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鈴木 雪という人物がどんな人間かと聞かれれば、彼女と関わりを持つ人は「極々一般的な無個性の日本人である」と答えるのが大半だろう。
世界人口の約8割が、なんらかの「特異体質」とされる現代社会。
超能力や驚異的な身体能力といった、所謂”個性”が一般化し、SFや神話といった類の超常現象が身近になりつつある昨今。
祖父、祖母ともども、神事に携わる
故に、彼女も例に漏れずその血をしっかりと受け継いであるが、当人が記憶している限り幽霊の類は見たことがなく、信心深く神様を信仰したこともなく、また、両親のように神社に遣えるという神事にも携わっていない。
その血は特殊ではあるが、彼女本人は「一般人」と言って差し支えないもので、当の本人もそれを自覚している。
だが、彼女本人も覚えていない幼い頃から、それは起こっていた。
神隠し──古来の日本よりよくあったことで、天狗にさらわれたなどと言われる。主な対象は、幼い頃子供や若い娘が多いが、稀に愚鈍な男も隠されるのだとか。
大抵の場合は2、3日してひょっこり帰ってくるが、当人に話を聞いてもうろ覚えのことがほとんどで、真相は常に不明であった。
個性が一般化した近年では、専らそういった「性癖」と、幸か不幸か活用できてしまう「個性」とを併せ持ってしまった、嗜好の怪しい人間による犯罪というのが増えつつあるが
それでも時折、科学的に証明ができないような、不思議な現象は度々起こっているのだ。
鈴木 雪は一般人だが、幼い頃からよく神隠しに遭っていた。その都度、両親と祖父母は、目を血眼にする勢いで探し回っていたが、1日経てば何事も無かったかのように戻ってくるのだ。
最初の頃は血の気が引くような心境で、何をしていたのかと本人に詰め寄っていた、だがしかし、そう問うたところで幼子の頭では理解できているわけもなく「たのしくあそんでた!」とニコニコしていたのだという。もしくは「よくわからない、なんでだろう?」と首を傾げることもしばしば。
幸運にも、それらは彼女が歳を重ねる事に落ち着き、小学校を卒業する頃にはすっかりなりを潜めていた。
これらの話は、全て祖父母や両親から聞いた話であり、雪本人は全くと言っていいほど身に覚えがない。
そのため、その話を聞く度に「へー、そんなことあったんだ」と、他人事のように聞き流していたのだった。自身の経験したことだというのに、何処か冒険譚のような心持ちで聞いていたが、小学校の卒業と同時にパッタリと話をせがむのをやめてしまった。
そしていつしか、その話をすっかり忘れていったのだ。
中学も卒業し、高校生デビューを果たしたある日。
同じ学校に入学したクラスメイトと談笑しながらの下校中、いつもならば通りすぎるだけの商店街を、なんとなしにと皆で見回りをしてみた。
世界的に流行した流行病のせいで、人通りが少なくなり寂れてしまった商店街。地域に貢献だなどと言って、皆で果物屋のおばちゃんから好きな果物を買ったり、揚げ物屋の試食をもらったり、激安服飾屋でお揃いのアクセサリーを買ったりと、まるで特別な何かに引き寄せられるかのように、寂れた商店街の奥へと進んでいった。
最後に立ち寄ったのは、店の敷地すらない小さな占いの店。
それは机と椅子、水晶玉だけのシンプルなもので、近くには手書きの「占い」という看板が立っていた。
最早店と呼んでもよいのか疑問な佇まいではあるものの、その店の亭主の存在感は異様な程大きく、逆になぜ今まで気づかなかったのかと目を剥くほどであった。
「占いだってー」
「ほんとだ、こんなとこにあったんだ」
「どうする?順番に占ってもらう?一回百円だって!」
「うわめっちゃ安い!どうせだから占ってもらおうよ」
「さんせ〜、じゃあ私から先ね!」
誰が先に占うのかはすぐに決められた。
皆が皆、思い思いに占って欲しい内容を告げ、占い師である老婆は静かに話を聞き、水晶玉をじっと見つめて話を始める。
憧れの人と付き合えるのか。誕生日にもらえるプレゼントは何か。〇〇君に彼女はいるのか。ウン年後にどんな仕事に就けているのか、自分の個性はどこまで伸びるのか等々……一つ一つ丁寧に応えてくれる老婆に、クラスメイトたちは皆喜んだり、落ち込んだり、真剣な顔になったりと、真摯に受け止めていた。
そして最後、雪が老婆の向かいに座り、視線を合わせた時だった。
雪が何かを話す前に、老婆は「嗚呼」とため息をつき、彼女に話しかけた。
「あんた、随分と陽の気が強いねぇ。
なになに……ふむ、そうか、お前さん、前世では随分と『徳』が高かったみたいだ。
だからきっと、神さんたちもあんたが可愛くて仕方がなかったんだろうねぇ。めんこいめんこいって、つい隠してしまったんだろう。
あんたの血が少し特殊なのもあるけど、神さん達はみぃんな遊びたがりだから」
何故、と目をパチクリさせる雪。その老婆が話す内容は、明らかに神隠しのことを指している、だが雪は、その話を家族以外の他人に話すことなど、一切していない。話すことを家族に禁じられていた、というのもあるが、面白い冒険譚は自分の中だけに仕舞っておこうという秘密主義からなるものだった。
それを、こうも簡単に言い当てられるなんて…。その衝撃は、薄れかけていた過去の話を、その出来事を思い出すのに充分なものであった。
目を見開く雪をよそに、老婆は話を続ける。その様は、幼い頃の雪に、よく言い聞かせようとしていた祖母の姿にそっくりだった。
「神さん達は気まぐれだけど、あんたに害意があるわけではないさ。
でも……そうさね、もしかしたら、そう遠くない内に、また呼ばれるかもしれない。
大丈夫、怖がらなくていい。あんたが願えば、きっと神さん達は助けてくれる。
でも、助けてもらったら、しっかりとお礼はしなさいな。信仰深くなくとも、神さんたちにとっては、あんたから貰えるお礼だけで充分なんだからね。」
呼ばれるとはどういうことなのか、助けてくれるとはどういう状況になったらなのか、それを聞く前に、老婆は水晶玉を箱に仕舞い。「占いはこれで終わりだよ、あんまり暗くならない内にお帰り」と言った。
優しい口調であるはずなのに、それ以上の質問を許さないような雰囲気に口を閉ざす。各々支払いを済ませてお礼を言い、いつも通りの帰路へとついた。
その日、雪は不思議な夢を見た。
男とも女とも、大人とも幼子ともわからぬ、人の声のようで、不思議な音色のようにも聞こえる音に誘われ、白い世界をフヨフヨと彷徨っていた。
足元もおぼつかないほどの浮遊感に、まるで雲の上にでもいるかのような錯覚を覚え、その気持ちよさに微睡み、身を委ねていた。
【いこう、いこう】
【おいで、こちらに】
【わたしたちのもとへ】
「……わかったよ」
何かに手を引かれるかのように、グイと体が引き寄せられる。嗚呼何故だろう、私はこの感覚を知っている。
何故か懐かしい思いを胸に、雪はその音に誘われるがまま、夢の中を彷徨った。
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