20話
夢小説設定
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しばらく取り留めのない話が続いた後、お茶会はルーナの『新作』の試食会に移行した。
公爵邸内に作られたルーナ専用の厨房。そこに並べられた様々な菓子を目の前にして、ロッタは思わず感嘆の声を上げる。以前から話に聞いていた厨房を見たいという彼女たっての希望により、ルーナとロッタは自ら菓子を取りに来ていた。彼女たちだけでは持ちきれないだろうと、ジーンとユアンも一緒である。
「早く戻らないとね。フレイ、捨てられる子犬みたいな顔してたし」
リュシオンとフレイルは部屋で待機しているが、そのときのフレイルの様子は緊張を全身で表現したようだった。そんな様子を見てリュシオンが心なしか人の悪い笑みを浮かべていたのはきっと気のせいではない。
「だけどルーナ、持つと崩れそうで怖いわ」
ロッタが指さしたのはシュークリームだった。クリームの上にちょこんと乗せられたシュー生地が、彼女にはどのように固定されているのか分からないのだろう。両手で恐る恐る皿を持つロッタに、後から厨房に入ってきたジーンが小さく笑みをこぼしながら近づく。
「大丈夫だよ。これはそんなに簡単に崩れるものじゃないから」
「そうなんですか?」
「ほら」
ジーンは何でもないように皿を持ち上げる。彼女は何度目か分からない感嘆を上げた。
「ジーン兄様とロッタって、結構仲いいよねぇ」
それを近くで見ていたユアンは、ルーナにこっそり耳打ちする。いつものようにおっとりとした口調で、ただ見たままを口にしたようだ。ルーナも同様に素直にうなずきかけて、――首をかしげた。二人の様子をじっくり観察する。
「ジーン様はこの菓子を食べたことがあるのですか?」
「似たようなものを一度。だがこれは生地の色が違うな。何かが練りこんであるのかもしれない」
ロッタは目を丸くしてシュークリームをまじまじと見つめる。誰といるときよりも気楽な様子で、表情が分かりやすく変化する。
(確かに仲いいよね)
「普段からこんなに美味しそうなものを食べられるなんて、羨ましいかぎりです」
「君が菓子を好きだとは思わなかったな。今度から試食会があるときは声をかけるよ」
「それに参加するのは、ちょっと図々しすぎる気がします」
ロッタの言葉にジーンは眩しそうに目を細めた。
(いやいやいや。それはわたしの願望が入ってるのかも。でもありえなくはない、よね)
偏った見方をしないよう気を付けながら、ルーナはもう一度兄を見る。しかし何度見ても彼の視線は、他の令嬢に向けられるものとは別物なくらい柔らかかった。
(……というか、ありえすぎるんじゃない!?)
するとルーナは今までの二人にも思い当たる節があったような気になってきた。アマリーの婚約式、レングランド、エアデルト……。二人でいるところは度々見たが、その全てが
(いつからなの? いつからなの、ジーン兄様!)
彼女の中では疑問はほとんど確信になっていた。胸がいっぱいになって、はしゃぎたい気持ちが湧き上がってくる。本人たちのあずかり知らない所で、ルーナは勝手に盛り上がっていた。
「ルーナ?」
思考の波に飲み込まれようとしていた彼女を現実に引き戻したのはユアンだった。返事のない彼女を覗き込むように見つめる。ルーナの葛藤とは裏腹に、何も気づいていなさそうなユアン。彼女は慌てて首を振った。
「何でもない。わたしはこれを持っていくから、ユアン兄様はそれをお願いね」
「分かった」
彼女は心底アマリーが恋しくなった。しかしこの時期、アマリーはエストランザ伯爵領に行っていて、
(こうなったらやっぱり、コーデリアかな)
新たな恋のお話到来の予感に、友人に話すのが待ちきれず、ルーナはいつになく上機嫌になった。
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