19話
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ルーナは、人のことに関しては、勘が鋭かった。
アマリーの結婚式から約一年。だんだんと姉のいない邸にも慣れ、生活に余裕が生まれてきた頃のことだった。
その日はレングランド学院からリヒトルーチェ邸に帰ってきたルーナとユアン、そして珍しくジーンの三人が集まっていた。政務に携わるようになってからというもの、根が真面目なジーンはリュシオン以上に忙しく働いている。そんな彼の身を心配して、リュシオンは彼のためだけに休暇を取ることがあった。昨日もジーンが王宮に行くと、『明日は休みを取ったから来るな』と言われたらしい。
彼の多忙を知っているユアンとルーナは、若干不満げな本人とは反対に、リュシオンの厚意に感謝のしようもない。彼からジーンの休暇日程を内密に聞き出すと、それに合わせて彼らの共通の友人を邸に招くことが日課になっていた。具体的にはフレイルとカインである。時々王宮を抜け出したリュシオンがそこに加わることもあった。
ロッタは、婚約式から二か月後に行われたアマリーの結婚式に出席したその足で、エリックと共に王都を出た。何でも、エリックの調子が随分快方に向かったため、二年間たまっていた領地の管理の手伝いをしに行くという。レングランドで
「ルーナ、朝からそわそわしてるね」
落ち着きのない彼女をからかうように、ユアンはクスリと笑みを浮かべる。ルーナは少し恥ずかしそうにした後、開き直ってユアンに微笑んだ。
「だって、久しぶりにロッタに会えるんだもん」
数日前にライデールに戻ったと知らせを受けてから初めての対面だ。魔道具で頻繁に連絡は取っていたものの、実際に会えるとなると浮足立つのも無理はない。ルーナは同意を求めるようにジーンを見た。
「ジーン兄様も楽しみでしょ? 領地だけでも各地を回ったって言ってたし、たくさんお土産話があるかも!」
「そうだね。長いような短いような一年だったな。だけどルーナ、そんな風に詰め寄ったら、ロッタはきっと気おくれしてしまうよ」
その言葉でようやくルーナは落ち着きを取り戻した。しかしその落ち着きはメイドが来客を知らせるまでだった。すぐ通すようにと伝えるルーナに、ユアンとジーンは苦笑する。
「リューかあ」
「なんだそのあからさまにがっかりした声は」
居間に入ってきた人物を見てルーナは肩を落とす。一国の王太子をこれほど雑に扱えるのはクレセニア広しといえども彼女だけである。一見すると不敬罪で捕まりそうな発言だが、周りの使用人たちはいつものことのように受け流していた。
「おまえが楽しみにしてたのはこいつか?」
続くリュシオンの言葉でルーナはハッと入口を見る。
彼が扉を開けた先に、見覚えのある友人の姿。秋の夕日のような髪と、静かな薄茶色の瞳を持つ女性が目を細めて彼女を見ていた。軽く微笑んでルーナを見る彼女は清艶を極めたようである。一年前には僅かに残っていた少女の面影も鳴りを潜め、すっかり大人の女性になっていた。ルーナは少しの間放心して、徐々に明るい表情になる。
「何だかドキッとしちゃった」
「一年ぶりに会う友人に、最初にかける言葉がそれなの、ルーナ?」
「会いたかった!」
彼女はロッタに駆け寄ってそのまま抱きつく。ロッタもそれを受け入れるように両手を広げて抱きとめた。見た目の変化とは裏腹に、言葉を交わせばすぐに一年前と同じ関係に戻る。遠くに行ってしまったと感じた彼女が、中身を見ればそれほど変わっていなかったことにルーナは内心安堵する。
(だけどこんなに綺麗になっちゃったら、周りの人たち、近付くに近付けないんじゃないかな)
そして心の中で見当違いな心配をするのだった。