5話
夢小説設定
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聴講生とはいえ学院に入る際には他の生徒たちと同様、制服や就学に必要なものはすべて支給される。十代半ばで上級の授業を受講しているロッタは、傍から見れば成績優秀かつそれなりの家庭出身の、言わば選ばれた存在のように映るのだ。彼女は周りの勘違いにひどく気まずい思いをしながらも、出来る限りの知識を吸収しようと密かに決意を固めた。
「ロッタ!」
授業が終わると同時に横から声を掛けられ、後片付けをしていた彼女は右を向いて微笑む。
「こんにちは。まさか同じ授業を受けているとは思いませんでした」
「僕もだよ。後ろから『クラリス・ネグロです』って聞こえてきたときは、同姓同名の別人かと思った」
ユアンの茶化すような言い方に彼女は声を上げて笑う。
「今日からだって言ってたから、どの道授業が終わったら連絡しようと思ってたんだ。僕とフレイルと一緒に昼食でもどう? ってね」
「よろしいのですか?」
「もちろん!」
彼は人懐っこい笑みを浮かべる。その明るく純粋な性格は天性のものなのだろう。周りの人間は彼に安心や信頼を抱き、心を開く。それはロッタでさえ例外ではなかった。
「あ、そうだ」
前に出そうとしていた足を急に止めた彼を、ロッタは首をかしげて見つめる。
「何か忘れてると思った。ロッタ、敬語禁止」
「……ああ、それですか」
「ルーナがいいんだったら僕もいいってことだよね。第一、フレイルには初めから普通に話してるくせに」
同い年の少年に駄々をこねられ、彼女は何とも言えない気分になる。エアデルトではルーナの愛らしさに押し負ける形で言葉遣いを改めさせられた彼女だったが、帰国後、それを聞かれたユアンとアマリーからも会うたびに同じ待遇を迫られていた。アマリーは何とか説得することが出来たが、ユアンはまだ諦めていないようだ。
「一度根付いてしまった習慣はそう簡単に改められるものではないのですよ。それに公の場では敬語、敬称をつけるではありませんか。普段からしておくのに越したことはありません」
「だけど、ルーナには完全に敬語外してるよね?」
「……」
それを言われると返す言葉がない。
「それに殿下に対してだって『リュシオン様』って呼んでるし。公の場では『王太子殿下』でしょ?」
それも言われると苦しい。
「……言い分に穴があるのは分かりました」
「じゃあ……!」
「とりあえず、食堂に行きましょう。きっとフレイルが待っていますよ」
ロッタは無理やり話題を変えた。その行動自体が礼を失しているのだが、ユアンは不満げな顔をしながらも指摘することはない。彼女が初めて会った頃よりも随分気軽な態度を取ってくれることに、ユアンはもちろん、リヒトルーチェの兄妹たちやリュシオンも悪い気はしていなかった。まだ気の置けない間柄と呼べるまでには壁が厚いようだったが。
今度こそ意気揚々と歩き出したユアンを前に、ロッタはあることに気が付く。
彼女が学院に入ってから気になっていた不躾な視線。以前ランデンを探してレングランドに来た際、一回り以上年上の生徒たちに囲まれたことがトラウマになっていたのか、講義中も慣れることはなかった。しかしユアンと話すうちにいつの間にか頭の中から抜け落ちていたのだ。
(もしかしてユアン様、わたしのことを気遣ってくださった……?)
「この時間だと生徒が集まってるから、ここで一度連絡してみるよ」
「えっ、あ、はい」
ユアンは突然立ち止まった。そしてボーっとしていた彼女に構わず<遠話>の魔道具でフレイルに連絡を取る。
「生徒が多かったから食堂で取るのは諦めて、校庭に出たらしい。僕たちも適当なのを買って外に行こうか」
「購買ですよね」
「ロッタは初めての購買かあ」
彼女は小さくうなずいた。