいの青空だ
足元を見る、寝間着の自分の足と一面に広がる草原だ。
「…………いやいやいやいや、なんで?」
数秒の間を置いて自分の置かれている状況を把握し、クリアだったはずの思考がごちゃごちゃになる。
部屋じゃない。家が見当たらない。
そもそも何で外にいる?これはもしかして誘拐か?高校生ってまだ需要あるの?
いやいやそうじゃなくて、そもそも誘拐にしては拘束もなにもないし、なんならこんなとこに放置していたら逃げられるだろうに。犯人は馬鹿なのだろうか。
いや、それにしたって、何で、外?
……あ、そうか、これは夢なのでは。夢なんだきっと。なんかちょっと頭ふわふわしてる(寝起きのせい)し、きっと夢だろう、うん。
── グゥ~……
「いや、お腹空くとか、リアルすぎるじゃんこの夢」
ぼそっと呟いた言葉は誰に拾われるでもなく、ただただ静かに吹く風に攫われるだけだった。
とりあえずお腹が空いている、混乱する頭に対して、私の腹の虫は容赦なく飯をせがんできた。喉もカラカラに乾いているし、なにか飲めるものがないだろうか。夢の中でまで飲食物求めるとかどんだけー。
と、考え込んでいた私の腰のあたりを、何かがツンツンとつついてきた。
花か草が当たったのか?不思議に思って振り返ってみると、そこには不思議な、見たこともないような生き物が立っていた。
それはネズミだ。
しかし、普段見ているような手のひらサイズのものなどではなく、兎ほどの大きさの紫色のネズミだった。
真っ赤な瞳はじっとこちらを見ていて、時折ヒクヒクと鼻とひげをヒクつかせている。
その背中からは、先端がクルンと巻かれてある尻尾がこちらを覗いていた。
そして、よく見なくてもわかるが、そのネズミの口元にはビーバー顔負けの立派な前歯が2本生えている。動物園で見たビーバーとは比べ物にならないほど立派な白い前歯だ。
一瞬、ウン年前に、テレビに引っ張りだこだった、某有名芸人が頭を過る。いやさすがに「ファー」って引き笑いはしないだろうネズミだし。
ああしかし、これで噛まれたらひとたまりもないだろうなぁ。
そういえば、野生の兎は意外と凶暴で、縄張りに入った人間を見ると、自慢の歯で噛んでくるものもいるんだとか。
そして兎の噛む力は意外と強く、本気で噛まれると普通に出血レベルだと、何かの記事で読んだことがある。
まぁ、何を言いたいのかというと、一見大人しそうな目の前のこの不思議な生き物が、普通に考えるとめちゃくちゃ危険だって話。
というか、夢のくせにめっちゃ描写リアル。え、私の中のネズミってこんなサイズのイメージだったの。っていうか色派手じゃね。
「うわぁ……ネズミの国のネズミさんの影響かなぁ」
前歯がビーバーほど大きくない兎ですら出血するレベル。
それが目の前のネズミは、ビーバーと同じか、それ以上のサイズ。噛まれたら相当な深手になるはずだ。想像するだけでも痛い。
まぁ、夢は自分の空想とも言われている、この前久々にネズミの国のアニメ映画を見たばかりなので、その影響でこんな空想の生き物を、夢の中で出してしまったのだろう。
私の頭の中ファンタジーかよ。
あ、今の時代ファンタジーも現実か。ハハッ(自主規制)
時間にして凡そ1分間の思考。ここまで考えられるなんて案外余裕があるというか、夢にしては随分とこう、自分の意思が強い。
夢は基本的に自分の思い通りには動けない。FPSゲームのような視点で体が勝手に動くような時もあれば、3人称見下ろし視点で動くこともあるが、そのどれもが自分の意思は反映されていない。
稀に、明晰夢という状況になると自由だとは聞く。所謂幽体離脱というもので、この状態になると夢の世界が自由自在なのだとか。
もしかしたら今その状況なのかもしれない。そう思うと妙な納得感がある。
そう考えついた途端、グウーと鳴る我が腹の虫の空気の読めないこと読めないこと……
自分の中の夢とは言え、目の前には不思議な生き物。大きな耳がピクピクと震え、純真な眼がこちらを見上げてきた。え、今の音お前の腹?なんて副音声がついてそうだ。
「あー、うん、とりあえずお腹すいたなぁ……」
「ラッタ?」
「うん、お腹すいた。
ねぇ、まさかとは思うけど、君食べ物持ってたりする?しない?いやまぁ持ってそうな見た目じゃないもんね、うん」
「ラッタ!」
「いや待って何で持ってるの」
「ラッタ!ッタ!!」
「え、っと、もしかしてくれるの?」
「ッタ!」
いつの間にか紫色のネズミが3匹に増えていたことはさておき。
空腹を知らせる音に、3匹の内の1匹が、両手に持っている桃色の果物をこちらに差し出してきた。反射的に受け取ったその果物は、想像していたよりもあまり重さがなく、そして、思っていたよりも柔らかいもので、少し力を入れるだけで簡単に形が変わるほどだった。
その果物は桃にそっくりだったが、サイズは片手に収まるほどの小ぶりなもので、薄桃色の水玉模様が入っていた。明らかに桃とは別物である。何故に桃そのものでないのかが疑問だ。
鼻を近づけて匂いを嗅いでみると、甘い香りが鼻腔をついた。それは桃よりも甘く、思わずお腹が鳴ってしまう。
ネズミの六つ目がじっとこちらを見つめるなか、お礼を言いながら一口いただくことにした。
「っんまぁ……
なにこれ、あまぁ……うまぁ……」
「ラッタ!」
はふぅと思わず息が漏れる。桃よりも柔らかくて甘く、瑞々しい。甘ったるい甘さではなく、さっぱりした甘さで、これならいくらでもぺろりと平らげてしまえそうだった。
少し残念なのが、真ん中に空洞が空いており、思ってたよりも可食部分が少なかった事だろうか。なるほど、空洞があるからあまり重みがなかったのか。
あっという間に一個食べ終わってしまった。まだまだ満腹には程遠いなと思っていたところ、またもやネズミが同じ果物を持ってきてくれた。それも、一つや二つではなく、小山ができるほど持ってきてくれていたのだ。
「わわっ、え、いいの?」
「ラッタ!」
「んー、そっかそっか、ありがとう〜
でもこれだけいっぱいあったら食べきれるかわからないし、一緒に食べよっか」
「ラッタ?タッ!ラッタ!」
「元々君たちが採ってきたものだし、むしろ私が分けてくださいってお願いする側だから
一緒に食べよ、親切なネズミくんたち」
3匹はお互いの顔を見合わせると、それぞれ一つずつ果物を手に取り、じっくりと味わうように食べだした。私も、彼らが集めてくれた果物に手を伸ばし、一口、二口と口に含む。溢れる果汁が喉を潤した。
そうしてお腹が一杯になった頃、3匹のネズミもぽっこりとお腹を膨らませ、満足そうな表情で地面に横たわった。その内の1匹が欠伸をすると、つられて他の2匹も大きな欠伸をする。
私も欠伸が移ったが、あいにくそこまで眠気を感じていない。そもそも夢の中でまで眠気を感じるなんてこと、ないとは思うけども。
たがしかし、気持ちよさそうに日向ぼっこをしているネズミたちを見ると、なんだかだんだん眠くなってくるような気もする。
もしくはこれは、夢から覚める前兆なのかもしれない。
「あー……起きたらきっと……ベッドの上だろうなぁ……」
ゴロンと私も地面に横になる。柔らかい草のカーペットは天然の敷布団のようで、優しく私の体を受け止めてくれた。
仲良く3匹固まって眠るネズミたちを尻目に、段々と落ちてくる瞼。遠くで聞き慣れない鳥の鳴き声が響く中、幸せな夢の時間ももう終わりかと、少しの名残惜しさを感じながら、そのまま意識を手放した。
──夢の中で二度寝とか、サイコーかよ。
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