幸せアイス
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中間考査が終わって、校内の空気は軽く、はしゃいだものに一転した。編入生としてそこそこの成績だったことに安堵した私は、青春を謳歌している。アニメでは見られない彼らの練習風景を堪能し、どうでもいいことで絡み解析度を上げる。氷帝独自のカリキュラムの恩恵を受けて、学生生活をやり直す。お金に糸目がないのを良いことに、買い物三昧。
……異世界転生楽しくなってきた!
氷帝の至る所に施された植栽が好きだ。交流棟にあるカフェは、カウンターの目の前に可愛いハーブ園がある。どこかのクラブが漢方会社のアドバイスを受けて育てていて、カフェではそこで育ったハーブティーをいただけるのだ。
……はあ、幸せ。
小夜とランチを食べない日は、ここへ来て本日のおすすめハーブティーと軽食をいただく。片手には榊文庫のお気に入りシリーズ。優しい日の光を浴びて、ふっと一息ついたときだった。
「あの……先輩……先輩っ」
か細い声で名前を呼ばれて、慌てて振り向いた。立っていたのは女の子三人で、真ん中にいる子は見覚えがあった。誰だったっけ、そうだ宍戸の彼女だ、と思い出したのと同時にその子が泣き始めた。
……えっ⁈
「あの、あの……宍戸くんを盗らないでください」
「え、何の話?」
問いかけに答えることなく、彼女は背中をくるんと見せると走って行った。周りの女の子は彼女の名前を呼びながら追って行ってしまう。
……え? んん? そういうこと? 宍戸の彼女の座を奪わないでってことだよね?
リラックスしているときにあまりにも突拍子のないことを言われて脳の処理が追いついていなかった。なんの誤解だろう、勘弁して欲しいと思いながら、追いかけるべく慌てて席を立とうとしたとき、隣に誰かが立った。小夜かと思って視線を上げると、鳳の彼女だった。全く会いたくない顔だ。
「 SNSでみーんな言ってる。ビッチが宍戸に手を出してるって。余所者さんは知らないだろうけどね」
「……誰かの悪意でしょうね。私、宍戸とは一度も一緒に出掛けたことないから。勿論、水族館は別の人と行ったし。ご存じでしょう?」
……しょうもないなぁ。犯人が自首してくれたのはありがあいけど。
きもいんだよビッチ、と捨て台詞を残して、顔を真っ赤にした鳳の彼女は去って行った。
……こう返ってくるか。宍戸と彼女に悪いことしちゃったな。
鳳と水族館に行ったことの応報がこんな風に帰ってくるとは思わなかった。冷めてしまったハーブティーが、喉に冷たい。「ひどい」「前に跡部様に」「遊んでる」嫉妬、悪意、興味本位の囁きが背後からざわりとやってきて、お気に入りだった場所が苦い場所へと変わっていく。
……教室に戻ろう。
立ちあがろうとしたとき、後ろから耳を塞がれた。
「っひぁ⁈」
……何っ⁈
振り向きながら見上げる。侑士だということはすぐにわかったけど表情は見えない。体はこちらに向けたまま、後ろを見ている。
……あったかいな、侑士の手。
冷えていた耳たぶに、大きな手のひらの温度が心地いい。ずっと触れていたい気持ちを抑えて、その温もりを外す。
「侑士?」
整った顔が振り向き様、鋭い目つきだったのにどきりとする。見上げた先、眼鏡の向こう側と視線が合うと、瞳が柔らかに細められた。
「おう。暇そうやな、ぼっち飯」
「別に暇じゃないしぼっちでいいし……」
……あれ?
柔らかな耳当てをとった先は、変なことが起こる前のいつものカフェの音で満ちていた。正確には、私の周囲だけしんと静まり返っている。遠くの席からたまたま通りかかった人が、不思議そうに辺りを見回して行った。
……多分侑士が何か言ってくれたんだ……守ってくれたのか。
喧騒を払ってもらえたことなのか、守ってもらったなんて自分のお姫様思考のせいなのか、よくわからない戸惑いと気恥ずかしさで頬が熱くなった。手のひらが触れていた耳朶がじんじん熱を持っている。
「……ありがとう」
照れ隠しに笑ってしまうと、侑士はほっとしたように小さく笑った。
……本当に、良い子だよねぇ。
こんなに優しくしてくれたら、私だって沢山優しくしてあげたくなってしまう。侑士と従姉妹という設定も、私の幸運のうちの一つに違いない。
「有名税みたいなもんやな。自分もSNSで反撃するか?」
「アカウント持ってないし、それに別に良いよ、宍戸にだけ謝っとく」
……そして鳳は、彼女の手綱をちゃんととって!
侑士は小さく首を傾げて、ほなええけどと言ってまた穏やかに笑った。もう教室に戻るところだったのだろう、小さく手を上げてカフェから出て行ってしまった。
……あれ……。
私もそろそろ戻りたい。残りのハーブティーを流し込むと、さっきよりずっと甘い味がした。ガラス窓の向こう側のハーブ園も、来たときと同じ明るさでのどかに芽吹いている。侑士のお陰で、この場所を嫌いにならずに済んだ。
……ありがたいなぁ。私に何が返せるかな。
「与えられるもの? 無いな」
開口一番そう言われて、体の力が抜けた。跡部様は美しい所作でティーカップに口をつける。それだけで周囲から小さな歓声が上がった。
放課後、自習ブースで勉強をするのにお供が欲しくて、昼と同じカフェのテイクアウトを買いに行ったときだった。樺地を連れて優雅にヌンティーを決め込んでいる跡部様を発見したのだ。なんだかんだ気安い仲になった宍戸や慈郎と違って、気安い存在になんてなるはずがない跡部様とは接点がない。
……絡みたい、恐れ多い、でも慈郎があぁ言ってたし、推し活したい、でも正直リアル跡部様、怖い。
近づいてみるべきか葛藤してうろうろしていると、鼻で笑われて指パッチンされた。樺地が空いている椅子をひいてくれる。
「この俺様に相談があるようだな。今日は気分がいい、特別に聴いてやろう」
……ああああありがとう跡部様の気分! ありがとう私の挙動不審!
ただ問題は、テイクアウトしたティーラテを片手にあの椅子に座るまでに私の『相談』を見繕わなければならない。今気にしていることといえば異世界転生がこのまま順調にいくかどうかだけれど、ふざけ過ぎている。
そこで、昼に思ったことを訊いてみた。侑士が色々良くしてくれるので、何がお返しできないかなということだ。話すうちに段々と跡部様のお顔が険しくなってきたけれど、途中で「やっぱ無しで」と言える勇気は私には無かった。
ティーカップが置かれて、真っ直ぐに視線が刺さると思わず目を逸らしたくなってしまう。
……相手は中学生、怖くない、怖くない……。
真っ直ぐに見返すと、跡部様は少しだけ表情を和らげた。「お前な」、と苗字を呼ばれ、覚えてくれていたことに感動する。
「お前の中にそれが無い限り、忍足にくれてやれるものなど無いだろうよ。まずそもそも第一に、それを他の男に暴露すること自体間違っている。あいつにも、沽券というものがあるだろう?」
「え! 恋愛相談じゃないよ?」
どうもそっちを匂わされている気がして慌てて否定すると、跡部様の顎が少しだけ上向いた。
「宍戸の恋人と諍いを起こしたと聞いたから、この間の俺様にも一因があるかと思って悩みを聴いてやろうとしたのに……惚気が始まったのかと思ったぜ」
「実際揉めてるのは鳳の彼女とだけどそれはいいの自分でなんとかするから。それに、無いよ侑士と何かなんて。そういうんじゃなくて、同い年の男の子が何して貰うと嬉しいかとか、何が欲しいかとか」
「俺様に『一般』を求めるなよ」
「ぐ……それは、確かにそう……でも侑士だって『一般』とは言いにくいし、跡部とも仲がいいし……因みに跡部だったらどう?」
先に苗字を呼び捨てにされたから私も同じように返してみた。こちらの内心の葛藤なんか知りもせず、跡部は名前呼びについてはスルーだった。
「欲しいもの……新しいジャンボジェットか。シリーズは生産終了しているが」
「それは最新のファンクラブ会報で読んだから知ってる……よ」
……あ。跡部様のファンだって申告しちゃったよ。折角慈郎が助言してくれたのに擬態失敗。
けれど特段の反応は返ってこなかった。会報誌なんて読んでいて当然、という顔で「そうだったな」と頷かれる。
「跡部がそれをどうやって手に入れるかは、ちょっと気になる」
「ほう?」
「ただお金積むだけじゃなくて、作り手がワクワクするようなこと考えてくれるんじゃない?」
学園祭も、中学テニス祭典という樺地への誕生日プレゼントも、京都リノベーションも、跡部がそういう人だということは全世界の雌猫が知っている。「まだ内緒だが」と、長い人差し指が形の良い唇に添えられた。
「プレスリリースしたら詳らかに教えてやろう。楽しめるかどうかはお前次第だがなぁ」
「全力で乗っかれるようにする。楽しみにしてるね」
楽しそうに笑う跡部はなんて綺麗で、なんて強そうなんだろう。ジャンボジェットを新調したい理由を聞きながら、自分だったらどんな企画を思いつくかなんて雑談をしていると、ふと、跡部は笑った。少しだけ柔らかく、温かく。
「信念を持って努力しているやつを見るのは嫌いじゃない。お前、励めよ。これも縁だ、俺様の目に止まる限り、見ていてやる。ともに切磋琢磨して高みを目指す。それが俺様が女性に望むことだ」
「質問の答えになっているか?」と、目を細める跡部に、答え以上のものを貰った気がしてゆっくり頷いた。
跡部の視界の片隅に映ることがあるのだということを知ってしまったら、頑張らない雌猫なんて居ないし、頑張れないことなんか何一つ無いと思うのだ。
……異世界転生楽しくなってきた!
氷帝の至る所に施された植栽が好きだ。交流棟にあるカフェは、カウンターの目の前に可愛いハーブ園がある。どこかのクラブが漢方会社のアドバイスを受けて育てていて、カフェではそこで育ったハーブティーをいただけるのだ。
……はあ、幸せ。
小夜とランチを食べない日は、ここへ来て本日のおすすめハーブティーと軽食をいただく。片手には榊文庫のお気に入りシリーズ。優しい日の光を浴びて、ふっと一息ついたときだった。
「あの……先輩……先輩っ」
か細い声で名前を呼ばれて、慌てて振り向いた。立っていたのは女の子三人で、真ん中にいる子は見覚えがあった。誰だったっけ、そうだ宍戸の彼女だ、と思い出したのと同時にその子が泣き始めた。
……えっ⁈
「あの、あの……宍戸くんを盗らないでください」
「え、何の話?」
問いかけに答えることなく、彼女は背中をくるんと見せると走って行った。周りの女の子は彼女の名前を呼びながら追って行ってしまう。
……え? んん? そういうこと? 宍戸の彼女の座を奪わないでってことだよね?
リラックスしているときにあまりにも突拍子のないことを言われて脳の処理が追いついていなかった。なんの誤解だろう、勘弁して欲しいと思いながら、追いかけるべく慌てて席を立とうとしたとき、隣に誰かが立った。小夜かと思って視線を上げると、鳳の彼女だった。全く会いたくない顔だ。
「 SNSでみーんな言ってる。ビッチが宍戸に手を出してるって。余所者さんは知らないだろうけどね」
「……誰かの悪意でしょうね。私、宍戸とは一度も一緒に出掛けたことないから。勿論、水族館は別の人と行ったし。ご存じでしょう?」
……しょうもないなぁ。犯人が自首してくれたのはありがあいけど。
きもいんだよビッチ、と捨て台詞を残して、顔を真っ赤にした鳳の彼女は去って行った。
……こう返ってくるか。宍戸と彼女に悪いことしちゃったな。
鳳と水族館に行ったことの応報がこんな風に帰ってくるとは思わなかった。冷めてしまったハーブティーが、喉に冷たい。「ひどい」「前に跡部様に」「遊んでる」嫉妬、悪意、興味本位の囁きが背後からざわりとやってきて、お気に入りだった場所が苦い場所へと変わっていく。
……教室に戻ろう。
立ちあがろうとしたとき、後ろから耳を塞がれた。
「っひぁ⁈」
……何っ⁈
振り向きながら見上げる。侑士だということはすぐにわかったけど表情は見えない。体はこちらに向けたまま、後ろを見ている。
……あったかいな、侑士の手。
冷えていた耳たぶに、大きな手のひらの温度が心地いい。ずっと触れていたい気持ちを抑えて、その温もりを外す。
「侑士?」
整った顔が振り向き様、鋭い目つきだったのにどきりとする。見上げた先、眼鏡の向こう側と視線が合うと、瞳が柔らかに細められた。
「おう。暇そうやな、ぼっち飯」
「別に暇じゃないしぼっちでいいし……」
……あれ?
柔らかな耳当てをとった先は、変なことが起こる前のいつものカフェの音で満ちていた。正確には、私の周囲だけしんと静まり返っている。遠くの席からたまたま通りかかった人が、不思議そうに辺りを見回して行った。
……多分侑士が何か言ってくれたんだ……守ってくれたのか。
喧騒を払ってもらえたことなのか、守ってもらったなんて自分のお姫様思考のせいなのか、よくわからない戸惑いと気恥ずかしさで頬が熱くなった。手のひらが触れていた耳朶がじんじん熱を持っている。
「……ありがとう」
照れ隠しに笑ってしまうと、侑士はほっとしたように小さく笑った。
……本当に、良い子だよねぇ。
こんなに優しくしてくれたら、私だって沢山優しくしてあげたくなってしまう。侑士と従姉妹という設定も、私の幸運のうちの一つに違いない。
「有名税みたいなもんやな。自分もSNSで反撃するか?」
「アカウント持ってないし、それに別に良いよ、宍戸にだけ謝っとく」
……そして鳳は、彼女の手綱をちゃんととって!
侑士は小さく首を傾げて、ほなええけどと言ってまた穏やかに笑った。もう教室に戻るところだったのだろう、小さく手を上げてカフェから出て行ってしまった。
……あれ……。
私もそろそろ戻りたい。残りのハーブティーを流し込むと、さっきよりずっと甘い味がした。ガラス窓の向こう側のハーブ園も、来たときと同じ明るさでのどかに芽吹いている。侑士のお陰で、この場所を嫌いにならずに済んだ。
……ありがたいなぁ。私に何が返せるかな。
「与えられるもの? 無いな」
開口一番そう言われて、体の力が抜けた。跡部様は美しい所作でティーカップに口をつける。それだけで周囲から小さな歓声が上がった。
放課後、自習ブースで勉強をするのにお供が欲しくて、昼と同じカフェのテイクアウトを買いに行ったときだった。樺地を連れて優雅にヌンティーを決め込んでいる跡部様を発見したのだ。なんだかんだ気安い仲になった宍戸や慈郎と違って、気安い存在になんてなるはずがない跡部様とは接点がない。
……絡みたい、恐れ多い、でも慈郎があぁ言ってたし、推し活したい、でも正直リアル跡部様、怖い。
近づいてみるべきか葛藤してうろうろしていると、鼻で笑われて指パッチンされた。樺地が空いている椅子をひいてくれる。
「この俺様に相談があるようだな。今日は気分がいい、特別に聴いてやろう」
……ああああありがとう跡部様の気分! ありがとう私の挙動不審!
ただ問題は、テイクアウトしたティーラテを片手にあの椅子に座るまでに私の『相談』を見繕わなければならない。今気にしていることといえば異世界転生がこのまま順調にいくかどうかだけれど、ふざけ過ぎている。
そこで、昼に思ったことを訊いてみた。侑士が色々良くしてくれるので、何がお返しできないかなということだ。話すうちに段々と跡部様のお顔が険しくなってきたけれど、途中で「やっぱ無しで」と言える勇気は私には無かった。
ティーカップが置かれて、真っ直ぐに視線が刺さると思わず目を逸らしたくなってしまう。
……相手は中学生、怖くない、怖くない……。
真っ直ぐに見返すと、跡部様は少しだけ表情を和らげた。「お前な」、と苗字を呼ばれ、覚えてくれていたことに感動する。
「お前の中にそれが無い限り、忍足にくれてやれるものなど無いだろうよ。まずそもそも第一に、それを他の男に暴露すること自体間違っている。あいつにも、沽券というものがあるだろう?」
「え! 恋愛相談じゃないよ?」
どうもそっちを匂わされている気がして慌てて否定すると、跡部様の顎が少しだけ上向いた。
「宍戸の恋人と諍いを起こしたと聞いたから、この間の俺様にも一因があるかと思って悩みを聴いてやろうとしたのに……惚気が始まったのかと思ったぜ」
「実際揉めてるのは鳳の彼女とだけどそれはいいの自分でなんとかするから。それに、無いよ侑士と何かなんて。そういうんじゃなくて、同い年の男の子が何して貰うと嬉しいかとか、何が欲しいかとか」
「俺様に『一般』を求めるなよ」
「ぐ……それは、確かにそう……でも侑士だって『一般』とは言いにくいし、跡部とも仲がいいし……因みに跡部だったらどう?」
先に苗字を呼び捨てにされたから私も同じように返してみた。こちらの内心の葛藤なんか知りもせず、跡部は名前呼びについてはスルーだった。
「欲しいもの……新しいジャンボジェットか。シリーズは生産終了しているが」
「それは最新のファンクラブ会報で読んだから知ってる……よ」
……あ。跡部様のファンだって申告しちゃったよ。折角慈郎が助言してくれたのに擬態失敗。
けれど特段の反応は返ってこなかった。会報誌なんて読んでいて当然、という顔で「そうだったな」と頷かれる。
「跡部がそれをどうやって手に入れるかは、ちょっと気になる」
「ほう?」
「ただお金積むだけじゃなくて、作り手がワクワクするようなこと考えてくれるんじゃない?」
学園祭も、中学テニス祭典という樺地への誕生日プレゼントも、京都リノベーションも、跡部がそういう人だということは全世界の雌猫が知っている。「まだ内緒だが」と、長い人差し指が形の良い唇に添えられた。
「プレスリリースしたら詳らかに教えてやろう。楽しめるかどうかはお前次第だがなぁ」
「全力で乗っかれるようにする。楽しみにしてるね」
楽しそうに笑う跡部はなんて綺麗で、なんて強そうなんだろう。ジャンボジェットを新調したい理由を聞きながら、自分だったらどんな企画を思いつくかなんて雑談をしていると、ふと、跡部は笑った。少しだけ柔らかく、温かく。
「信念を持って努力しているやつを見るのは嫌いじゃない。お前、励めよ。これも縁だ、俺様の目に止まる限り、見ていてやる。ともに切磋琢磨して高みを目指す。それが俺様が女性に望むことだ」
「質問の答えになっているか?」と、目を細める跡部に、答え以上のものを貰った気がしてゆっくり頷いた。
跡部の視界の片隅に映ることがあるのだということを知ってしまったら、頑張らない雌猫なんて居ないし、頑張れないことなんか何一つ無いと思うのだ。