17話
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王妃が消えるとすぐに、男は公爵家の私兵に連行された。
犠牲者こそ出なかったものの、婚約式は中断されたまま再開できる雰囲気ではない。神官の取り成しがあっても、先ほどの王妃と男の一幕まではフォローしきれないのだ。
「まだいらっしゃったのですか、ヴィンセント伯爵」
ざわざわと落ち着きのなかったテラスで、壮年の男性がわざとらしく声をあげた。庭園でロッタに話しかけてきたデスデイン伯爵だ。彼は時世を味方につけたような態度でエリックに近付く。しかしエリックは彼の挑発的な態度にも紳士に対応する。
「これは、デスデイン伯爵。ご無沙汰しておりました」
「ご無沙汰でしたかな? しかし話す時間もないのは残念ですな」
「というと?」
しらを切るエリックに伯爵は余裕の表情を曇らせる。テラスに集まっていた招待客はしんと静まり返って話の行方を見守った。
「私は、親切心から、貴方にご提案しているのですよ。早々に立ち去るべきなのでは?」
伯爵は言葉の一つ一つに念を押すように力を籠める。王妃が醜態をさらして立ち去った以上、エリックも肩身が狭いだろうと信じて疑わないような素振りだ。実際、伯爵ほどではないが、周りの貴族たちの中には、疑いの目で彼を見ている人間がちらほらと見受けられた。
しかしエリックをよく知っている人間からすれば、これくらいのことで彼が動揺するとは思えなかった。特に離れた場所でそれを見ているアイヴァンやジーン、リュシオンは、むしろデスデイン伯爵に呆れた視線を向ける。
「立ち去る理由がございませんよ。それとも伯爵は、私が今回の騒動に一役買っていると主張なさるおつもりですか?」
やましいことなど一つもないとエリックは暗に訴える。その堂々たる発言に、貴族たちは驚きに目を瞠り、同時に一つの考えが思い浮かんだ。
――この事件はネグロとは関係のない、王妃の独断によるものではないか。
考えてみれば妥当なことのように思われた。思慮の浅い王妃とは違い、エリックは用意周到な人間である。こんなに分かりやすい騒動を起こすはずがない。
(実に愚かだな。ここで証拠もなく挑発して、何がしたかったんだあいつは……)
勢いのままに言葉を並べて結局自分の首を絞めているデスデイン伯爵に、リュシオンは呆れを通り越して憐れみの念を抱く。このままエリックが会場に残ったとしても、こうして無実を白日の下に主張させなければ、招待客たちの中に多少の疑念が残せたというのに。
「お話がないようですので、私はこれで失礼いたします。ロッタ、行こう」
「失礼いたします、デスデイン伯爵」
招待客を代表してエリックを責め立てようと息まいていた伯爵は、それが失敗に終わったことに気づく。彼は硬くこぶしを握り締めると嫌味の矛先をロッタに変更した。
「見れば見るほどお美しい妹君ですな」
用件は済んだとばかりに歩き出そうとしていたエリックが、その瞬間、ピタリと動きを止めた。ロッタは心配そうにエリックを見上げたが、相手が伯爵である以上無下にはできない。伯爵は得意満面に言葉を続ける。
「さぞご自慢でしょう」
「……ええ」
「しかし、子爵令嬢からネグロ侯爵夫人になった母親と同様のことを妹君にもさせようとは、よく考えたものです。その周到さを見習わなければなりませんな」
その言葉は、ロッタがリュシオンやカイン、ジーンたちと交流を持っていることに対する
「今、何とおっしゃいましたか?」
「ですから……」
それでも穏やかな口調を崩さないエリックに業を煮やし、デスデイン伯爵は再度口を開く。しかしあとの言葉は続かなかった。