6話
夢小説設定
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式典から数か月後、その日はレングランド学院の恒例行事である校外学習が行われた。最終学年を除く全生徒と引率の教員がいなくなることから、防犯のために人の出入りが著しく制限される。ロッタは生徒たちがマルジュ高原に滞在する三日間をネグロ侯爵邸で過ごすことにした。
麗らかな春の日という言葉が思い浮かぶような朝だった。カーテンを通り抜ける光に自然と目が開く。ロッタはベッドの中で寝返りをうち、ぼんやりとカーテンの隙間を見た。研究と講義で忙しく、何も考えずに過ごす時間は久しぶりだった。彼女がしばらくそうしていると規則正しく三回のノックが聞こえ、返事をする前にドアが開く。それが出来るのは一人だけ。彼女専属のメイドである、ミモザだった。
ミモザは「おはようございます、お嬢様」とお辞儀をしてしゃんと背筋を伸ばす。そして彼女のお嬢様がまだベッドにいるのを見ると目を丸くした。
「珍しいですね。普段はすっかりお目覚めになって椅子に座っていらっしゃる頃ですのに」
「今日は休みだから……」
「さては夜更かししましたね?」
ミモザの気配が変わるのを察し、ロッタはようやく身を起こす。講義に出るようになってからというもの、彼女は夜遅くまで勉強することが増え、そのたびにミモザにたしなめられていた。その時間はロッタにとって苦痛以外の何物でもない。というのも、ミモザは身支度の間、夜更かしがいかに健康や美容に悪いかを延々と話し続けるのである。
「お嬢様、今は、よく食べ、よく動き、よく寝るのが重要な時期なのですよ」
「ちょっと待って。わたし、昨日は夜更かししてないわ。本当よ」
このままではミモザの『早寝早起き講座』が始まってしまう。ロッタは素早い動きで床に降りた。
「そうですか? それならよろしいのですが……」
ミモザは小首をかしげて彼女を見たあと、いつも通り支度を始めた。部屋の外に控えていた数人のメイドを呼ぶと、彼女たちは紅茶の用意をしたり、カーテンを開けたり、手際よく作業する。ミモザは鏡台の前に腰を下ろしたロッタの後ろに立ち、彼女の真っ直ぐな橙の髪を丁寧に梳いていく。これは何故かミモザのお気に入りの仕事らしく、初めてその役目に就いてから何があっても代わろうとしない。
「三日間はレングランドにいらっしゃらないのですよね?」
「ええ。どうして?」
「今朝、ジョンから聞いた情報があるんです」
「ジョン?」
「ひと月ほど前に新しく入った従僕です。エリック様付きの方なんですけど、彼によると、エリック様も今日と明日は屋敷でお過ごしになるそうですよ」
鏡越しにロッタとミモザは目を合わせた。王宮に行かずとも、ネグロ侯爵の代理としてするべき仕事は山ほどある。そのエリックが二日も屋敷にいるとなると目的は限られてくる。
「いいことを聞いたわ。今日はちょうど散歩日和だし、兄様と遠出してみようかしら」
「髪は一つにまとめましょうか? 下ろしますか?」
自分のことのようにはしゃぐミモザの姿は出会った頃のままだった。そして彼女は必死に隠しているようだが、レディ付きのメイドとして毎日勉強していることをロッタは随分前から知っている。それも彼女を重用する理由の一つだった。
「じゃあ顔の周りだけ編んで」
「かしこまりました!」
ミモザの声は心地よく部屋に響いた。