18話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その後、指輪の紛失が発覚し、招待客全員で庭園を探し回るという騒動があったものの、精霊たちの協力によって無事に婚約式を終えた。
宴のあと、いつもよりひっそりとしている広間で、リュシオンはアマリーたちや両家の夫妻が招待客を見送る様子を遠目から眺めていた。招待客たちは高揚がまだ抜けきらない表情で、主催者たちに笑顔で言葉を交わし、次々と帰路につく。その中には今日の騒動で注目を浴びることになってしまったエリックやロッタ、ツェリ子爵もいた。ロッタはアマリーにとって気が置けない間柄のようで、主催者としてではなく、友人として気軽に話しているように見える。
フレイルは貴族たちが帰りだす前に一足先に邸を出た。広間にはリュシオンの他に、ジーン、ユアン、ルーナ、カインが残っている。
「ツェリ子爵、どのような方でしたか」
後ろから聞こえた声に、リュシオンは視線だけをそちらに向けた。ジーンは前エストランザ伯爵夫妻と話すツェリ子爵をじっと見つめている。
「身内、という感じだった」
「エリック殿にとって?」
「どちらにとってもだ。ロッタのことは本当の身内だから気にかけるにしても、エリックに対してはそんな義理はないはずだ。しかし幼いころからの知り合いらしく、エリックの信頼も得ているようだった」
リュシオンの分析に、ジーンは顎に手を当てて考え込む。
「つまりツェリ子爵は、ネグロ侯爵家の一派に属しているということですか」
「……いや」
それに関しては断言できない部分があった。というのも、ツェリ子爵の発言からして、エリックのように積極的に政治に関わろうとはしていないからである。
「『あなたがどこで何をしようと一向に構いませんが、こちらに火の粉が降りかからないようにしてください。それと、今度会うときは妹病を治してから来るように』と、エリックに言い放っていたからな」
口を開けば嫌味のオンパレード。陶器人形のような見た目をしているくせに、中身が毒々しかった。直後、ロッタが子爵に礼を言いに来たが、一転して紳士的な対応をしていた。彼女はすっかり騙されている。
「ロッタの身内にまともなやつはいないのか。俺が言うのもなんだがひどすぎるぞ」
「それに関しては以前から私も思っていました。……しかし子爵は彼とは違う意味で食えない方のようですね」
「ああ。だが、こちらから手を出さなければ向こうから攻撃してくることはない。中立を保ちたいという思惑は伝わってきた。それに対してエリックがどうこうするつもりもないようだ」
ジーンは小さくうなずいた。ロッタの母親の実家ということで、ネグロとも手を組む危険があるかもしれないと思っていたが、今のところその心配はないようだ。
「先ほどの騒動で、王妃の件はネグロとは無関係だと多くの貴族が思ってしまったでしょう。これは、彼が王妃を切り捨てる覚悟を決めたと見てもいいのでは?」
ずっと心にあったわだかまりをジーンに言い当てられ、リュシオンは押し黙る。エリックの急所がロッタだけであることを考えると、利益どころか損失をもたらしかねない王妃と一族をいつまでも癒着させておくのは、彼の望むところではないだろう。しかしそれは一旦進むと後戻りできない道である。彼がこのタイミングで始めたのはなぜなのか。
「あいつの中では布陣がすでに完成しているのかもしれないな」
「はい。しかしどう考えてもロッタが心配です」
冷静にエリックの行動を分析していたときとは打って変わって、ジーンの声は温かかった。そこに言い知れぬ違和感を覚え、リュシオンは顔ごと彼の方を向く。
「ジーン、おまえ……」
「何でしょうか」
「……いや。エリックは恐らくロッタを巻き込もうとは思っていないはずだ。あとはロッタ自身が首を突っ込まなければいいんだが」
「しかし彼女は目的があれば関わることをためらわないでしょう。例えば、王妃を遠ざけようとするエリック殿に対して、王女殿下を擁護するよう働きかけるかもしれません」
勘違いのような、そうでないような違和感の正体を、リュシオンははっきり掴むことはできなかった。どこか嫌な予感を覚えながら、続くジーンの発言に耳を傾ける。